はや!
「そ、それでは次にハゥザ・ロデア学園長より、お言葉をたまわります」
あまりに短かった大公殿下のあいさつに、紹介する司会の人も、ちょこっとうろたえてる。
とてもいい声が、ふるふるしてるよ。
キーアも、クノワ先輩と一緒に、楽しい。
にこにこするキーアの頭をぽふぽふなでたハゥザ殿下が、魔道具のひかりに照らされた檀上へと踏みだした。
「わあ──!」
「ハゥザ殿下だ──!」
「なんて輝かしい……!」
拍手と歓声が、広やかな講堂に満ちてゆく。
キーアの隣の大公殿下が、しょんぼりしてる。
「……俺より弟のほうが人気だ……俺、大公なのに……」
あわあわしたキーアは背伸びして、大公殿下のまるくなったお背なを、ぽふぽふした。
「ハゥザ殿下は舞踏会にもあまりお出にならないし、お目にかかる機会が少ないからだと思います!」
大公殿下に『きゃ──♡』は叱られそうだけど
学園長に『きゃ──♡』は許されそうなのもあると思うな!
うむうむするキーアに、大公の目がうるうるしてる。
「キーア、かわいいだけじゃなくて、やさしーんだね。珍しい!」
……めずらしいんだ……
いや、大公殿下があんまり撫でまわすから、皆、ちょっと引いてるだけなんじゃ……?
ぽふぽふ大公殿下のちいさな頭をなでなでして慰めていたら、拍手と歓声が消えてゆく。
魔道具の明かりに、さらに輝きを増したハゥザ学園長が、拡声の魔道具の前に立つ。
あでやかな唇が、開かれる。
「がんばってね」
かるく手をあげたハゥザ学園長が、戻ってきたよ……!
「……えぇえ……?」
あんぐりする皆が、あわてて拍手してる。
ルゥイが、頭をかかえてる。
「……あいさつ、あれだけですか……」
大公殿下のあいさつ、短……! って思ったけど、あれ、長かったんだね!
ぽかんとするキーアに、戻ってきたハゥザが、ぷくりとふくれた。
「あいさつなんて、短ければ短いほどいいんだよ。
僕がいない間に、何、兄さまといちゃついてるの」
輝かしいご尊顔が、おこですよ……!
「……えぇ? い、いちゃついてないです! ハゥザ殿下のほうが人気だって、落ちこんでらっしゃったので、そんなことないですよってお慰めしただけで──」
あわあわしたら、睥睨されました。
「そんなことあるに決まってるでしょ。僕だよ?」
ハゥザ殿下の自信が、天を貫いています──!
「……大公殿下、大変な思いをなさってきたんですね……」
思わず大公の肩を、ぽふぽふしちゃったよ。
「いや、ハゥザは生まれたときからこんな感じだから、弟はこういうものだと思って生きてきたよ……」
大公殿下の目が遠くなってる!
「大公は譲ってあげたでしょ」
ふんと鼻を鳴らすハゥザ殿下が、俺様です。
……いや、ハゥザ様か。まちがいない。
「いやハゥザに大公は無理だろ。国力も考えずに喧嘩を吹っかけまくるだろ。『僕にそんな口を利いていいと思ってるの?』って!」
大公殿下が、ぷるぷるしてる!
「事実を言ってるだけだよ」
ふんと鼻を鳴らす学園長が、ハゥザさまだ!
「こういう母上と叔父上に囲まれて育つと、僕のように、まるい子ができるんだよ」
ルゥイ殿下が、にこにこしてる。
「……まるい……?」
反論がものすごくあるらしいレォの目が、半分になってる。
キーアが見守るなか、引きつった司会の人が、すがるようにルゥイ殿下を振り向いた。
「で、では次に新入生代表のあいさつに移りたいとおもいます。
魔法科首席合格、ルゥイ・トゥナ・ロデア殿下」
『一瞬で入学式が終わっちゃうよ! 何とかして!』の視線を受けたルゥイは、英気を補充するようにキーアを抱っこした。
「僕も、ささっと帰ってこよう」
ぎゅむぎゅむ。
抱っこしてくれるのは、うれしいし、あったかいし、ルゥイ殿下のめちゃくちゃいー香りする♡ けど、顔も名前もないモブだよ?
英気、養える?
吸い取られるんじゃ……!
あわあわするキーアとルゥイの間に、レォの長い腕が伸びてくる。
「頑張って長々あいさつしてやれ」
ぐぃいいい。
レォの腕がルゥイを引き剥がして、ルゥイがぷっくりふくれてる。
「僕が傍にいない間に、レォといちゃいちゃしたら、だめだからね?」
3歳のお子さまに言い聞かせるようなルゥイに、ハゥザがにっこり微笑んだ。
「じゃあ僕がキーアを可愛がっていてあげる♡」
真っ暗な♡のしっぽが、ふよふよしてます、ハゥザさま!
「レォ!」
「わかってる」
ぎゅむむ。
ルゥイの声に応えて、ハゥザの毒牙から守るように抱っこしてくれるレォが、やさしい。
「あれ? ……レォ、僕に刃向かうんだ?」
とろけるようなあでやかさで微笑むハゥザが、ラスボスです──!
ぎゃ────!
「ルゥイ、はやく帰ってこい!」
叫ぶレォが、耳まで真っ赤だ。
ハゥザさまのロックオン、 こ わ い──!
「わかった!」
しゃっと光の速さで袖から出たルゥイが壇の中央へと進みでる。
あぁ……!
こ、これが、ずっとずっとずっとずっと見たかった、生スチル──!
ルゥイの唇が、やわらかに開かれる。
「ルゥイ・トゥナ・ロデアです。
皆さんとともに学び、ともに切磋琢磨し、ともにロデア大公国を支える礎となれるよう尽力できることを、心から喜ばしく思います」
微笑んで、胸に手をあてたルゥイに、歓声と拍手が沸きおこったと思ったら、光の速さで戻ってきてくれた。
はや──!
大公殿下や学園長より、しっかりした内容のあるあいさつだったけど、はや──!
生スチルを堪能する時間が、短すぎたよぉおお──!




