おかしい
「わかった。じゃあ、レォひとりを討ちとるための作戦を立てよう」
キーアの言葉に、集まっていた白組の皆が、ぽかんと口を開けた。
「…………は?」
「模擬戦がはじまった直後に、レォを討つ。長々と恐怖にふるえるより、一瞬で終わったほうがいいだろ?」
「…………は…………?」
「俺が出る。レォと闘う。
だから皆は、余波にだけ注意してればいい。目の前の敵の紐を奪うことだけを考えて」
残念ながら、今はちっちゃな胸を叩く。
「一瞬で終わるかもしれないけど、そのほうが気が楽だろ?
戦なんて、頭だけがやればいいんだ。たくさんの人が傷つく必要なんて、微塵もない」
あんぐりしていた皆が、顔を見あわせた。
「……レォさまと、闘ってくれるのか」
つぶやく声が、ふるえてる。
まるで魔王と戦いにゆく、無謀なEランク冒険者の死を恐れるように。
「皆がやりたくないことをやる、責任をとるのが、上に立つ者の役目だろ。
指名されちゃったからには、がんばるよ!」
ちっちゃな拳をかかげるキーアに、どよどよんだった生徒たちが、顔を見あわせた。
「……レォさまを止めてくれるなら、その間だけ、戦えばいい……?」
「キーアがレォさまに負けたら、それで試合は終了なんだよな?」
「一瞬だけ、死に物狂いで戦えばいいのか」
皆の目に、生気が戻ってゆく。
「レォさまと闘ってるキーアの後ろから仕掛けてくる敵がいるかもしれんな」
「そういうのを俺らが止めればいいんだろ」
「キーアは足が速いんだよな?」
「足の速いので突撃隊を組もうぜ。盾になれるのも、死に物狂いで走れ!」
元気がでてきた皆に、キーアは告げる。
「『絶対に負ける』思ってたら、戦いにさえならない。
『絶対に勝つ』思ってたら、勝てるかもしれない。
負けたら恥ずかしいとか、みっともないとか、笑われるとか、そんなの何にも考えなくていいんだ。
顔も知らない誰かのことなんて、微塵も気にしなくていい。
胸を張って『絶対勝つ!』言っていいんだ」
キーアはちっちゃな胸を張った。
「あのレォさまに勝つなんて、すごくね?」
皆が、顔を見あわせる。
「……れ、レォさまに……?」
「お、俺らが……!?」
「……か、勝つ……?」
不敵に、キーアは唇をつりあげた。
「絶対、勝つ!」
「お、おぉ──!」
「や、やってやる!」
「キーアを守って、闘うぞ!」
皆の闘志が、噴きあがる。
「よーし、そろそろ団体戦をはじめるぞー!」
先生の声に、それぞれの能力を確認し布陣を考えていた皆が顔をあげる。
「おお、もうはじまりか」
「お頭を突撃させて、何とか背中を守れるようにがんばるぜ!」
皆が胸を叩いてくれる。うれしい。
しかしなぜか、キーアの呼び名が『おかしら』になったよ。
おかしい。
ガチムチ騎士な先生が、手を挙げる。
「よし、青組の将レォ・レザイ、白組の将キーア・キピア、前に来て握手するように!」
「はーい!」
ちょこちょこ前に出たら、ひとつに束ねた長い青磁の髪をなびかせてやってきたレォが、眉をさげた。
「……キーアの組、いいなあ」
すねたみたいに呟くレォが、めちゃくちゃかわいいです!
「今度は一緒の組になれたらいいね」
ちょっと熱い頬で、ふわふわ笑う。
BLゲームをしてた時からずっと大すきなレォと闘うなんて、申しわけない気もちと、わくわくする気もちで、どきどきする。
「ほら、握手!」
先生にうながされて、レォの手をにぎる。
ぎゅ
ぎゅうう
握りかえしてくれる手が、ごつごつで、あったかい。
「正々堂々? がんばるから」
見あげたら、レォの瞳が澄みわたる。
「たのしみにしてる」
夏の空みたいに、笑ってくれる。




