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無為な輪廻に花は咲く  作者: 枕元


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身の丈に合った采配を

 僕が使用人皆殺し宣言をしたのには、当然理由がある。突然脈略もなくそんなことを言ったりはしない。


 「これはひどいなぁ」


 僕が心を込めて育ててきた花たちが、見るも無惨に荒らされていたんだ。


 それに深く傷つき思うままに沙汰を下した、というわけでも実はない。


 僕が腹を立てたのはそこじゃない。


 なんというか、この程度の覚悟で僕を害そうとしてきたことが癇に障ったのだ。


 この程度なら大丈夫だろうと。ナイフを持つ覚悟もないくせに、それでも僕に対する悪意を形にしようとしたその心意気が気に入らない。


 要するに僕は舐められているのだろう。人を殺すことを恐れている、ただのガキだと侮られているのだ。だからこうして、ストレス発散の対象に選ぶことができてしまう。


 果たしてそれは、放っておいていいものだろうか。


 僕に忠誠を尽くさないことも、僕に軽蔑の眼差しを向けることも許せる。だけど中途半端に刃を振り下ろしたことは許せない。刃を振り抜かなかった代償は、やはり払ってもらうべきだろう。


 なんていろいろ言葉を並べてみるけど、僕がするのはあくまで身の丈に合った采配だ。


 僕には権利があって、その力がある。その力を正当に振るうだけ。

 

 犯人に見当はついている。というのもこの花壇のある場所に立ち入ることができるのが、僕とエルザ様(マリィさんを含む)、そしてシェナと城の使用人15名である。まぁ城の使用人は全てシェナの専属と言っても過言でない(他の使用人はとっとと出ていったからね)ので、僕の味方は見事に0人である。


 ともかく犯人探しをして、そいつに相応しい沙汰を下そう。そう思い僕は、食堂に使用人全員と、その主人たるシェナを呼び出した。


 シェナと顔を合わせるのは、誇張抜きでいつぶりかわからない。徹底して僕と接触しないよう隔離されているので、こうして僕から接触を図らない限り、こうして対面することはない。


 先日13歳の誕生日を迎えた彼女は、艶のあるプラチナの髪を肩口に揃え、凛とした表情をしている。流石に王族。僕とは格が違うことが嫌というほど伝わってくる。


 「ご用件は?」


 彼女は短く、ただそれだけを聞いてきた。


 僕も無駄話をするつもりはないので、早速本題に入る。


 「実は今朝、僕の大事な花壇が荒らされていてね。その犯人を見つけるべく皆さんには集まって頂きました」


 気分はミステリー探偵そのものだ。わざとらしく肩をすくめて、役に入りきる。


 「早速尋ねたい。この中に、犯人を知っている者はいるか?」


 使用人たちは各々、隣の人に視線を向ける。当然ではあるが、手を挙げる者などいない。ここで名乗り出る覚悟があるのなら、こんなくだらない悪戯などすることはなかっただろうし。


 「困りましたね。名乗り出てはくれないですか」


 やれやれと、大袈裟な振りで困ってみせる。僕に向けられる視線は、侮り、嘲笑。


 そしてシェナからは、()()を読み取ることができた。


 現状を正しく認識できているのは、どうやら彼女だけらしい。


 残念ながら彼女の懸念通り、沙汰は無情に下される。


 「では侍女長のあなた。責任をとって死になさい」

 「っーーーーおまちくださいっ!ジニー様っ!」

 

 僕の言葉に、いち早く反応したのはシェナだ。


 名指しされた侍女長ですら、状況を飲み込めず呆然としている。あるいは下された沙汰に心が追いついていないのか。どうであれそれは僕に関係のない話だ。


 「な、なぜ私なのですか……?わたくしは、なにも」


 我を取り戻した侍女長は、やっとの思いで口を開く。なぜとは、分かりきったことを聞いてくる。


 「犯人が出てこないので、責任を取れと言っています」

 「そんなっ!いくら領主様といえど、横暴がすぎます!そもそも我らの中に犯人がいると決まったわけでは……!」


 「ええ、だから見せしめです」

 「みせ、しめ……?」


 誰が犯人かなど、心底どうでもいい。文字通りこれは見せしめなのだから。


 仕方ないじゃないか。犯人が出てこないんだから。僕の立場としてはお咎めなしとはいかない。だから城の管理を担っている人間に、僕が責任を取らせるのは当たり前である。


 「僕に人は殺せないと思いましたか?」


 にっこりと、満面の笑顔を振り撒く。もし本当にそう思って、僕を侮っていたとするならばそれは大きな間違えだ。


 「僕は何も、マンサ王国陥落において、部外者なつもりはないんですよね」


 マンサ王国の兵士が鏖殺された事件において、僕に責任が一切ないかと問われたら、そんなことはないと僕は答える。

 

 手を下したのは確かに父だが、僕だって立派な共犯だ。


 「1万6千人余りの殺人に、僕は目を背けてはいない」


 僕はあの場にいたのだから。人が死んでいく光景を、一つ一つこの身に刻んでいる。


 それでいて前に進めている僕はまともだろうか。


 まともだと、自信を持って言うことができる。


 「人を殺して自分が生きていく覚悟なんて、とっくにできていますよ」


 言いたいことが伝わらなくたっていい。

 

 ただ僕は、言ったことは確かに実行するのだと、そう認識してもらえれば問題ない。


 「刃を握るなら、その首を絞首台に賭けろよ」


 僕は淡々と続ける。


 「実行に移すなら、何もかも捨てる覚悟をしろ」


 やるなら、僕を殺さなければいけないのだ。命を奪わなければ、その禍根はいつまでも続くことになる。


 よって僕としては、命を断つことでその繋がりを切らなければいけない。


 これが領主として正しい選択かは分からないし、民衆から支持を得られないことは分かっている。


 だけど僕は世間に興味がないし、あと数年もすれば隠居する身だ。


 それまでに降りかかる火の粉は全力で払おう。ただそれだけのことだ。


 彼らを彼女の側から離さなかったのは都合が良かったからだ。そうすれば彼女は安心して暮らせたし、僕も変な気を使う必要がなかったから。


 でもこうして都合が悪くなってしまったのだから仕方ない。侍女長は確か彼女の腹心だったはずだが、それこそ僕には関係のない話だ。


 「私、が、わたしがやりました」


 そんなことを言ったのは、シェナだった。使用人を庇うその発言は、しかし意味がない。


 シェナ本人は、罰は受けども殺されることはないと、そんな合理的な判断を下したつもりなのだろう。それは事実であるが、依然僕が下す沙汰に変わりはない。


 いや、だったらこうしようか。


 「確かにあなたを死罪にするわけにはいきませんね」


 だったらである。


 「この城の使用人を全員殺そう」


 「なっ、な、なん、で」


 簡単な話である。


 「要は囚われの姫が、領主に叛意を向けた。これって革命ってやつでしょう?」

 「なっ!?違います!これは、その、い、悪戯です!申し訳ございません。どうか、どうかお許しください!」


 まぁ、そう言うしかないよね。悪戯なら笑って許してやらなければ、心が狭いと笑われてしまうから。


 だけど残念だね。僕は頭が悪くて、政治に疎く、歴史を知らない。


 どっからどこまでが悪戯かなんて知らないんだ。だから僕の認識では、それも立派な叛意だ。


 「これは革命だよ。領主が大切にしているものを壊して、君は僕に叛意を示したんだ。それが明るみに出た以上、君に与するものは全員殺す。それは当たり前のことだ」

 「そん、な……」


 13歳の娘に突きつけるようなことじゃないかもしれないけど、君は王族だからね。大いなる権威には大いなる責任が問われるんだ。だから君には、責任を負ってもらうよ。部下の死という責任をね。


 「それじゃあ、話はここまでだ。全員ついてきたまえ。僕が自ら首を落としてやる。ここは汚したくない。そうだね、花壇の目の前がいいかもね。自分たちの罪を見つめながら死にたまえ」


 そう言って部屋を出ようとしたのだが、そこに待ったがかかった。使用人たちやシェナからの抗議は予想していたが、彼女たちへの助け舟が、僕の予想していなかったところから出されたのだ。


 「私が、犯人よ」


 僕の行く末を阻むように立ちはだかったのは、エルザ様とその侍女マリィであった。

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