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無為な輪廻に花は咲く  作者: 枕元


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7/12

契約

 使用人皆殺し宣言より一晩が経った。今日も今日とて、いつも通りの執務をこなしている僕のところに、珍しい来客があった。そもそも僕宛の来客自体、普段から多くはないのだが。


 「ジニー様。おはようございます」

 「ええ。おはようございます、マリィさん」


 彼女はエルザ様に侍るのが常なので、こうして一人で城内を行動していることも珍しい。無論24時間行動を共にしているわけではないだろうが、それこそ彼女が僕のもとに訪れる理由も見当たらない。


 「まずはご報告を」

 「報告?」

 

 「はい。昨日の無礼者は、明朝コンテスト領を出ました。このまま隣国のマリスクリーンに移住する手筈となっております」

 「ああ、そういえば。わざわざ報告してくれてありがとうございます」


 忘れていたわけではないが、半ば興味を失っていたのも事実だ。彼の処遇は彼女が責任を持つと明言していたし、彼女であればよほどのことがなければ、あの状況に限り裏切ることもないだろうから。


 僕のお礼を聞いて、マリィさんは少し罰の悪そうな顔を浮かべた。理由はなんとなく想像がつく。僕のお礼に裏がないか心配なんだろう。


 「ジニー様。改めて、昨日は出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございませんでした」


 彼女が昨日、自分の立場を超えた行動に出たのは事実だ。しかし僕としては、その理由がわからない限り彼女の行動を責めるわけにもいかない。というかエルザ様が彼女の背後にいる以上は、彼女に罰を与えるようなこともしたくないので、僕としては謝られても困るのだ。


 「理由を教えてもらうわけには?」

 「……申し訳ございません。エルザ様のお許しを得ないことには」

 

 「そう、ですか」


 頭を下げたままの彼女は、微かに肩を震わせており、なんとかそれを抑えようとしている様子。仕方もないか。僕が癇癪を起こせば、この場でなんらかの危害を与えられてもおかしくはないからね。


 だからそう言う意味でも、エルザ様がこの場にいないのが気になるのだが。彼女がいれば、僕がマリィさんに危害を加える危険性も下がるから。


 「本当は昨晩には、あの男の追放も手筈が整うはずだったのですが、その、申し上げづらいのですが」

 「ああ、睡眠薬」


 「はい。お嬢様に盛られてしまい……申し訳ございませんでした」


 どんな会話かとツッコミたくなるが、当の本人は大変真面目な表情で、本当に申し訳なさそうにしているのでこちらも口を挟みづらい。まぁ、主従の形はそれぞれだよね。むしろ僕としては、「らしい」なんて思ってみたりして。ファンタジーだからね、この世界基本的に。


 「別にいいですよ。終わった話ですから」

 「…‥ありがとうございます」


 僕の言葉に素直に頷くマリィさん。エルザ様の言う通り、嫌われているというよりは警戒されている感じだね。


 だけどそんな態度が、ふと霧散するような感覚を覚える。きっとそれは勘違いではなく、彼女が意図的に装っていたもので。


 「今までのご無礼も、重ねてお詫びいたします」

 「ええ、かまいませんとも」


 今までのと言うからには、僕に向けてた視線だとか、警戒していたことに対する部分だろう。それこそ本当に気にしていないので構わない。


 「正直に申し上げますと、ジニー様が力を得ただけの無知な青年なのか、そうでないのかを測りかねていたのです」

 「まぁ、あんな出会いだし仕方ないですよね」


 「はい。父の威光に縋り、お嬢様の身柄を得ようとした不届者なら、いっそのこと私がと思っておりました」

 「それは怖い」


 いやほんとに。彼女なら本当にやりかねないだろうし。


 「ですがそうではなかった。ジニー様には知性があり、理性をお持ちでした」

 「お眼鏡にかないましたかね」


 「ええ。少なくともお嬢様は、そう思っていらっしゃるはずです」


 断言しないあたり、まだ言葉にはしていないのだろう。しかしこうして一人で人を寄越すあたり、最低限の信頼は得ることができたようだ。


 彼女の態度からも角が取れて、僕としても非常に接しやすい。


 マリィさんと僕の格を比べると、僕より偉い人の侍従なため、厳密に言えば僕のほうが格が高いが、パワーバランス的には大差ないしね。


 「それで、お話というのは?用件はそれだけではないのでしょう?」

 「そうなのです。ジニー様。実は、折り合ってお願いがあるのです」


 依頼でも要望でもなく、お願いときたか。なんとなく裏がありそうだ。


 「私を、ジニー様の秘書とさせていただきたいのです」

 「僕の、秘書?」


 「はい。もしくは身辺のお世話でしたり、とにかくジニー様の周りでの役割を頂きたいのです」


 怪しい。いくら多少信頼を得たといって、これは僕にとって都合が良すぎる気がする。なんというか、ヨイショされているような違和感がある。


 「ジニー様、裏はございます。2点ほど」

 「あ、やっぱりあるんですね」

 

 「はい。ご説明いたします」


 あ、説明してくれるんだ。もはやそれ、裏ではない気がするが。


 「ここから先、少し失礼な内容を含みますがご容赦を」

 「承知しました」


 「まず一つ目は、王国からの要望にございます」

 「あぁ、なるほどね」


 これは分かりやすい。端的に言えばスパイだろう。いや、自国内の領主を調査するわけだから、普通に調査員か?裏切りではないもんな。やましいことがある方が悪いし。


 「不正とかもしてないし、ご自由にどうぞ?言ってくれれば好きにしてくれていいです。いや、むしろ許可なくやってください。そうした方が潔白を証明できそうだ」


 事実僕は、政治家としては真っ白な存在だ。なぜって?簡単だ。横領とか悪いことのやり方を知らないから。議会では適当に頷いて、それでお給料を頂いているお飾り貴族。それが僕だ。


 「いえ、違うのです。王国が不安に感じているのはそこではなく、ジニー様個人に関する話なのです」

 「僕個人?」

 

 「ええ。具体的に言えば、ジニー様にアッシュ様のような力があり、なおかつ王国への反乱の芽がある状況。それが王国の危惧でございます」

 「あー、そういうことですか」


 「正直に申し上げますと、私が警戒していたことも同じでございます。まぁ私としては、王国というよりお嬢様が心配だっただけですが」

 

 結構はっきりいうのね。でもまぁ、状況は理解した。


 「申し上げにくいのですが、王国の危惧も尤もなのです。ジニー様が実権を()()()理由。それが不明瞭である以上、王国としても警戒を解くことは難しいかと」

 「え、理由なんかないけど」


 「え、はい?」

 「だから僕は、実権を欲してなんかいないんですよ。これ、ちゃんと王国側にも通達したはずですけど」


 父に押し付けられた役割で、父がそうした理由も不明だ。僕は一回普通に断ったけど、なぜか頭に拳骨を一発喰らったため、涙目で引き受けた役割だ。そこに理由なんてなくて、僕はその事実を王国にも明らかにしている。


 「あの話は、本当だったのですか?」

 「え、嘘だと思ってたんですか?」


 「いえ、申し訳ございません。あんな話、信じる人なんていないと思います」

 「あー、まじですか。裏、本当に何もないんだよね」


 でも確かに、僕が王国側の人間なら、素直にその言葉を受け止めることはないだろう。


 「まぁ、調査については分かりました。お好きにしてください」


 彼女としても、断られると王国との板挟みになって大変だろう。僕のサポートについてくれるとなれば、プラスになる部分の方が多いだろうし。

 

 「それで、もう一つというのは?」

 「はい。ジニー様に頂いた役割において、その、お給金を頂きたいのです」

 

 「お給金?」


 まさかのお金周りの話だった。そう言うからには金欠なのだろうか?いやでも、彼女は現宰相閣下の娘だぞ?金欠など、そうそうなるとは思えないのだ。というかそこがなったら国がやばい気がするんだが


 「実は今、お嬢様は実家からの支援を受けられない立場にあります」

 「え?」


 別に彼女は、悪いことをしてこの地にいるわけではない。王太子の思惑においてこの地に左遷?させられているだけで、表立って罪人として祭り上げられたわけではない。だから支援を断ち切るなんてことをしたら、実家の醜聞になりそうなものだが。


 「実はミモザ様の手によって、支援が断ち切られているのです」

 「ミモザ様………………あぁ、妹様ですね」


 「もしかして今、忘れてました?」

 「まさか、そんなわけないですよ?」


 マリィさんにジト目を向けられる。いやだなぁ、場を和ませるジョークですよ。


 「まぁ、ともかく、エルザ様は今、どなたからも支援を得られない立場にいます。ジニー様以外にはという、枕詞がつきますが」

 「これは、困りましたね」

 

 彼女はこう言っているのだ。私がその分働くから、それを理由に責任を取れと。結婚しろとは言わないから、せめて事態が好転するまで金をよこせと。


 「分かりました。エルザ様はこのことを?」

 「知りません。なのでどうか、隠していただけると。実家から支援を得られない状況を把握はされてますが、金銭の管理は私が一任されてますので、言わなければバレません。バレたら面倒なのです。多分私も一緒に働くわ!とか言い出します。それだけは避けなければいけません。あの人、家事とか掃除は全くできないので」

 

 ちょいちょい主人に対する辛辣な言葉が飛び出すが、主人は主人で部下に薬を盛るような人だし、まぁなんかうまくやってるのだろう。


 「表向きはスパイということで、どうかお願いいたします」

 「ええ、承知しました」

 

 僕としても気になることは多いし、彼女が僕にとって近しい存在になれば、それを知る機会も生まれるだろう。


 なんなら今がいい機会だ。


 「妹様については、聞いても大丈夫でしょうか」

 「はい。ですが、私としても語れる事は多くないのです」


 「と言うと?」

 「今回の件、私たちとしても青天の霹靂というか、ミモザ様があのような行動に出たことにおいて、理由が全くわからないのです」

 

 なるほどね。エルザ様としてもミモザ様の行動は突然で、理由は全くわからないと。


 「その、ご実家についての質問は、お嬢様には控えて頂けますか?お嬢様はミモザ様と大半仲が良かったのです。そのため今回の件は、見た目以上に心に傷を負っていまして」

 「ええ、わかりました」


 「ありがとうございます」


 こうして僕とマリィさんの間に、一つの契約がなされた。まぁ、これがただの契約で終わるわけがなく、エルザ様に色々と引っ掻き回されることにはなるのだが。

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