きーちゃんです
キーアは闇以外をとらえられない目を瞠る。
人間の言葉じゃない。
魔法科の試験のときに必死で覚えた精霊語でもない。
ふしぎな音が頭の奥に響いて、意味になって胸に落ちる。
ぴょこんとキーアは跳びあがった。
「わあ! はじめまして! キーア・キピアです。あなたは、闇の精霊さん?」
『……キーぁ?』
「前世は紀太です。愛称は、きーちゃんです!」
濃密な闇が、ちらちら揺れる。
『……きー?』
「はい!」
目の前の闇が、ほのかに揺れた。
『……ぼくのこと、こわく、ない……?』
「いきなり力を貸してくださいとかお願いする、初対面の人間に、激おこにならないでくださるなんて、めちゃくちゃおやさしいと思います!」
ふつう『はァ?』だよね。
いくら『自分の魔力をあげます』って対価をつけてるとはいえ、たぶん精霊さんにとっては大した報酬じゃないだろうし、魔法を使う人間って無茶苦茶なことお願いしてるよね、よく考えなくても!
つややかな闇が、キーアにふれる。
『きー。ぼくのほかの、まほうも、つかえる……?』
「いちおう測定では、他の属性も使えるみたいです?」
この間の入学試験では使えると言われたよ。ほんとなのかは、謎!
『……あ、あの……ぼく……ひとり、ぽっち、で……あの……ほかの、せいれい、みたこと、ないの。きーが、ほかの、せいれいと、なかよく、してくれたら……ぼくも、あえる、かも……』
「なるほど、仲良くなれたらいいですよね! 精霊さんに呼びかけたら、お逢いできるのでしょうか?」
ふるふる、闇が揺れた。
『……わかんない』
おう。
『あいしょう?』
なるほど。
確かに、ひと目見ただけで、仲良くなれそうか、むつかしそうか、わかるもんな。人間同士でも。
精霊さんだと、もっとよくわかるのかもしれない。
──と、いうことは!
闇の精霊さんは、キーアとなら話してもいいかなと思ってくださったということなのです!
きゃ──!
ふるえた。
ちょっと涙でちゃった。
「俺の呼びかけに応えてくださって、ありがとうございます!」
丁寧に頭をさげたら、ふわふわ闇が揺れる。
『……きー、やさし、そう……だった、から……』
もじもじしてるっぽい! かわいー!
もだもだしたキーアは、見えなくても拝んだ。
反射です。
「じゃあとりあえず、どなたかに逢えるかどうか、やってみましょうか」
キーアの勝手なイメージですが!
炎の精霊さん → 強そう。いかつそう。髪とか真っ赤そう。
水の精霊さん → やさしい顔して、冷たそう。
風の精霊さん → 気まぐれそう。ちゃらい?
地の精霊さん → 頑固で真面目そう。
いちばんやさしそうなのは……風の精霊さんかな?
水っぽいけど、水はなんか、あたりはやわらかくて、厳しい精霊さんな感じがする……! イメージね!
というわけで、風の精霊さんに呼びかけてみたいと思います!
「風の精霊さん! 俺、キーア・キピアといいます、もしよかったら、仲良くしてくださいー!」
ふより
闇が、揺れる。
真っ暗な闇しか存在しなかった世界に、風が吹いた。
『ぷぷぷ』
楽し気に笑う声がする。
真っ暗な闇の世界を、一陣の風が吹きぬけた。
『色んな人間を見てきたけど、仲良くしてくれって言われたのは初めてだなあ』
春のそよ風のようにやさしい、冬に凍える北風のように厳しい、かろやかなのに峻厳な声だった。
わぁあ──!
風の精霊さんも、来てくれたみたいだよ!
『話してもいいかな』って思ってくれたのかなー?
めちゃくちゃうれしくて、によによしちゃう!
どきどきする胸で、キーアは風を見あげる。
「あの、俺とも仲良くしてくれたら、めちゃくちゃうれしいですが、闇の精霊さんと仲良くしてくれたら、うれしいなって」
『…………へ?』
戸惑うように、風が揺れた。
『……あ、あのあの……は、はじめ、まして、あの……ぼく……』
おごそかな、清かな、不思議な音がした。
精霊さんの名前なんだと思う。
人間には聞こえない、意味もわからない、ふしぎな言葉。
きっとこれが、ほんとうの精霊語だ。
『……あの……なかよく……してくれたらって……きーに、たのんだ、の……』
闇の精霊さんが、もじもじしてる! かわいい!




