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無為な輪廻に花は咲く  作者: 枕元


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魔法と奇跡と

 「あら、そんな趣味があったのね」

 「人攫いなんて悪どい趣味があるわけないでしょう。この子は、あれです、拾ったんですよ」


 「変態度合いが少し上がった気がするけれど」


 僕は仕方なしに、路地裏から少女を背負って城まで戻ってきた。できるだけ人目につかないルートで帰ってきたとは言え、それなりの人数に奇怪な視線を受けた。見た目は完全に人攫いだっただろう。エルザ様にもこうして誤解されてるしね。


 赤毛の少女は未だ目を覚さない。年はまだ12歳ほどか?ともかく彼女が目覚めるのを待ち、大人しく帰宅してもらうしかないだろう。


 (そろそろ軍も再編しないとだよなぁ)


 本当だったら街の兵士たちに引き渡して終わりだったはずだ。だけどこのコンテスト領には未だ軍がない。国防?父がいますよ。内乱?父がいますよ。


 街の警備を行う自警団は最近できたが、未だ数も少なく実力もない。それに僕の味方というわけでもなく、正体がバレ次第少女の昏睡を僕の仕業だと断定されかれなかった。だから持ち帰ってきたわけだが、猫じゃあるまいし普通に後悔してる。そりゃ、路地裏に放置するっていう選択肢はなかったけどさぁ。


 「マリィさん、手伝ってもらってもいいですか?彼女の身を綺麗にしてあげてほしい。それとかなり熱がある。治療もお願いしたい」

 「承知いたしました」


 「お楽しみはいいの?」

 「僕をなんだと思ってるんですか」


 近いうちにお互いの認識を改める必要は感じたが、今はとりあえず彼女の手当だ。あの奇跡は相当負担を強いていたのか、背中から伝わる熱は次第と高まっていた。ただの熱ならいいが、命に関わる可能性がある以上油断はできない。


 その点マリィは、おそらく街の医者よりも適任だ。治療や診断も、戦闘メイドの仕事の範疇らしいからね。本当にスキルが偏っているけれど、助かるのも事実だ。


 ひとまずは彼女に任せよう。あれこれ考えるのは、少女が目覚めてからでもいいだろう。


ーーーー


 ここで一つ、魔法について考えてみたいと思う。


 魔法とは、ご存じ炎とか水とか風を出したり、エルザ様のように、いわゆる「千里眼」のような効果を得ることのできるものがある。


 そしてこの魔法という言葉、この世界においては大きく二つに分けられている。それは『魔法』と『奇跡』の2つである。


 一般的に普及しているのが『魔法』で、数も少なく使用できる人間も限られているのが『奇跡』である。


 そもそも魔法とは何か。それは未だ、この世界においても解明されていない。熱心に研究している人々はいるようだが、それもあくまで今後の発展を目指してのこと。その起源や積み重ねはなぜか謎に包まれている。僕個人の考察はともかくだが。


 魔法は才能の差はあれど、基本的に誰でも使える。もちろんその規模は人によって変わるが、練習によって習得できるのが魔法だ。


 しかし奇跡と呼ばれるカテゴリーに属する魔法は、先天的な才能が10割を占めると言われている。できるやつはできるけど、できないやつはどんなに頑張っても無理ってことだ。


 そして魔法と奇跡の区別がどうなされているかだが、端的にまとめると「結果を得るための手段」か「結果そのもの」かだ。


 例えば極寒の大地で暖をとることを目的としよう。


 魔法であれば、まず風を操り無風のフィールドを作り出す。そして安全地帯の中で炎を生み出し、体温を上げる。こんな感じだろう。もちろん方法はなんでもいい。とにかく大事なのは、結果を得るための過程があり、その過程を経るための手段が魔法というわけだ。


 しかし奇跡は違う。奇跡を使用すれば、暖をとるという結果のみを得ることができるのだ。ただその権能を行使するだけで、体温を保つことができる。


 炎を用意してその結果体温が上がる。


 奇跡を行使すれば体温が上がる。

 

 得られる結果が同じでも、その過程をすっ飛ばすことのできる奇跡の異常性は高い。


 何より、物理現象にとらわれない。


 何もないところから炎が出てくる世界なので、物理も何もないのだが、それでも奇跡は魔法と比べて大いなる力と言っていい。


 執務室に用意された簡易的なベットに、身を清められた少女が横になっている。大いなる力を身に宿した少女は、一体どれほどの自覚を持ち合わせているのだか。


 マリィさんによれば、魔法行使による魔力切れによる一時的な昏睡で間違いないようだ。しばらくすれば目を覚ますだろう。


 (家族はどうしてるかな。あまり心配をかけるのは忍びない)


 正直な話、奇跡の使い手であることに驚いたり、自分が領民から支持されていない等の理由はあれど、勢いで連れて帰ってきてしまったのは否めない。当然彼女の行動に恩を感じているわけではないが、あの場に放っておく選択肢は流石になかった。


 「んん……ここは……?」

 「おお、もう起きたか。良かった良かった」


 ゆっくりと体を起こした彼女は、見知らぬ風景に目を凝らしながら、現状の把握に努めている。


 「あなたは……もしかして、あの路地にいた?」

 「ああ、あのあと君が気を失ってね。悪いがここまで運ばせてもらった」


 なんとなく自分の状況を掴めたのだろう。彼女はほっとしたような表情を浮かべた。はたしてそれは、自分の身の安全が確保されていたからか、はたまた僕を救うことができたと言う安堵か。


 一つ、試そうか。


 「僕の名前は、ジニー・コンテストだ」

 「っーー!?」


 あー、当たりか。


 「流石にこの名は知ってるよね?ここの領主の一人息子だ。もっと言えば、ここはその根城だね」


 僕が名乗った途端に、彼女の身が明らかに強張った。それを僕に悟られた時の表情は、まるで「しまった」と言わんばかりである。


 あらゆる可能性を想定していたとはいえ、これは下から数えた方が早そうな展開ではある。


 「2つから選んでくれ」

 「ふた、つ?」


 「ああ。このまま僕を助けた()()を受け取るか、何もなかったことにしてこのまま黙って城を去るかだね」


 僕の正体を知って、なおかつここが領主の根城だと理解して、それに危機感を覚える奇跡の使い手。


 そりゃ困惑だったり、僕や僕の父への嫌悪感を浮かべるのはわかるけど、彼女のそれは少し違う。彼女は警戒した。何かしらの目的を持つ者でないと、持ち合わすことはないであろう危機感。それが彼女にはあった。


 まず考えられるのは、現政権への反対組織。これが一番可能性が高い。あるいはシンプルに、僕達への仇討ちを願う者。


 後者は違う気がする。もしそうなら、この場で襲ってきてもおかしくないし。


 とならば前者なのだが、そうなると少し厄介だ。この件を理由に、その動きを活発にしてきてもおかしくない。


 簡単な話だ。僕が少女を攫ったとか言えば、大義名分の出来上がり。半分事実みたいなものだし、彼女がそう証言すれば組織にとっては十分だろう。


 父の威光が現在、どこまで反対勢力の足枷になってるかは不明瞭だ。どこに行ったんだあの人。頼むから仕事をしてほしい。


 だから僕としては、文字通り無かったことにしたい。お前の正体について追及しないから、大人しく今日のところは帰ってくれという取引である。


 僕としてはデメリットしかない提案だけど、まぁ個人的に目の前の少女に恨みもなければ、なんなら一応助けてもらった身である。敵の可能性があるとはいえ、人道に反するよりはマシかなー程度のことである。


 「帰り、ます」

 「そうか、送りを用意する。もう少し休んでおけ」


 そう言って僕は、少女を残して執務室を出る。監視は必要ない。あの人が今もその目を光らせているはずだから。


 「後はおまかせを」

 「はい。お願いしますね」


 僕とすれ違うようにマリィが入室する。あとはマリィに任せておけば、彼女は無事に帰路に着くことができるだろう。

 

 (甘いんだろうけどなぁ)


 選択として間違いなのは理解してる。だけどどこか反対勢力も国勢も他人事に思えてしまうのだ。もちろん僕が、この先この領を背負って立つ地位にいないこともあるが、正直人から恨まれたとしても、そんなこと言われてもと考えてしまう。


 だから今回、不幸な巡り合わせで出会ってしまった彼女とも、今後二度と出会わないことを願っている。僕らが関わったって、いいことなんて何一つないのだから。


 とはいえこうして残した芽は、早々に花咲くことになる。


 少女が城を去ったおよそ1時間後のことだ。

 僕は奇跡の使い手たる少女によく似た、赤髪の子供に襲撃されるのであった。

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