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悪役令息の伴侶(予定)に転生しました  作者:   *  


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22/122

魔法科、入学試験だよ!




 こんなに勉強したのは、生まれて初めてだ。


 キーアの時は勿論、紀太のときも、頭がほんとに魔法の火を噴きそうなほと、目から精霊語ビームが出そうなほど、勉強したことなんて、ない。


 こんなにドーナツを食べたことも、ない。


 こんなにおいしいドーナツを、はむはむしながら、粉砂糖にまみれた手でペンを握りしめて勉強したことも、ない。


 目を明けていられなくなる限界まで机に齧りついて勉強し、起きたらすぐ白いタオルではちまきをし、目を覚ましたら勉強だ。


「キーアおぼっちゃま、だいじょうぶですか!」


 涙目なヨニが、眠気覚ましのお茶を淹れてくれながら心配してくれる。


「火の魔法は魔素のみならず大気の影響も受けやすく、詠唱の際には天候や大気の状態を確認する必要があり──」


『だいじょぶ』が言えないよ。

 なんか口から、今さっき読んだ、過去問の論述問題の模範解答が出てくるよ。


「キーアおぼっちゃま、ご飯も食べましょう!」


 勉強しながら食べられるドーナツしか食べてないキーアを、トマが心配してくれる。


「水の魔法を使える人が少ないのは、水の精霊が気まぐれ、もしくは人間のこのみが厳しいのではないかと言われているが、一方で大気中の魔素や天候、水蒸気などの影響を受けにくく、安定して魔法を出力できるという利点があるため──」


『おいしすぎるドーナツを両手に持って食べ過ぎて、ちょっと『うぷっ』てなってきたので、この間作って涙が出るほど美味しかった、白菜もどきのピクルスを食べたいです!』


 言ってるつもりなのに、おかしいなー?



「キーアおぼっちゃまがー!」


 ヨニとトマが抱きあって泣いてる!


『心配かけてごめんよ!』


『だいじょぶ、だいじょぶ!』


 言いたいのに、口からこぼれるのは


「魔法とは空想と幻想による産物ではなく、確固たる理論に基づいた科学的な現象であり──」


 仕方ないので、親指を立ててみた。


 顔を見あわせたヨニとトマが、胸を叩いてくれる。


「わかりました、キーアおぼっちゃま、お野菜をご用意しますね!」


「頭がすっきりして、疲労回復し、元気が出るよう、酢漬けがよいのでは?」


 トマとヨニが、優秀すぎる!



「はー♡ ドーナツうまー♡」


「はー♡ 白菜もどきのピクルス、しゃくしゃくー♡」


 無限ループが始まったよ!

 おいしすぎて、また喋れるようになりました。


 ぽんぽんたたくと直る機械みたいだよ。

 突然勉強を詰めこみ過ぎて、身体も色々誤作動だよ。大変だよ。



「キーアおぼっちゃまが勉強してるところ、はじめて見ました!」


 いつもやさしいトマが、にこにこしてくれる。


「うう、キーアおぼっちゃまが、こんなにお勉強なさるなんて……!」


 おじいちゃん執事のヨニが、泣いてる。



 今まで勉強、ぜんっっぜん! しなくてごめんよ──!


 両手にドーナツを持って食べかすをくっつけた、前のキーアが、ちっちゃくなろうとしてる。


 なれてないけど。

 まるい背中に哀愁が漂ってるよ。


 一緒に反省したよね。

 これからは一緒に、勉強もがんばろー!





 耳から文字が出そうなほど勉強しました。


 詰めこみ過ぎた参考書の文字で、キーアの身体は、ぱんぱんだ!


「はわわわわわ」


 今、揺さぶらないで! なんか出るから!


「だいじょうぶですか、キーアおぼっちゃま!」


「ゆっくり行きましょうね!」


 心配してくれたヨニがついてきてくれて、トマが馬車を用意してくれる。


 そーっとそーっと馬車に乗りこみ、そーっとそーっと降りたキーアは、そーっと手を挙げる。


「が、がんばってくるよ!」


「応援してます、キーアおぼっちゃま!」

「キーアおぼっちゃま、ご武運を!」


 トマと一緒に、ヨニも拳を掲げて見送ってくれた。


 やさしい。

 うれしい。


 ふわふわ頬も、胸も熱くなって、めちゃくちゃがんばれる気がする。


 悪役令息の伴侶(予定)なのに、こんなにやさしい人たちと家族になれるなんて、しあわせすぎる。


 ほんとはぶんぶん手を振りたいところを、そーっと手を振ったキーアは、そーっと試験会場に入る。


 騎士科の試験の日もたくさんの受験生がいたけど、魔法科はすごい。

 ラッシュみたいだよ。


 騎士科は記念受験しようとしたら泣いちゃう感じだけど、魔法科は気軽に記念受験できるからか


「わー、すごーい! これが大公立学園かー」

「画像撮ってー!」


 遊園地に来たみたいに、はしゃいで、魔道具を掲げている人たちがいる。


 こんな人混みのなかで、ぴんくの髪の主人公とか、伴侶(予定)な悪役令息とか探すとか無理だから、やめておこう。今、きょろきょろしたら、何か出るから!


 とりあえず試験が終わるまでは、全力で集中だ。


『試験が終わってから、主人公とか悪役令息とか攻略対象とかに、もし逢えたらラッキーだな』スタンスでゆきましょう。


 騎士科に落ちてて、魔法科まで落ちたら大変だから!


 もう二度と攻略対象たちに逢えなくなっちゃうから──!


 そんなの絶対イヤだぁああああ──!



 涙目で受験票を確認し、人混みをそーっと掻き分け、受験会場の席についたキーアは、すぐに過去問と参考書を開いた。


 ギリギリまで詰め込んだほうが安心するタイプだよ。


 最後の瞬間まで詰めこみたい!

 1週間しか頑張ってないから!


 本気の涙目で参考書にかじりついていたら、隣の人から、いい匂いがした。



「勉強してるの? えらいね」


 ……3歳のお子さまに対する言葉みたいだよ。


 いくら成長途中とはいえ、3歳って思われてないよね!?


 あんまり頭を動かしたくないんだけどなー。

 動くたびに、覚えた精霊語が、耳からこぼれ落ちる気がする。


 ぽこぽこん

 落ちる音まで聞こえる気がするよ……!


 余裕なあなたと違って、こっちは必死なんだよう!


 でも、めちゃくちゃ、いー匂いする!


 覚えた言葉が落ちてゆかないように、そうっと耳を押さえたキーアは、そうっと顔をあげる。



 やわらかそうな蜂蜜の髪が、ふわふわ揺れる。

 みずみずしい春の若葉のような瞳が、顔をあげたキーアに見開かれた。


「……っ」


 息をのむ音が、かすかに聞こえる。



 3歳児だと思ったら、ちょっとおっきかったからびっくりした?


 じゃなかった!


 すんごいいー匂いがすると思ったら、顔面力が半端ない!


 なんだこのキラキラ!


 圧倒的な顔力が押し寄せるようで、息を詰めたキーアは跳びあがる。



「ルゥイ・トゥナ・ロデア殿下!」


 攻略対象、人気投票不動の第一位!

 王子さまポジな、大公殿下の第一子!

 ふわふわの蜂蜜の髪と若葉の瞳がとろけるようにやさしい、腰砕けな甘いボイスのルゥイさまだ──!


「きゃ──!」


 拍手してから、覚えたことが口と手からぼろぼろこぼれた気がして、あわあわ止める。


「あばばばば!」


 あわててこぼれ落ちた項目を拾うように参考書をめくった。



「……え……」


 隣でルゥイが、茫然としてる。


 ごめんなさい、失礼だった!



「は、はじめまして、ルゥイ殿下、キピア家次期当主、キーア・キピアと申します」


 そーっと貴族の敬礼をしたキーアは、そーっとまた席についた。


「あの、覚えたことがこぼれ落ちそうなので、今は失礼をごめんなさい!」


 そーっと丁寧にお辞儀したキーアは、すぐに参考書をめくる。


 この魔法理論が難しいんだよなー。

 論述しろって言われると弱い!

 選択式なら鉛筆を転がせるのになー。あれ、最高だよね。試験の時に『えいや!』


 ……待って、鉛筆じゃなかった!

 つけペンだよ、転がせないよ!? どうしたらいい!?


 あわあわしたら涙目が加速する!


『キーアおぼっちゃま、がんばって!』

『だいじょうぶですよ、キーアおぼっちゃま!』


 トマとヨニが応援してくれる声が聞こえた気がして、あわててキーアは目を拭った。


 そうだ、だいじょうぶ。

 落ちつこう。


 鉛筆がなくても、てきとーに選択するならできるから!


 よし、だいじょぶだ、俺はやれる、やれる、やれる──!



「……僕に興味をなくす人、初めて見た」


 ちいさな呟きが聞こえる。



「めちゃくちゃ興味ありますが、今は真剣にごめんなさいー!」


 あばばばしながら声だけで返答したら、隣で肩が揺れている。









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