守るのです
「キーア! だいじょうぶだった!?」
光の速さで駆け寄って、抱っこしてくれるルゥイが、やさしい。
ぽわぽわ熱い頬で、キーアは、こっくりうなずいた。
「レォさまが、守ってくれたから」
他の人に言うときは、ちゃんと『レォさま』だよ。
わきまえたモブを目指しています!
「俺を、いたわれ!」
真っ赤なレォに、ルゥイが、にやにやしてる。
「いいんだよ、レォ。心のままに叔父上に乗り換えても」
レォの目が遠くなる。
「一瞬で捨てられて、廃人にされる未来しか見えない」
………………。
こ、こわすぎるハゥザさま……!
さすがラスボス──!
カタカタする皆に、ハゥザはあでやかな眉をあげる。
「人聞きがわるいなあ。僕はいつだって真剣に可愛がってあげているんだよ?」
そして一瞬で終わるんですね、わかります。
「僕に刃向かったレォが、いけないと思わない?
わるい子には、やさしくお仕置きしてあげないと」
完璧なくちびるが、あざやかに弧をえがく。
「……ねえ、レォ?」
ビクンと震えたレォが、耳まで真っ赤になった。
あふれる汗が、レォの頬を伝い落ちてゆく。
ぴょこんと跳びあがったキーアは、カタカタしつつも、今は残念ながらちっちゃな身体で前に出る。
かわいそうなくらい真っ赤なレォを守るように、両手を広げた。
「レォをいじめたら『め!』です! ハゥザさま!」
皆の目が、まるくなる。
耳まで真っ赤になっていたレォから、こぼれ落ちていた汗がひいてゆく。
「…………キーア…………」
ぎゅ
のびてきたレォの腕に、後ろから抱っこされました。
振りかえったキーアは、手をのばしてちいさなレォの頭をなでなでする。
「俺だって、守られてばっかりじゃないんだから」
ちっちゃな胸を叩いて、笑う。
「レォを、守るよ!」
見開かれた青磁の瞳が、揺れる。
「……キーア……♡」
ふうわり紅い頬で、とろけるように笑ってくれる。
「でも、ハゥザさまは、ほんとに危険、だから──」
前に出ようとしてくれるレォを、キーアはちっちゃな背にかばった。
「俺だって、やるときは、やるんだよ!」
たぶん!
悪役令息の伴侶(予定)だから、主人公はメロメロになっちゃうハゥザ殿下にも、耐性がちょこっとあるんじゃないのかなー?
伴侶(予定)補正ね。
それに今、『2』じゃないしね!
ハゥザ殿下には『きゃ────♡♡♡♡♡』というより
『ぎゃ──────!!!!!』だから。
萌えよりも、恐怖が勝つから!
だいじょぶだろ。
がんばれ、俺!
たすけてくれたレォを、守るんだ!
ちっちゃい身体をめいっぱい広げるキーアを、ぼんやり見つめたハゥザが、ぽそりと呟いた。
「…………僕、家族以外から、叱られたの…………はじめて、かも…………」
ハゥザ殿下が、ぽやんとしてる。
──た、たしかに、この顔面を見ちゃうと、あんまり『こら!』ってできないよね。
もしかして勇者になっちゃった?
まあ、歯向かうのに、勇者並みの勇気がいるのは、間違いない。
さすがラスボス、ハゥザ殿下!
感嘆してるキーアをよそに、ハゥザの白藍の瞳が、ほんのりうるんだ。
「……キーア、もっかい、『め』って、言って……?」
あまえるように、ほんのり唇を開かないでください──!
なんですか、その色っぽさ全開の、とろりとうるんだ目と、うっとり開かれた唇は──!
声まで、あまくかすれさせるとか、止めてください!
皆が耳まで真っ赤になってますよ!
ラスボスだからって、お兄ちゃんの大公殿下まで倒したら、だめ──!
なんか、キラキラオーラが押し寄せてきた──!
つい言うことを聞いちゃうじゃないですか……!
「め!」
……………………。
…………言ってしまいました…………
いや、なんか、あらがえないよね……
さすがラスボス、ハゥザ殿下……!
『め!』叱られたハゥザの輝くようなかんばせが、ふうわり紅く染まってゆく。
「……キーア……♡」
とろけるようなあまい声で、名前を呼ばないでくださいぃいい──!
ハゥザの目がキーアに向いたので、茫然とハゥザとキーアを見つめていた皆が、呪縛から解き放たれたように、顔を見あわせた。
「…………え、うそ、ハゥザが……?」
一番はやく復活を遂げた大公殿下が、あんぐりしてる。
「……まさか、叔父上まで……?」
ルゥイ殿下が、引きつってる。
「楽しい」
クノワ先輩が、楽しくなってる!
「…………キーア…………」
涙目なレォを、なでなでした。
「だいじょうぶ、俺が守ってあげるから!」
がんばるよ!




