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【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました  作者:   *  ゆるゆ


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いちばん




 あばばばしたキーアは、クノワを見あげる。


「え、えと、眼鏡! 眼鏡は、頑張って勉強したから視力が落ちて、それを補うためにするものですよね? だから、あの……」


 もごもごするキーアに、ちょっと不審そうに眉をしかめたクノワは、吐息した。


「……すまない、緊張していたから気が立っているみたいだ」


「い、いえ! こちらこそ、はじめてお逢いした先輩に色々申しあげてしまって、ごめんなさい!」


 深々とお辞儀したら、微笑んでくれる。


「では行こうか」


「はい、あのでも、教えてくださったら一人で行けます。先輩は受付のお仕事があるんじゃ?」


「新入生を案内するのも、俺の仕事だから。……もし、きみがいやじゃなければ」


「うれしいです!」


 拳を握って叫んでた。


 瞬いたクノワが、ちいさく笑う。


「よかった。では行こう」


「はい!」


 大公立学園のなかを、クノワが案内してくれる。


 スチルで見た景色があちこちにあって、入学試験で来たときも感動したけど、ほんとうに入学できるんだと思ったら、この半年頑張ったことが頭を巡って涙ぐみそうになってしまう。


「どうした?」


 すぐに気づいて振りかえってくれるクノワが、やさしい。


「いえ、あの、入学できたことがうれしくて。……あの、俺、ほんとに合格したんですよね」


 眼鏡の向こうの瞳が、やさしく細められる。


「勿論だ」


 伸びた大きな手が、頭を撫でてくれた。


 顔も名前もないモブに、やさしい。


 さすが攻略対象!


 BLゲームでは、マップでどこに行きたいかを選んで、ぽちっとするだけで行けたけど、実際に歩くととても広くて、かなり距離がある。


 新入生が向かっている講堂とは違うほうへと足を進めるクノワに、キーアは首を傾げた。


「あの、こちらですか?」


「ああ、道が少しややこしくて、行きにくいように、わざとしてあるんだ」


 え、こんなとこに、道があるの!? という細い道に、迷いなく足を進めてくれるクノワがすごい。


 方向音痴な自覚のあるキーアなら、絶対に迷う。


 まっすぐ行って、白い花の植え込みを右に曲がって、その次の角を左に、50メートル進んで右に、ってもう無理じゃない?


「案内してくださって、よかったですー」


 涙目になったら、ほんのりクノワが笑ってくれた。


「不要な案内じゃなくて、よかった」


 道はややこしかったけれど、大きな講堂の屋根が見えてくる。入学式が行われる講堂をくるっと回って裏手に出たらしい。


 出演者控室みたいな裏口、といっても、生徒が使う入り口より瀟洒な彫刻が施してあるから、入学式や卒業式に臨席なさることもあるという大公殿下のための入り口なのかもしれない。


 大公立学園だからね、大公があいさつをしてくれるんだよ。


 一般生徒には知らされていない入り口なのだろう。

 口頭で教えてもらっても、絶対迷った。


 いやでも、ここから入れって、こわいよー!


「……え、あの、俺、ただのキーアですけど、あの、間違えてないですか?」


 顔も名前も声もないモブだよ。だいじょうぶ?


 不思議そうにクノワは首を傾げた。

 短い藍の髪が、さらさら揺れる。


「キーア・キピア?」


「は、はい」


 手元の名簿を、クノワは長い指をすべらせて再度確認してくれた。


「間違いない」


 扉には魔道具が掛かっていて、クノワが手をかざし、魔力を注ぐと、まばゆい光を放ちはじめた。

 不思議な魔道具がきらめいて、瞬くように数字が回りはじめる。


 クノワの指が5つの数字を選ぶと、カチリとちいさな音がして、扉が開かれた。


「おぉお!」


 拍手するキーアに、クノワがちいさきものを見る目になってる。



 扉の向こうは魔道具の明かりに照らされ、藍の絨毯が敷き詰められてあった。


「おぉ!」


 足が沈むよ!

 ふっかふっか!


 喜ぶキーアに、クノワがちいさきものを見る目になってる。




 幾つもの扉が並ぶなか、クノワが開いたのは、奥から2つ目の扉だった。


「失礼します。キーア・キピアを案内しました」


 部屋のなかには飴色の円卓と飴色のソファが置かれてあって、座っていたふたりが立ちあがる。



「キーア!」


 ひとつに束ねられた青磁の長い髪が揺れた。



「しばらくぶりだね。わあ、今日は精霊みたいだ」


 はちみつの髪が、ふわふわしてる。



「レォさまと、ルゥイ殿下!?」


 ぴょこんと跳びあがったキーアに、クノワは首を傾げた。



「もう顔合わせを?」


「試験のときと舞踏会でご一緒したんです。その折はありがとうございました!」


 丁寧に頭をさげたキーアは、間違った! あわあわ貴族の敬礼に変える。


「し、失礼しました、緊張しちゃって」


 てへ♡ とか主人公にしかできないフォローだから。

 モブがやったら、ブーイングだから!



「よく来たね、キーア・キピア。クノワくんも、案内ありがとう」


 立ちあがる人のすこし長めの白花の髪が、やわらかに揺れた。

 長いまつげに縁どられた白藍の瞳がやわらかに細められ、桜の唇があでやかに弧をえがく。



「私が学園長ハゥザ・ロデアだ」


 絵画とか、彫刻とか、人間の理想をつめこんだ芸術さえも凌駕するかんばせを、キーアは、ぽかんと見あげた。



 前のキーアの記憶が告げている。

 この輝くようなかんばせは、間違いない。



 ロデア大公国で、一番顔がいいと謳われる、ハゥザ大公弟殿下だ──!








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