かわいー♡
やわらかに響く竪琴といっしょに、皆で、くるり、くるり、回りながら踊ってゆく。
付け焼き刃と思えぬほど大公殿下の足さばきはなめらかで、キーアのリードについてきてくれた。
さすが大公殿下!
何でもできるんだなあ。
尊敬と見あげたら、大公殿下が微笑んだ。
「キーア、かわいい♡ ぽっちゃりしてたときも可愛かったけれど、見違えたよ」
うっとりささやく大公殿下の手が腰から下がってきそうなので、にっこり笑ってブロックした。
「大公配殿下が、ご覧になっています」
ビクッとして止まった大公殿下が、カタカタしてる。
「おぉ、もしかして大公殿下も、そっち──!?」
「な、なるほど、大公配殿下は、あの麗しさで、そっち──!」
「うちの息子がガチムチなんですが、いかがですか──!」
大公宮に詰めかけた貴族たちから、歓声と拍手が聞こえる。
「……あのう、噂になってます、大公殿下。……ごめんなさい」
謝ってみた。
「キーアが責任をとってくれるかな♡」
にこにこしてる!
「………………え。そっちですか──!」
キーアは仰け反った。
「どっち!?」
うろたえてる!
竪琴が終わった瞬間、駆け寄ったルゥイが、大公殿下を引き離した。
「母上、もう充分でしょう。お戯れはそのくらいにしてください」
ぐぃいいい。
押し退けられた大公殿下が、涙目だ。
「そんな……! これからキーアと、あまいお菓子を食べさせあいっこしたりするんだから──!」
「次は俺と踊るんです!」
レォがキーアをかばうように、前に立ってくれる。
ルゥイもさらに間に入ってくれた。
「母上が、可愛い男の子が大すきで、見つけちゃうと可愛がって可愛がって可愛がり倒したい衝動が抑えられないのは理解していますが、他の方から見たらどう見ても浮気にしか見えないので、その辺で」
低いルゥイの声に、大公がうなる。
「キーア、めちゃくちゃ、かわいー♡ のに……!」
「大丈夫です、母上。もうすぐキーアは僕の伴侶になってくれますから。思う存分可愛がっていただけますよ」
はちみつの笑みがとろけてる!
「間違ってるから! きーちゃんは『僕の』!! 伴侶だから!」
ぽてぽて駆けてきたネィトが、ちっちゃな拳を振りあげる。
「(予定)を抜かすな!」
レォの長い青磁の髪が、逆立ちそうになってる。
「俺と、踊ってください」
ほのかに微笑んだレォが差しだしてくれる指が、かすかにふるえてる。
まるで大切なものを瞳に映すように見つめられたら、とくとく鼓動が駆けてゆく。
「よろこんで」
きゅ
レォの手を握る。
ぎゅう
握りかえしてくれる強い力に、耳が火照る。
「……あの、俺、こっちしか踊れなくて……ちっちゃくて、ごめんね」
ささやいたら、レォは首を振った。
「俺と踊ってくれるの、うれしい」
ふわふわ朱くそまる頬で、ほんのり笑ってくれる。
きゃ──♡
いつも凛々しいレォが、可愛いです──♡♡♡
拝みたいのを、あわあわこらえた。
レォの、ほっそりした、でもかっちりした、なめらかな筋肉のわかる腰に腕を回して、広やかな背に手を添えて、抱きよせる。
恥ずかしそうに、照れくさそうに笑って、身体をあずけてくれるレォの、とろけそうな香りに包まれる。
見あげる青磁の瞳が、自分だけを映してる。
あったかくて。
胸が熱くて。
どきどきする。
うっとりしたら、足を踏まれそうになって、あわあわ足を引いた。
トマが叩きこんでくれたから、足を踏まれそうになった時の対処は、かんぺきだ!
「……ごめ……キーアに、みとれて……俺、あんまり踊ったこと、なくて──下手で、ごめん」
ぽそぽそ告げるレォに、びっくりした。
「めちゃくちゃ運動神経よくて、何でもできると思ってた!」
BLゲームでは、秋の舞踏会で、レォさまルートで親密度が高い場合はすんごくかっこいースチルが出たけど、それだけだった。
レォが踊るのが苦手というエピソードはなかった、と思う。
凛々しい眉をひそめたレォは、うつむいた。
「……よく、言われる。……音楽にあわせる、とか、苦手」
「知らなくて、酷いこと言って、ごめんなさい」
青磁の瞳が、瞬いた。
「ひどいこと?」
「何でもできるとか。決めつけられても、困るよね。失言だった。ごめんなさい」
ダンスを中断することなく、振りつけみたいに流れるように頭をさげたキーアに、レォの瞳がまるくなる。
「苦手なことがあるって、人間ぽくて、安心する」
微笑んだキーアは、半拍くらい音から遅れてしまうレォが、まったく遅れていないように見えるよう、レォの腰を抱く腕に力をこめた。
「俺に身体をあずけてね。だいじょうぶだよ、レォ」
抱きよせて、やわらかに回る。
つい忘れがちな魔力を流すと、待ちかねたように衣が光の粒を振りまいた。
「わぁ──!」
歓声が、聞こえる。
すく近くで、ひとつにまとめられた青磁の長い髪が、やわらかに弧をえがいて流れてく。
「……すごい。……ちゃんと、踊れてる、みたい」
ぽかんとするレォに、ふわふわ笑う。
「じょうずだよ、レォ」
抱きよせた耳元で、ささやいた。
ふうわりレォの耳朶が、朱くそまる。
ほんのりうるんだ瞳で、見つめてくれる。
「……キーア、かっこいー……♡」
「レォ、かわいー♡♡♡」
きゃ────♡♡♡♡♡
もだもだして、拝みたくなるのを我慢した。
ふたりで瞳を重ねて、踊る。
衣がひるがえるたび、ほのかに光が舞いあがる。
「わぁあああ──!」
拍手と歓声に満たされた大公宮で、皆がレォを讃えてくれているみたいなので、顔も名前も声もない、添え物のモブとして、控えめにお辞儀した。
えへへ。
わきまえたモブを目指しています。
しかし、誰も
『誰の衣装ですか?』
聞いてくれないので、こそこそトマとヨニにお願いした。
「踊るたびに輝いて、素晴らしい衣装ですね!」
「どなたの衣装なのですか?」
ヨニとトマの演技が、かんぺきだ!
「こちらにいらっしゃる、ヤエさまの衣装なのです!」
ばーん!
両手で、ヤエさまを讃えてみたよ!
「今度、僕に、きーちゃんとおそろいのをつくってくださいー!」
おお、ネィトの予約が入りました!
「僕のも」
「俺のも」
ルゥイ殿下と、レォさまの予約も入りました!
「じゃあ俺と伴侶のも、おそろいで作って」
大公殿下と、大公配殿下の予約まで入りましたよ!
「うわあん! ありがとう、キーア……!
これからキーアの服は、ぜんぶ俺が作るから──!」
ヤエさまの服を、これからも着られることになりました!
やた!




