第13話 封印の森
隠れ家を出た私とアークは、魔導書に示されていた封印の森を目指した。
それはとても遠い場所だったけど、力を授かったアークなら、どうってことない距離なんだそうだ。
アークも以前は重力に逆らうように跳ねていたのに、今は鳥が滑空するように空飛んでいる。おかげで私も快適に空の旅を楽しむことが出来た。
「ミナ! もうすぐ到着するぞ」
「え?本当に?」
私は遥か地上を見渡したが、一面、緑の森だらけ。とても何か遺跡があるようには思えない。
「アーク、本当に合ってるの?見渡す限り、木ばっかりよ」
「何言ってんだ。わかりやすい場所に隠す奴はいないだろ」
「そりゃそうだけどさ……」
「まあ、着いて来なって」
そういうと、アークはゆっくりと降下していった。私はジッと目を凝らしながら下を観察する。すると、森の中にぽっかりと穴が開いたような場所が見えて来た。
「あ!あそこに広場があるよ!」
するとアークがフフンと鼻を鳴らした。
「あそこが封印の森さ。そこに猫みたいな岩があるだろ?その裏に……従魔が封印された祠があるのさ」
「封印されている従魔の子って……どんな子かアークは知ってるの?」
するとアークは小さく首を振った。
「ううん、俺も初めて会うんだ……」
アークの様子は……なんだか少し不安気な感じがした。
「アークなら大丈夫よ……心配しないで」
アークは小さく頷くと、ゆっくりと地面へ着地した。
「だといいけど」
アークはそういうと、私を地面へ下ろしてくれた。
そこは大森林のど真ん中と言っていいほどの、森の奥地だった。
「ミナ、猫岩はこっちだ」
私は頷いて、アークの背中を追った。
ところが猫岩の裏へ行ってみると、地盤沈下でもあったのか、地面にポッカリと大きな穴が開いていた。穴の中を覗いてみると、それは光が入らないくらいの深さがあって、底まで何メートルあるのか、まるでわからなかった。
「こりゃ、ひどいな。祠の入口も崩れてしまってる」
「どうするの?アークの重力操作で降りてみる?」
するとアークはウーンと唸った。
「ちょっとだけ、様子を見て来るよ。危ないから、ミナはここで待っていてくれ」
「え?あんた一人で大丈夫なの?」
「何言ってるんだ。お前を連れて行く方が危険だろ」
アークは暗い穴の中を覗きこんだ。そして手の平を広げて上へ掲げた。
「ライト!」
するとアークの頭の上に、明るい球状の光が現れた。
「わあ、すっごい!」
私が感心していると、アークは振り返った。
「ミナはその広場で、魔法の練習をしてろ」
「えー、私だけ練習?」
「練習はしなきゃダメだろう」
「魔導書を読んだんだから、使えるんでしょ?」
「使えるには使えるけど、相性ってものがあるんだよ。同じように発動しても、うまく発動できるものと、そうでないものがあるんだ。それを色々試してみて、自分の得意な魔法を伸ばしていくってわけさ」
「なんだ、なんでも出来るわけじゃないのね」
「まあ、とりあえずは防御力の高い土魔法からやってみたらどうだ」
それを聞いて私は不服をもらした。
「土魔法なの?なんか地味ね?」
「バカ、地味とか言うな。土魔法使いに怒られるぞ」
「ヘヘヘ、ごめんなさい」
「土魔法は土壁を作ったり、土の槍で攻撃したり色々と便利な魔法なんだ。ちょっと見てろ」
そういうと、アークは手の平を前に差し出す。
「アースウォール!」
すると、瞬時に地面から土が盛り上がって来て、アークの前に壁が立ち上がった。
「アースランス!」
今度は地面から、竹のような太さの土槍が、地面から10mほど飛び出して止まった。
「っていう具合にな……壁で身を守ったり、近寄ってくる奴に槍を突き差したり、足止めしたりできるってわけだ」
「ほえ~すごいね……」
「どうだ、見直したか」
「でもやっぱり地味ね」
「おい!」
アークはズッコケそうになりながら、私を見上げた。
「でも、でも!」
私は足をドンドン踏み鳴らした。
「私、もっと派手な魔法がいいわ。例えば雷魔法みたいにね」
「はぁ?雷魔法だって?」
アークは大笑いする。
「あのな、あれは派手かもしれないが、なかなか扱いが難しい魔法なんだぜ」
「そ、そうなの?」
アークは頷いた。
「だって考えてみろよ。雷っていうのは、強い風の力で氷の粒がぶつかりあってできる静電気なんだぜ……それが放出されて雷になるわけだろ」
「はあ……難しいことはわからないけど」
「簡単にいうと、水魔法、風魔法の二つが使えないと、雷魔法はうまくいかないんだ」
「ああ……私の雷魔法!」
私は膝をガックリとついた。
「そんなに雷魔法が使いたかったら、泥に電気を流して飛ばせばいいだろ。とにかく、初心者は土魔法からだ」
アークの馬鹿にしたような態度に、私は腕を組んで抗議した。
「アーク、今あんた私を馬鹿にしたわね?」
「してねえよ」
「いや、した!」
「してないって!」
アークは手を降って立ち上がった。
「とにかくお前はそこで練習してろ! 俺が帰ってくるまでに、土魔法だけはマスターしておくんだ。いいな!」
アークはそういうと、真っ黒な穴の中へ飛び込んで行った。
「あーーっ! アーク! 逃げるなてめえ!」
私は叫んだが後の祭りだった。
私は腕を組んでほっぺを膨らませた。
「もう!」
そして、大きなため息をひとつ吐くと、土魔法の練習を始めることにした。
「しょうがないなあ……それじゃ、土魔法でも練習するか……」
それで、やり始めて驚いたのだけど……。いとも簡単にアースウオールやアースランスを出せたのである。
「あは!私天才なんじゃない?」
どうやら私には土魔法の才能があったようだ。これには私も気を良くしてしまった。
調子に乗った私は、雷の魔法を試してみることにした。ところが魔法を発動しようとすると、これはまるっきりうまくいかない。
「どうして? 天才の私が……どうして雷魔法を放てないのよ!」
元々魔力量が多いからか雷は発射できた。だけどコントロールがサッパリ駄目。
狙った所へ雷が落ちる事がないのだ。
「なんで当たらないのよ、もう!」
私は地面をバンバンと踏んだ。
「当たらなければ……どうということはない……って言われちゃうわ!」
私はガッカリしてその場にへたり込んだ。
ふてくされた私は、指先をピストルのような形にして森の奥地に向けると、指先に魔力を集め始めた。
「食らえ!サンダーボルト!」
すると私の指から発射された雷は、バン!というものすごい音を立てて飛び出し、
高速で森を駆け抜け、何かに当たってドーン!という大きな音を立てた。
「おっ!今度は割と真っ直ぐに飛んだんじゃない?」
私は思わず笑みをこぼした。
だが、それはすぐに恐怖へと変わった。
森の奥から、イノシシのような、巨大な生物が現れたからである。
「あ、あれぇ……」
そして、そのイノシシの額には、黒く焼け焦げた筋があるではないか。つまり、私の魔法はイノシシの額を掠ってどこかへ飛んでいったのだ。
「ブモオオオッ!」
そのイノシシは怒って、私に向かって突進してきた。
「あ、当たらなければ、どうという事はないでしょ?!」
私はその大イノシシに追われて、後ろも振り返らずに森の中へと逃げ込むのだった。




