よにんめ?
「受かったぁあアアア──!」
キーアは、ちっちゃな両の拳を突きあげた。
両方次席っていうのは、レォやルゥイ殿下の次っていうことで、何かの間違い、他の人と間違えたとか、書き間違えたとか、そういうことだと思うけど、合格は合格だよね、たぶん!
半年の尽力が報われたよ!
……いや、魔法科は1週間だった…………ごめん。
「よかったですね、キーアおぼっちゃま!」
「さすがキーアおぼっちゃまです!」
涙ぐんで喜んでくれるヨニとトマと抱きあって喜んだ。
喜びを表現し足りなかったキーアは、歓喜の踊りを踊った!
HPが5下がった。
「両方とも合格はうれしいけど、両方の講義を受けなさいっていうのは、無理なんじゃ?」
首を傾げるキーアに、ヨニもトマも頷いた。
「皆さま、騎士科か、魔法科か選択なさるものですし、それぞれ大変濃密な講義となっていると聞いております。両方の講義を受けるとは聞いたことがございませんし、そのような時間も余裕もないのではないでしょうか」
「体力的にも厳しいと思います」
「だよね?」
そして、最愛の推しに逢うためには!
騎士科にゆかねばならないのです!
わーい!
騎士科にゆけるよー!
推しの、若さ弾ける将軍に逢えるかもしれないよー!
やた!
「騎士科でいいよね? お返事書こうっと!」
魔法科の入学試験の後は、ちょこっとさぼりがちになって離れがちになっていた机に座ったキーアは、ヨニが用意してくれた真白な便せんを広げる。
『キーア・キピアです。合格とってもうれしいです! ありがとうございます!
でも両方の講義を受けるのは無理かなと思うので、騎士科に入学したいです。よろしくお願いします!』
元気に書いて、ロウソクをあぶって、封筒にロウを垂らした。
キピア家の紋章が刻まれた木の棒、シーリングスタンプとか印璽っていわれるのを、を、ぎゅぎゅっとね。
まだ熱いロウのうえから押しつけると、ロウが紋章の形に固まるんだよ。
これで封蝋の完成だよ!
ファンタジーっぽいよね。わくわくする!
「できた!」
手紙を掲げて喜ぶキーアを、ヨニとトマが3歳のお子さまを見つめるような、生あたたかい目で見守ってくれる。
やさしい。ありがとう。
お返事ができたら、ヨニとトマと一緒に公都にお出かけだ。
ポストとか郵便局はなくて、住所も『ロデア大公国 公都 1ー1ー1』みたいにカチっと決まっていない。
公都にある郵便屋さんに『○○まで届けてくださいー』とお願いして料金を払うと、届けてくれる仕組みだ。
手紙や荷物も届けてくれる宅急便みたいな感じだよ。
自分で手紙を持っていってもいいんだけど『ちゃんと送りました』という公式な記録が第三者を介して取れるので、大事な文書は郵便屋さんに頼むのがロデア大公国の定石だ。
公都の繁華街の広場にある、ひときわ大きな店構えの郵便屋さんは、手紙や荷物を出したい人であふれてる。
ちゃんと受付窓口に並んで、順番を待つんだよ。
『ふふん、上位貴族のキピア家、次期当主、キーア・キピアである! しもじもの者は順番をゆずりたまえ!』とかやると、ロデア大公国では大ひんしゅくだよ!
ちょこんと最後尾に並んだキーアに、ヨニとトマが拍手してくれる。
「えらいです、キーアおぼっちゃま」
「さすがです、キーアおぼっちゃま」
にこにこしてくれるヨニとトマが、3歳のお子さまをほめる感じだけど、やさしいよ! ありがとう!
「手紙をひとつ、大公立学園までお願いしますー」
ちゃんと並んで順番が来てから声をかけたキーアに、元気なお兄さんが手を挙げる。
「はーい! お名前をここにお願いしますー」
申込書に送り先を書いて、依頼主のところにサインする。
「キーア・キピアさまですね、確かにお手紙、1通承りました!
こちらがお控えです。料金は──」
しゃっと進み出たヨニが、こそこそして、常連さんの割引料金にしてもらったみたいだよ。
領地と頻繁にやり取りしてるから、お得意様料金で郵送してくれるらしい。
さっすがスーパー執事!
「では、おまけして、こちらで」
「よろしくお願いしまーす!」
元気なキーアに、お兄さんも笑ってくれる。
「まいどありー!」
たぶん誰も知らないと思われるキピア家の封蝋の輝く手紙を見送ったキーアは、トマが人払いをしようとしてくれるのを制し、いっぱいの人をちっちゃな身体で掻きわけるように店を出た。
やっぱり貴族っていっても、平民に毛がぴよんとしてるくらいのロデア大公国だから『そこをどきたまえ、きみ。上位貴族のキピア家次期当主さまがお通りだよ』とかやったらだめだと思うんだよ。
「おやさしいです、キーアおぼっちゃま」
「さすがです、キーアおぼっちゃま」
やさしい目で褒めてくれるヨニとトマに、照れ照れの熱い頬で笑う。
「せっかく繁華街に来たから、大公立学園に入学するのに必要なものがあったら買いたいな。
騎士科って、何か買ってゆくものあるのかな?」
「いえ特に指定されていないようですね」
しゃっと入学案内を取りだしてくれるヨニが、スーパー執事だ。
あらかじめ熟読してくれているのだろう、『持ってくるもの』の欄にある『汗をかいたときの着替え、水、塩』を指してくれる。
「必要なものとか、ないのかな?」
首を傾げるキーアに、トマが微笑んだ。
「筋肉です」
間違いない。
大公立学園の騎士科に合格できたので、スーパー従僕トマと一緒に、筋トレを頑張ってみたよ!
しかし、なんていうのかな、細マッチョ? いやこれマッチョってほどにもならない……!
細マッチョはレォだよ。
ものすごくきれいに筋肉がついてた。
ひろやかな背筋から、細い腰にかけてなめらかに隆起する筋肉が──
思いだすだけで、よだれが……!
ちがった!
頑張って筋トレしたおかげで引き締まってはいるんだけど、こう、もりっとならないんだよ!
プロテインか? プロテインが足りないのか!
「トマ、お肉! お肉お肉お肉お肉お肉──!」
「キーアおぼっちゃま、残念ながら、毎日もりもりお肉を買うお金がありません……」
スーパー従僕トマでも対応できなかった!
ごめんなさい──!
大豆とかないし、卵もチーズも牛乳も高価だよ。
欲しい人は、養鶏、酪農だよ。お金持ちのお邸は広大なので、裏庭とかで飼われてるんだよ。
キピア家では、馬車をひいてくれる、お馬さん1頭が限界だよ……!
いや、鳥さん1羽なら、なんとかなる……?
1日卵1個……いやロデア大公国では、そんなに頻繁には卵を産んでくれないはず! 1週間に2個くらい? さらに3人で分けたら、3分の1個!
プロテイン増強計画は、あっさり頓挫しました。
「……なんか、筋肉、つかない……」
しょぼんとするキーアの頭を、トマがなでなでしてくれる。
「俺もあんまりつかないんです。でも力はあるので、問題ないかと。体質じゃないでしょうか」
「そっかー。トマも細くて小柄だもんな。それでこんなに何でもしてくれるなんて、ほんとすごい! いつもありがとー」
「キーアおぼっちゃまがそう言ってくださったら、とてもうれしいです」
ふわふわ栗色の髪を揺らして、赤い頬で笑ってくれるトマが、かわいい。
「そういえば悪役令息なネィトはどうしてるんだろう。全然会ってないけど」
試験会場でも見つけられなかったよ。
闇色の髪は、キーアもだし、ちょこちょこいるからなあ。
ぴんくの髪は遠くからでも分かって、やっぱり便利だよね。
しかしネィトのことを今まであんまり思いだしもしなかった。
全然会いたいと思わない伴侶(予定)って、なんかさみしい。
「ネィトさまとは、一年に二度、春と秋に大公宮で開催される大公殿下主催の舞踏会でしかお会いになっていないかと」
教えてくれるヨニに、吐息する。
「……そっかあ」
伴侶(予定)だもんな。(予定)が輝いてるよ。
破棄する気、満々だ!
向こうがな!
でも、気持ちわかるよ。
両手にドーナツ持って、食べかすくっつけて、喰うことしか頭にない、何にも頑張る気のない伴侶だなんて、やだ。
前のキーアが、ちっちゃくなってる。
一緒に反省しような。
今まで、ごめんよ。
やっぱり、ちゃんと謝りたい。
「俺、ちょっと痩せた?」
首を傾げるキーアに、ヨニもトマもぶんぶん頷いてくれる。
「大変に痩せられました、キーアおぼっちゃま!」
「見違えます、キーアおぼっちゃま!」
ほめてくれたら、うれしい。
「えへへ、ありがとう。じゃあ次にネィトに会うのは、春の舞踏会かあ。……いつだっけ?」
「大公立学園の入学式の直前あたりでしょうか」
ヨニが予定を確認してくれる。
なるほど、入学式前にあるんだな。
『悪役令息と決闘だ!』で舞踏会があったのは、秋だった。
BLゲームの終盤で、親密度が一番高い攻略対象と、ダンスを踊れるんだよ!
きゃ──♡
今から、主人公が誰とダンスを踊るのか、楽しみすぎる!
そのBLゲームが始まる前に、春の舞踏会があるんだな。なるほど。
だからゲームでは秋しかなかったと。納得した!
「今の俺に似合う服って、買えるかな? お金ある?」
ヨニがかっこよく縫い直してくれた服も素敵なんだけど、ちょっとお古っぽい感じは否めない。
古着の良さはもちろん知ってるけど、謝罪のときは、ぱりっとした服を着たいよね!
「領地のご両親から入学のお祝いが送られてきましたので、舞踏会用の衣を一着なら可能かと」
スーパー執事のヨニが、金一封を繰りだしてくれました!
引きこもりの両親も、ありがとう!
「おお! じゃあ、服を買いに行こー!」
お財布を握りしめたヨニと、スーパー従僕トマと一緒に、にぎやかな公都の中央広場の繁華街にやってきたキーアは、立ち並ぶ服飾店のきらきらしさに仰け反った。
「……なんか、一見さんお断り感が半端ないね……」
しかもこの世界の服は、ほとんどがオーダーメイドだ! 採寸して縫ってくれるあれね。だーっと並べられた既製服は売られていない。
生まれたときから貴族なキーアにはふつうなんだろうけど、紀太の記憶が強いニューキーアは、かなりビビる。
この間、って死ぬ前だけどテレビで見たんだけど、『ビビる』って言葉、平安時代末期からあるんだって!
源義経も、ビビってたかも!
『マジ』も『やばい』も江戸時代からなんだってー! 伝統の言葉だよ!
その伝統でビビってみたキーアの背を、おじいちゃん執事ヨニが、ぽんぽんしてくれる。やさしい。
「大公殿下御用達の服飾店は紹介がないと入れないそうですが、他の店は、繁華街に店を構えているなら入っていいということなのです。大丈夫ですよ」
「俺が調査したところ、この奥にあるお店が公都で一番良心的な価格でした! 新しいお店らしくて、それでお値段が控えめみたいです。でも意匠はとても素晴らしく、キーアおぼっちゃまにお似合いになるかと!」
さすがスーパー従僕トマ!
リサーチまで完璧だ!
さっとキーアの左側に立ったトマが扉を開けてくれる。
カラカラン
鳴る鈴に、店の奥で、やわらかそうなベージュの髪がひらめいた。
「いらっしゃいませー」
にこやかに出てきてくれた人の細い腰と、ながい足に息をのむ。
見あげるほど高い背を彩るように、やわらかそうなベージュの髪が、さらりと揺れた。
やさしげなベージュの瞳が、キーアを映して見開かれる。
「……っ」
ぴょこんとキーアは跳びあがる。
「ヤエさまだ──!」
BLゲームの2次元が、3次元に──!
めちゃくちゃ、いー匂いする──!




