わすれてた
魔道具の明かりに照らされて、キーアの目がくらむ。
目立つだろうぴんくの髪の主人公が来てるのかとかも、眩しいひかりで全然見えない。
なのに、たくさんの人がいる気配がする。
皆が、自分を見あげてる気がする。
たくさんの人の前に立ったことなんて、前のキーアにも、紀太にもない。
きゅっとキーアの息が止まった。
「きーちゃん──!?」
ネィトの、びっくりした声がする。
「キーアおぼっちゃま……!」
「がんばって、キーアおぼっちゃま!」
ヨニのうるうるした声と、トマのやさしい声がする。
光がまぶしくて、皆の顔が見えないから、よけいに声で励まされた。
とくとく鳴る胸と一緒に、キーアは壇の中央へと進みでる。
拡声の魔道具の前に立ったキーアは、息を吸う。
…………………………。
何を、言うんでしたっけ?
あいさつ?
そう、新入生代表の、あいさつ。
いや、もうルゥイとレォがしてくれたよ。
かんぺきな3次元、生スチルだったよ。
これ以上、顔も名前も声もないモブが、何を言うの?
……………………。
止まってしまったキーアに、声が降る。
「きーちゃん、がんばれ──!」
「キーアおぼっちゃま!」
「だいじょうぶですよ!」
ネィトが、ヨニが、トマが、応援してくれる。
ふわふわ熱い胸で、キーアはもう一度、息を吸った。
ちっちゃな両の拳をかかげる。
「がんばります!」
元気な声が講堂に響きわたり、キーアはぺこりとお辞儀した。
「…………それだけ…………?」
「短すぎだろ……」
「いや、学園長の『がんばってね』に応えたんじゃないか?」
「……なるほど?」
ざわざわする講堂のなかから、声が飛ぶ。
「きーちゃん、かっこよかったよ──!」
「ご立派でした、キーアおぼっちゃま!」
「キーアおぼっちゃま、がんばりましたね!」
ネィトの、ヨニの、トマのやさしい声が聞こえて、キーアは、ぴょこんと跳びあがる。
「ネィト、ヨニ、トマ、ありがとー! だいすき!」
ぶんぶん手を振って、笑った。
「……ちっちゃい……」
「なんか、かわいー?」
「あんなのいた?」
「きぴあって、どこの家?」
講堂が、ざわざわしてる!
恥ずかしさが後になって襲ってきて、あわあわ袖に戻ったら、ぶっすりしたルゥイとレォが迎えてくれた。
「……僕も応援したのに……」
「ひどい、キーア」
「だいすきは!?」
ハゥザ殿下まで、涙目だよ!
あわあわキーアは声を張る。
「応援してくれて、ありがとうございます。
皆のことが、だいすきです!」
ふわふわ紅い頬で、皆が笑ってくれる。
「ちゃんと、ルゥイだいすき♡ って言って」
「レォ、だいすき♡ は?」
「ハゥザだいすき♡ も!」
「大公だいすき♡ も頼む」
「クノワもよろしく」
照れくさくて燃える頬で
「……だいすき」
繰りかえすことになりました……
恥ずかしくて涙目になっちゃったよ!
「キーア、かわい──♡♡♡♡♡」
ぎゅむぎゅむ抱っこしてくれる攻略対象たちが、誤作動してる。
気持ちとしては、めちゃくちゃ大変だった、でもあっという間だった入学式が終わりました!
BLゲームがはじまるよ──!
最愛の推しに逢えるかなー?
ど、どきどきする……!
………………あ!
『この服、ヤエさまのですー♡』宣伝するのを、忘れていました!
ハゥザ殿下のインパクトが強すぎて吹っ飛んじゃったよ! ごめんなさい。
あわあわキーアは袖から講堂の様子を覗いてみた。
袖に引っこんでしばらく経つけど、皆、あまりにも早く終了した入学式に戸惑ってるみたいで、残ってくれてる。
隣の人に声をかけたりしてるみたいだよ。
ぴょこりと袖から顔をだしたキーアは、くるりと回る。
衣のすそが舞いあがり、青の刺繍がきらめいた。
「この服、ヤエさまのですー!」
地声で叫んでみました。
「……新入生代表のあいさつより、宣伝のほうが長いって、どういうことなの……?」
噂になりました。
ごめんなさいー!




