残念美人侍女
マリィさんが僕の身辺のお手伝いを始めて、早いことに一週間が経った。マリィさんは特に問題なく働いてくれている。そもそも難しい仕事は頼んでいないし、ぶっちゃけ僕の周りに待機しているだけの時間が多いので、問題など起こる気配もないのだが。
そんな僕の少しだけ変わった、それでもほとんど変わり映えしない日常に、最近一つの変化が訪れた。
(うーん。あんまり美味しくない)
はっきり言って、味付けがダメだ。塩辛いし香りがないし、なんか硬い。
僕の対面に座るエルザ様に視線をやると、エルザ様も俯きがちに箸を進めている。多分僕と同じ感想を抱いているのだと思う。
白米に目玉焼き、さらには焼き魚という、僕からしたらとある国を猛烈に連想させるラインナップであるが、この世界に照らし合わせてもかなり庶民的なものであるのは間違いない。
作ったのはマリィさんだ。それを現在、僕とエルザ様、そしてマリィさんの三人で食べている。
普段僕は執務室にて、一人で食事をしているのだが、エルザ様のある提案で一緒に食事をすることになったのだ。
『私たちは婚約者なんだから、日頃から親愛を育むべきよね?』
『食事はもちろん、日々の執務もお手伝いいたしますわ。きっとジニー様のお役に立てますとも』
僕は察したよね。マリィさんと僕の交わした契約がばれていることを。
マリィさんだけが僕の手伝いをすることをよしとせず、主人が自ら立ち上がる姿は尊敬に値するのかもしれないが、僕の胸中は穏やかではない。絶対に裏がある。
マリィさんを一人働かせるのに気が引けるのか、他の理由があるのかはわからないが、ただ僕の力になり、親愛を育もうとしていないのは明白だった。
そう思っていた矢先である。早速二人は僕の部屋に押しかけてきて、これから定型となるであろう食事会が開かれたのである。
「ジニー様。マリィの料理はどうかしら?」
目玉焼きをおかずに白米を口に運んでいると、エルザ様からとんでもないキラーパスが飛んできた。
と同時に、エルザ様の目的がこれなのだと気づく。彼女は自身の食事環境を改善しようとしている。僕の好感度を犠牲にして!
チラリと、マリィさんの方に視線を向ける。あ、無理だ。なんか瞳をキラキラと輝かせている。多分これは、僕からのお褒めの言葉を待っている。あかんやつや。不味いなんて口が裂けても言えない。
「え、ええ。とてもおいしいですよ?」
「本当ですか!?良かったです!」
真っ直ぐに向けられる瞳から、逃げるように視線を逸らす。おい、そこのお嬢様。今明らかにがっかりしたような表情を浮かべただろ。
「これからは毎日、私がお二人の食事をご用意させていただきますから」
そんな宣告がマリィさんより告げられる。
ここ数日、マリィさんと接してみてわかったことがある。ここは無礼を承知に、あえて断言させてもらう。
彼女はいわゆる、残念美人というやつだろう。
顔、スタイル、見た目はどの部分を切り取っても最上級。エルザ様と並べても遜色ない、素晴らしい美人と評することができる。
だけどなんというか、所作のところどころに毒が混じったり、今回はまさかのメシマズだったりした。いつか掃除のバケツをひっくり返して、中の水を頭からかぶるというファンタジーすら観測できそうな、そんな雰囲気があるのだ。
今回のエルザ様の提案に対しても、「ジニー様とエルザ様の仲が深まれば、私としても助かります」と真面目な顔して言っていた。天然なのか?ただの残念な子なのか?完全にエルザ様にばれてますよあなた。多分後で僕は呼び出しをくらって、お金の話になるんですけど?
「ジニー様?この後、お時間をいただいても?少し二人でお話ししたいことがありますの」
「ええ、もちろんでございます。ちょうど私も、エルザ様にお聞きしたいことがあったのです」
侍女をそっちのけに、お互いに牽制しあう婚約者コンビ。おい、ニコニコするな残念侍女。ご主人様に詰められる僕の気持ちになってくれ。




