踊るのです
攻略対象、人気投票第一位なルゥイ殿下と、踊ることになりました──!
心臓が、ばくばくしてる──!
きゃ────♡♡♡
ネィトがぶっすりしてるけど、1曲目は伴侶(予定)だったので、いちおう納得してくれてるみたいだ。
ごめんね。
没落中のキピア家当主代理が、次期大公最有力なルゥイ殿下のお誘いを断るとか、真剣に不可能だから!
紀太としても、大すきな攻略対象のお誘いを断るとか、しかも大公宮舞踏会で一緒に踊ってくれるのを断るとか、真剣にないから!
「え、えと、じゃあ、失礼します」
キーアがリードする側だよ。
顔も名前も声さえもないモブが、ごめんなさい!
しゃっとルゥイ殿下の、ほっそりした腰と肩に腕を回そうとしました。
…………………………。
──……届きませんでした。
腰はいいよ!
肩が、届かないよ!
いや、何とか届くけど、なんか、ちっちゃい子が、でっかいお兄ちゃんに、つかまってるみたいになってる──!
ぎゃ──!
…………え、うそ。
その対応は、してなかった!
ダラダラ変な汗が出ちゃったよ。
引きつるキーアに、ルゥイが、ふうわり、笑ってくれる。
「だいじょうぶ。背中に腕を回してくれる?」
「は、はい……! あ、あの、俺……ちっちゃくて、ごめんなさい……」
しおしお、しょげた。
「すごく、かわいい」
はちみつが、とろけるみたいに、笑ってくれる。
竪琴が、歌う。
「僕と、踊って、キーア」
ふわふわ髪を揺らして、ルゥイが手をひいてくれる。
「はい──!」
ぎゅ
ルゥイの手を握る。
ぎゅう
キーアの手を握りかえしたルゥイが、笑ってくれる。
肩と腰に手をおくところを、背中と腰に腕を回すことにしたので、より密着してるっぽくなりました……
ルゥイ殿下をリードするなんて、そんな畏れ多い! と思うけど、これしか踊れないなら、やるしかない。
トマが叩きこんでくれたステップを、信じる!
ルゥイの細い腰を抱く腕に、ぎゅっと力を籠めて、抱きよせる。
「キーア♡」
とろけるはちみつみたいに微笑むルゥイが、キス待ち顔みたいになってるよ!
輝かしすぎる3次元、生スチル──!
拝みたいけど、今は無理!
じゃなくて、それ、顔も名前も声もないモブにする顔じゃないから──!
燃える頬で抱きよせて、ルゥイの、頭の芯がしびれるようなあまい香りで胸をいっぱいにして、竪琴にあわせて足を踏みだす。
やわらかにルゥイがついてきてくれる。
ことりと寄りかかるみたいに、身体をあずけて、うっとり、あまい瞳で、笑ってくれる。
『きゃ────────♡♡♡♡♡』
脳内がやばいよ!
お花畑が、満開だよ!
なんだこの可愛い人──!
トマが鍛えあげてくれた腹筋と背筋で、長身なルゥイを支えて、踊る。
ルゥイが踊りやすいように、とか意識する余裕はなかった。
あったかい。
密着してる。
くっついてる。
ルゥイの香りで、鼻も胸も、いっぱいだ。
すぐ傍で、はちみつの髪が、ふわふわ揺れる。
ルゥイの背が高いから、ルゥイの意志がないと、どうにもならないところが救いだけど。
ちょっと間違うと、ちゅうしちゃいそうだよ!?
こんなに密着すること、日常生活で、全くないよ!
しかも、攻略対象人気第一位だよ!?
ぎゃ──────!
頭のなかが、お花と♡で大変なことになりました。
あばばばしてるキーアの向こうで、大公宮に詰めかけた貴族たちが、どよめいてる。
「……え……ルゥイ殿下、もしかして、そっち……!?」
「その考えは、なかった──!」
「うちの子、ガチムチなんだけど、お相手にどうかな!?」
歓声と拍手が聞こえるよ!
ルゥイ殿下に聞こえちゃうよ!
「ご、ごめんなさい、ルゥイ殿下、俺が踊れなかったばっかりに、酷い噂が──!」
たぶんルゥイは、攻めです。たぶん!
若葉の瞳を瞬いたルゥイが笑う。
ふわりと近づいたルゥイのくちびるが、耳にふれる。
「……キーアになら、されてもいいよ」
ちゅ♡
あまい音と、ふあっふあの感触に、飛びあがる。
「い、いいいいいいいいい今、な、なななななな何──!」
きゃ──あ──ぁ──ぁ──あ────!
ばたばたするキーアを、しなやかな腕が抱っこした。
「かわいい♡」
攻略対象が、誤作動してます。
誤作動しすぎだよ!
なんだこれ!
「………………ルゥイ………………?」
レォの低く、低く凍る声が、大地をえぐってる。




