ほんき!
身体の芯がしびれるようなレォのあまい声に、とろけかけたキーアは、あわてて首を振った。
「はー、初撃を防がれちゃうと、分がわるいよ。さっすがレォ」
全力で加速した初撃で、はちまきを切る計画が、失敗しました。
──団体戦開始直後で、びっくりしてるレォを隙をつく。
これが唯一、レォに勝てる策だったのに、さっそく頓挫しちゃったよ!
超絶ハイスペックな攻略対象レォさまに、顔も名前も声もないモブが、勝てるわけない。
でも、キーアはこの世界で生きていて、ちゃんと顔も名前も声もあって、レォと笑ったり、闘ったりできる。
『勝てるわけない』思ったら、絶対勝てないから。
『絶対、勝つ』思うだけで、闘志がみなぎる。
最初に考えてた計画が全然だめで、失敗したら、プランBだよ。
いや、全く何にも考えてなかったから、ただもう頑張るしかないよ!
ギリギリ鋼を削る、交わる刃を見つめたキーアは、ちいさく笑う。
「胸を借りるつもりで、いくね。よろしくお願いしまーす!」
重なる剣から、力を抜いた。
突然、全力で剣を交えていた相手が引いたのに、微塵も体勢を崩さないレォは、さすがだ。
すぐに追撃しようとするレォより速く
トン
かろやかに大地を蹴り、空中で旋回する。
「お頭、いっけえ──!」
初撃に失敗したのが見えただろうに、キーアの背中を守るように、皆が盾を掲げてくれる。
キーアの突撃に励まされたのか、レォに殺到しようとした白組の皆を、切れあがる青磁の瞳が、睥睨した。
レォが闘気を開放する。
ヒュァアア──!
威圧された突撃隊の皆が、硬直した。
ほとばしる殺気に、刃で首をなでられたように、一瞬で、動けなくなる。
正面からレォの威圧を受けたキーアは、双剣を構え、笑った。
レォが、ちょこっとでも本気になってくれる。
入学試験のときにも、相手の騎士にしたように。
たぶん、キーアへの礼儀として。
ちっちゃいから、弱いから、あなどることなく、ちゃんと真剣に相対してくれる。
それが、たまらなく、うれしい。
ギィン──!
突撃するキーアの双剣を、レォの長剣が止めた。
シャシャシャシャシャ──!
剣が鳴る。
両の手で繰りだすキーアの双剣を止めるには、レォは2倍の速さで剣を振るわなくてはならない。
なのにレォが掲げる重いはずの長剣が、紙のように振るわれ、キーアが繰りだすすべての刃を防ぎきる。
……ついてくる。
レォの速さと胆力に目を剥いたキーアの唇が、吊りあがる。
「加速」
つぶやいた瞬間、全身の筋肉が爆発する。
ギアが上がる。
刃の軌跡が、目に見えぬほど速く、風を斬る。
「く──!」
わずかに刀身をひいたレォの剣が、一閃する。
ドォオオオンン──!
すさまじい衝撃波が押し寄せるのを
トン
大地を蹴ってかわした。
「でやあ──!」
空中に跳んで、身動きがとれぬキーアへと、レォの剣が迫る。
わかっていたキーアは、笑った。
空中に跳ぶ。
それは、すべての攻撃から逃れる法に見えるが、的になってしまう法でもある。
特に、相手が強い場合は。
『実戦で使えるようになるためには、空中で自在に身体を使えなくてはなりません!』
拳をにぎるトマに教えてもらったキーアは、ぽかんとした。
『トマ、忍者なの?』
『……にんじゃ?? とりあえず師匠のトゥヤは、化け物でした。師匠には全く全然微塵も及びませんが、教えてもらったことは、ちょこっとできるようになったんです』
にこにこしながらトマが教えてくれた。
空中で、身体を自在にあやつるコツを。
大気に魔素が満ちている、この世界だからこそできる技だと思う。
自分の魔力で、魔素をあやつる。
魔法じゃないから、ゆるされると思うな!
レォが、ちょこっと本気を見せてくれたように
トマが鍛えてくれたから
キーアも、本気でゆくのです。
というわけで、魔力解放、必殺技、発動です──!




