試験だよ!
がんばって痩せたのは、よいのですが!
「服、だぼだぼになった……」
下着まで落ちてくるんですけど──!
うれしい悲鳴? なんか違う? なキーアの肩を、ヨニがぽふぽふしてくれる。
「ぜんぶ新調するお金が、残念ながらございませんので、ほどいて縫いなおしましょう」
にこにこしたスーパー執事ヨニが、今のキーアにあうように服を直してくれました!
裁断されてるのも、かっこよく縫いあわせてくれたよ!
「すごい!」
体重最盛期なキーアの服1着で、ニューキーアの服が2着と下着ができた。
……やばすぎる……
悪役令息なネィトに、ごめんという気もちしか湧き起こらない……!
せつない。
いやここは、服がいっぱいになってよかったと思おう!
ヨニが綺麗に縫い直してくれた服を着てみました。
「おお! キーアおぼっちゃま! 凛々しくなられて!」
ヨニが涙ぐんでくれる。
「いやこれはかわいーって言うんじゃ?」
トマが首を傾げてる。
「かっこいーでお願いします!」
モブだけど!
願望ね!
痩せるのと一緒に、鍛錬も頑張りに頑張りに頑張りました!
必死で特訓してたら、あっという間に大公立学園、騎士科の試験だよ。
「受かるといいですねえ!」
何でもこなしてくれる従僕兼、料理長兼、御者兼、厩番兼、剣術講師トマが馬車を出してくれる。
「落ちて当然だと思うけど、まあ頑張ったし! 魔法科も併願にしておいたから、頑張ってくるよー!」
剣術とか武芸は大抵有名な騎士とかに教えを乞うのだけれど、そんなお金はキピア家にはなかった!
公都の高い野菜を買うお金が勿体なくて、家庭菜園をしてるくらいだからな。
なので剣を教えてくれたのはトマだよ。園芸主任もトマだ! スーパー従僕トマ!
「ありがとう、トマ!」
ぶんぶん手を振ったキーアは馬車を降り、試験会場の大公立学園の闘技場へと向かう。
騎士科の試験が先にあって、魔法科の試験は一週間後だ。
平民も優秀なら無料で大公立学園に通えるので、受験生はいっぱいいる。
──ここで主人公に逢うかも!
どきどきしながらぴんくの髪を探したけれど、それっぽい人は見当たらない。
ネィトも魔法科希望みたいだし、主人公もやっぱり魔法科なのかな?
きょろきょろしてたのが、よくなかったらしい。
──ドン
衝撃が降ってきて、あわてて振りかえる。
「ごめんなさい!」
青磁の長い髪が、さらりと流れた。
切れあがる青磁の瞳がわずかに見開かれてキーアを見る。
白い騎士服が細い腰と長い手足を彩るようにひるがえる。
「わー! すごい! レォだ! いー匂いする! 髪、さらっさらだ!」
攻略対象、人気投票第二位!
長い髪が『……うーん』っていう人と『最高!』っていう人に分かれちゃったんだけど、短かったら第一位を争ってたのかなー?
長髪イケメンキャラ枠で凄まじい人気の騎士さま、レォだ──!
「きゃ──!」
歓声をあげて拍手してから、はっと気づいた。
……これ、ロデア大公国だから生温かい目でスルーしてもらえるかもしれないけど、勢いで呼び捨てちゃった! ネメド王国だったら首が飛んでた!
あわあわするキーアの前で、ぶつかられた受験生に『いー匂いする!』叫ばれて拍手されたレォが、ぽかんとしてる。