光臨
「ハゥザ学園長、ロデア大公立学園から応援にゆくのは、俺とルゥイ殿下とレォさま、ネィトだけですか?」
主人公のマェラは?
手を挙げたキーアに、ハゥザ大公弟殿下は微笑んだ。
「ああ、光魔法の優秀な使い手であるマェラ・マガーテくんも選ばれたよ。学業の順位が199位だったから、どうかなっていう声もあったけど『学業より魔法がどれだけ使えるかでしょ』って押し切った」
な、なるほど……?
さすが主人公、ハゥザ学園長の覚えはめでたいみたいだよ!
しかし学業が……ということは、マェラはインテリ眼鏡クノワ先輩狙いじゃないのかもしれない。
学術と学力がMaxじゃないとだめだからね。
199位からでは、ちょっと厳しいかも。……いや、今からの頑張りで、どうとでもなるかもだよね。
主人公だから!
キーアも顔も名前も声もないモブなのに1週間で魔法科の試験に合格したのでした! 忘れがち!
「あとは騎士科から、ガダ・ダーザも来るよ。レォンの天敵だよね」
にこにこするハゥザが、とっても楽しそうだ!
無邪気にいじわるする大人、ハゥザ大公弟殿下。
うれしそうなロデア大公国で一番のお顔が、輝いてるよ!
ハゥザに微笑まれたレォは、高い鼻を鳴らした。
「1年の差が大きかった子どもの頃の話でしょう。レザイがダーザに負けるなど、ありえぬことですから」
直属の上司というか、騎士関係、防衛関係を仕切ってるのがレザイ家で、ダーザ家は騎士を輩出する脳筋家系だ。
ふつうならダーザ家はレザイ家に頭があがらないはずなのだけれど、身分にゆるいロデア大公国なうえに脳筋なのでレザイ家に喧嘩を吹っかけ、あわよくば自分たちが騎士のトップに立とうと虎視眈々らしい。
レォはレザイ家を脅かそうとするダーザ家を、とっても憎らしく思っていて、ガダ先輩はレォのことをレザイ家のぼんぼん、武技では自分に劣ると見下している、というのがBLゲームの設定だった。
BLゲームではね。
今のレォの強さを見てると
……えぇ……? と思ってしまう。
ガダ先輩と闘って、負けるレォが想像できない。
ということは、ガダ先輩に並び立つほど、BLゲームのレォより、この世界のレォが頑張ったということだ!
「レォ、めちゃくちゃ強くなるまで、頑張ったんだね!」
思わず背伸びして、レォのちっちゃな頭をなでなでしてしまいました。
「キーアがほめてくれるなら、がんばって、よかった」
ふうわりまなじりを朱く染めて笑ってくれるレォが、BLゲームのスチルのレォが霞んでしまうほど、とびきりかわいいです。
「レザイ家のぼんぼんが骨抜きじゃねえか」
褐色の肌に紅蓮の髪が映えるガダ先輩の登場だよ。
さすが攻略対象、きらきらのエフェクトが見える気がする。
鼻で笑われたレォは、激おこになるかなと思ったら、眉をあげただけだった。
「この至福を知らないとは、相変わらずご縁がないんだな。可哀想に」
鼻で笑い返されたガダ先輩が、真っ赤になって
「き──!」
ってなってる。かわいい。
「わーい! 主人公の僕が来たから、皆、もうだいじょうぶだからね──!」
おお、主人公が主人公を自称してるよ。
きらきらピンクなマェラも来ました。
ぴんくなエフェクトで、ぴかぴかしてる。さすが主人公。勿論かわいい。
「よし、皆そろったね。今回の出撃の指揮は、ロデア大公国の防衛を司るゼァル将軍が執る。皆のことをよく頼んでおいたから。紹介しておこう」
ハゥザが微笑んだ。
騎馬でやってきた将軍が、かろやかに白馬の背から飛び降りる。
鋼の短い髪が、闇色の眼帯にやわらかにかかる。
切れあがる鋼の瞳が皆を見渡し、キーアで止まった。
──目が、あった。
ずっと、2次元で、うっとりしてた。
凛々しくて、かっこよくて、誰ともなれ合わない孤高の将軍、実際にお傍にゆくのは畏れ多いだろうけれど、2次元なら画面にかぶりついて嘗めまわしたって、誰にも文句は言われない!
……いや、家族にドン引かれたけど……
『きゃ────!』
燃える頬でもだもだしたいのを、キーアは懸命にこらえた。
さ、さすがに時と場所は選ばなくては……!
きゅうっと唇を噛むキーアに、声が降る。
「ゼァル・ロデアだ。将軍の位にある」
低く張りのある、ビリビリするほど腰に響く声だった。
BLゲームより声がいい……!
とろける瞳で、キーアは拝んだ。
最愛の推しの、光臨です……!




