かっこよく!
キーアの『ごめんなさい』に、ルゥイとレォは、目を伏せた。
「……キーアに、伴侶(予定)がいることは、わかっていたけど……僕のことも、見てくれないかと……キーアが謝ることじゃない」
ゆるく振られたはちみつの髪が、朝のひかりにちらちら揺れる。
「……伴侶(予定)がいるのに、俺のほうこそ、ごめん」
ちいさなレォの呟きに、キーアはぶんぶん首を振った。
「皆がやさしくしてくれるのがうれしくて……ごめんなさい」
うるうるしてしまうキーアを
「キーア!」
ルゥイとレォが抱っこしてくれようとするのを、あわあわ止める。
「だ、だめ」
涙目で見あげたら
「キーア♡」
ルゥイとレォのやさしい瞳が、とろけてる。
………………あれ……?
激おこじゃ、ないのか、な……?
ルゥイもレォも、やさしい……!
「えーと……僕のことは、皆、何の言及もないのかな?」
引きつってるハゥザ学園長をスルーして、ネィトは唇を開いた。
「……僕、僕ね、きーちゃんが言ってた意味、やっとわかった。
きーちゃんだけじゃなく、ルゥイやレォ、皆のこと、見てもいいって」
きょとんとしたルゥイとレォが不思議そうに首をかしげるのもスルーして、ネィトは続ける。
「きーちゃんは紫の目の僕をたすけようとして、僕の伴侶(予定)になってくれた。
……ちっちゃな頃の約束で……きーちゃんをすきな人はたくさんいて……そのなかから僕を選んでくれたら、うれしいけど……」
ぎゅ、とネィトは唇を噛む。
「契約で、きーちゃんを縛って、きーちゃんを僕のものにしたって、きーちゃんも、僕も、しあわせに、なれない」
ネィトは顔をあげる。
「きーちゃんに、選ばれるように、がんばるよ。
……だから、もうだめってなる時まで……きーちゃんの伴侶(予定)で、いてもいい……?」
ちいさな声が、ふるえてる。
「当たり前だよ、ネィト!」
華奢なからだを、抱きしめた。
「ネィトに辛い思いをさせてたなら、ほんとにごめん」
首を振るネィトの闇の髪が、さらさら揺れる。
「きーちゃんが丸々してたとき、僕もルゥイやレォさまに『きゃー♡ きゃー♡』してたよ。それできーちゃんを突き飛ばしちゃったんだから。お相子」
ほんのり涙の滲む瞳で、笑ってくれる。
「……ネィト……」
「僕、僕ね、きーちゃんが、僕のこと大すきって思ってくれるように、かっこよくなる!
あれがきーちゃんの、このみなんだったら、僕、がんばって、むきむきする!」
ちっちゃな拳を握るネィトに『あれ』指されたゼァル将軍が、引きつってる。
「……いや、うん、ネィト、無理はよくない」
思わず止めてしまいました。
ちっちゃくて華奢で愛くるしさ満開のネィトが、ゴリマッチョとか、顔面と肉体の乖離が、はげしすぎる──!
「筋肉をつけすぎると、身長が止まっちゃうよ」
ルゥイが楽しそうに、によによしてる。
「俺も、鍛えてもああならないから、体質もあるぞ」
レォに諭されたネィトが、うるうるの涙目で、ちっちゃな拳を掲げる。
「僕、きーちゃんのためなら、かっこよく、なるもん──!」
…………あ。
今、胸が、きゅっとした。
「ネィトはネィトのままでいいんだ。自慢の伴侶(予定)だよ」
ぎゅっとネィトを抱きしめたキーアの服の裾が、ちょこんとルゥイに引っ張られる。
「(予定)だし、まだロデア大公立学園の生徒なんだし、そんなに密着しなくていいと思うけど」
ぷっくりふくれる頬が、かわいいです。
「これから討伐だし」
すねたように唇を尖らせるレォも、かわいいです。
「学園長として言わせてもらうけど、生徒同士の淫行も、だめだから」
ぐぃいと引き離すハゥザ学園長も、ぷっくりしてて、かわいいです。
「……いーなー♡……じゃ、なかった! あの、ルゥイ殿下、レォさま、僕もいますので!」
手を挙げたマェラが、ぴんくの髪で、ぴょこぴょこしてる。かわいい。
「あ、そういえばネィト、ガダ先輩には『きゃー♡ きゃー♡』しないの?」
振りかえるキーアと一緒に、食堂に降りてきたガダを見つめたネィトは首をかしげる。
「全然?」
「くぅ──!」
ガダ先輩が、泣いてる。
かわいい。




