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無為な輪廻に花は咲く  作者: 枕元


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少女の襲撃

 コンテスト城はお城というだけあって、かなりの大きさである。とはいえただ日々の業務をこなすのにいちいち高いところに登るのも大変なので、普段使用している執務室は比較的低い位置にある。僕の味方は基本的に多くないからね。お飾りの権力者なので、空の王座に踏ん反り返ったりはせずに、大人しくしているというわけだ。


 そんなところに位置する執務室だが、それでもやっぱりそれなりの高さはある。15mぐらいかな?


 僕はその高さを自由落下していた。残った仕事を適当にこなしている最中、()()()()()()()に吹き飛ばされ、僕の体は窓ガラスを突き破った。


 (襲撃!?一体どこからだ?誰が?心当たりが多すぎる……いやそれより着地!)


 巡る思考を一旦隅に追いやり、空中に投げ出された身を守るために意識を集中する。


 心臓より血液と共に全身を巡る魔力に焦点を合わせ、地球とは異なる方程式を世界に顕現させんとする。


 (なっ、エルザ様!?)


 そんな僕の視線の先であった。エルザ様とマリィが僕の花壇の前に屈み、仲良く水やりをしていのである。今日はお昼過ぎに一回あげたからこれ以上は必要ない……なんて言っている場合じゃない!まずい!このままだと僕の魔法に巻き込んでしまう!


 僕は魔法の行使を慌てて停止。最低限の身体強化を魔法で施し、来たる衝撃に身を構えた。


 その時であった。


 「《風》」


 たった一言、エルザ様のその呟きに世界が応えた。


 エルザ様を中心に世界が従ったように、強い上昇気流が発生して、僕の体を優しく受け止めた。体制を立て直した僕は、婚約者様の介助のもと無傷で着地に成功した。


 「助かりました」

 「あら、殊勝な態度ね。私たちがいなければ、一人でどうにかできたでしょうに」


 「いや、お礼ぐらい普通に言いますって」


 エルザ様の言葉に苦笑いで返す。

 

 事実がどうであれ、助けられたのだからお礼ぐらい言う。それにしてもなんでもお見通しとは、流石はエルザ様である。


 「敵は誰?」

 「不明です。油断なさらないように。一体全体何をされたか分からなかったので」


 人を吹き飛ばすとなれば、それこそエルザ様のように風をぶつけるとか、あるいは物を飛ばしてそれをぶつけたりなどが考えられるが、僕を襲った現象はそのどれでもない。僕は予備動作なしでいきなり吹っ飛んだのだから。姿も見せず、トリガーとなる事象もなくだ。


 (サイコキネシス?いや、心当たりがあるな)


 昼にこの城を去っていった少女。あの子ならこんな不可思議な現象を起こすことも可能だろう。


 「お二人は防御を」


 マリィが僕たち二人を庇うように前に出た。


 エルザ様直属の戦闘メイド。こうした場面では確かに彼女は適任だろう。とはいえ彼女に任せきることはしない。一切の油断を振り払い、全力で降りかかる異変に集中する。


 「ここは私が引き」


 受けます。


 そう続けるはずであった、マリィの姿が一瞬にして僕たちの前から消えた。


 「っーー!エルザッ!手をっ!」

 「は、はいっ!」


 僕は一切の迷いなく、差し出されたエルザ様の手を強く握った。


 (転移?それとも抹消?いずれにしろヤバすぎる!)


 無条件に存在を消されると言うなら、はっきり言って対処のしようがない。しかし転移というならば、少しでもエルザ様と一緒に飛ばされる可能性を高めるべきだ。


 僕が一人で飛ばされれば、この場に残されたエルザ様が危険だし、逆の場合は考えたくもない。そもそも対策として有効かは定かではないが、何もしないよりはマシだろう。


 それよりどうする……?敵の姿が見えない以上、辺り一体を吹き飛ばした方が……


 「マリィは生きているわ!落ち着きなさいっ!」

 「っーー了解!」


 彼女も相当焦っていたはずだが、その断定にはきっとなんらかの確信があるのだろう。おそらくは彼女の魔法。いや、彼女のそれも一つの奇跡か。


 ともかくマリィが生きていると分かったのならば、僕たちが生き残って救出すればいいだけだ。


 そう思い、未だ姿の見えない敵に意識を集中させる。


 そんな僕たちの前に草陰から一人の少女が姿を現わした。


 僕が絡まれていた現場に乱入した、あの少女によく似た赤髪。まだ決まったわけではないが、この状況であの子と無関係ということはないだろう。


 「さっきの人は、ひとじちだよ」


 未だ幼さを残す口調で、物騒なことを言い出す少女。その額には、汗の粒が大量に浮かんでいる。おそらくは襲撃は彼女の仕業で、奇跡の行使による魔力不足の兆候だ。


 「だから、おねえちゃんを、かえして」


 マリィを誘拐したその方法は未だ未知だが、それは彼女の幼い体には過ぎた力だったのだろう。彼女の目は虚で、遂にはその体を地面に伏した。


 連れ去られた侍女と謎の少女。事態はさらなる混迷を辿っていた。

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