最愛の推しには
「えぇえぇえ──!」
皆のブーイングが聞こえたけれど、ゼァル将軍がキーアを何とも、微塵もなんとも思っていないのは皆に丸わかりらしく、ぶーぶーしながらも納得してくれたみたいです。
ゼァル将軍に首根っこをつかまれ、ぷらんぷらんなキーアは、首をかしげる。
……と、いうことはですよ。
最愛の推しと、同室!?
一緒の部屋で寝るの──!?
きゃ──ぁ──あ──あ──!
「……まあ、キーアも不服だろうが、討伐遠征で学園長と淫行はさいあくだし、未成年同士が淫行しまくるというのは外聞がわるくてだな、俺と同室になるのは納得がいかんだろうが──」
キーアも。も! 不服。
ゼァル将軍は、思いきり不服なんですね……!
皆をわちゃわちゃから救うために、人身御供になった気分なんですね、ごめんなさい……!
しょんぼりする間もなかった。
あったかい。
ゼァル将軍の全身を覆う鍛えあげられた筋肉が、みっしり、がっしりしてる。
森と土の香りのように、やわらかで、穏やかなのに深い、頭の芯がしびれるような、くうらりあまい香りに、指先まで満たされる。
ひょいひょいキーアを運んでくれていたゼァル将軍が、異常に気づいてくれたらしく止まってくれました。
「どうした!?」
……すみません。
興奮しすぎて鼻血でました。
全力でごめんなさい。
「だ、だいじょうぶか! のぼせたのか? あ、頭を逆さまに持ちあげたからか! すまん!」
こう首の後ろをひょいと持ちあげられて運ばれただけなんだけど、ゼァル将軍のぬくもりと、いー匂いに興奮して鼻血出ましたとか、絶対言えない。
はー♡♡♡♡♡
最愛の推しから、頭の芯が熔けるような、いー匂いがします!
ゼァル将軍は、ルゥイのおとうさんのお兄さんだけど、確か双子、二卵性双生児の双子で大公殿下とは似てないけど、めちゃくちゃかっこいー遺伝子は確実に継がれてて、隣にいてくれるとか卒倒しそうです。
かっこよすぎて!
腕とか胸とかお腹とか、もう筋肉でがっちり、みっしりしてるのに、鋼じゃないから、ちゃんとしなやかで、あったかくて、つつまれるとなんかもう、至福! とろけるしかない……!
ごめん、ネィト!
伴侶(予定)なのに……!
紀太はほんとに、孤高のゼァル将軍が大すきだったんだよ──!
壁にはポスター、ベッドには抱き枕! 保存用もちゃんとあったよ。勿論だよ!
スマホの待ち受けだって、ゼァル将軍でした。
朝の目覚ましの『おはよう、きーちゃん』もゼァルさまでした!
恋とか愛とかセーブするから、たのむから拝ませて──!
「尊い──!」
鼻血をたりたりしながら拝んでしまいました……
「あぅう……!」
よ、余計に鼻血が──!
たりたりしてる……!
ようやく逢えた、最愛の推し、この世界に転生したかったら一番逢いたかったゼァル将軍に、やっと逢えたのに、そのために騎士科の試験を頑張って、猛特訓したのに、初対面で鼻血とか──!
ルゥイにもレォにもネィトにも、そんなかっこわるいところ、見せたことないのに、なぜゼァル将軍に……!?
……あぁ、最愛の推しだから鼻血が出るんですね、わかります……
「あぅあー」
涙まであふれてきゃちうよ!
「うわ! だ、だいじょうぶか!」
膝から崩れ落ちそうになったキーアを、ゼァル将軍のたくましい腕が、さっと支えてくれる。
おぉおお!
こ、これがリアルの、丸太みたいな腕!
盛りあがる筋肉がなめらかで、がっしりしてて、あったかい……!
ぶあつい胸板と、たくましい腰に、うっとり寄りかかりそうになったキーアは、あわあわ身体を起こした。
「も、もももも申し訳ありません、大公兄殿下!」
頭をさげるキーアに、ゼァルは首を振る。
「いや、構わない。今、冷たい水を持ってくる。すこし休め」
街道沿いにある、ちいさな村の奥には交易の商人や魔物討伐に定期的に向かう衛士たちのために、村の規模に反するような大きな宿屋があって、今回の魔族討伐の騎士団と魔導士団のために開放されている。
宿屋の一番奥の部屋の扉を片手で開けたゼァル将軍は、ひょいと猫の子を抱きあげるみたいに、キーアを寝台に横たえてくれました。
最愛の推しが──!
し、寝台に……!
よ、横たえて、くれ、まし、たぁあ──!
一瞬だけ、おひめさま抱っこっぽくなったよ!
ありがとう、ありがとう──!
全方位に感謝しました。
なんかもう、しあわせすぎて、鼻血が──!
後ろ髪がもしょもしょして、ぴょこんと闇さまが顔を覗かせる。
『きー、たいへん!』
あわあわ、ちっちゃな手でキーアの鼻を押さえて、心配してくれました。
かわいい。
やさしい!
闇さまが、癒しです。




