はじめまして!
すみません、ごめんなさい。
2次元が2.5次元を超えて3次元になった歓喜に、ちょっと頭と言動と動作がおかしくなりました!
あばばばしたキーアは、あわてて直角に頭をさげた。
「ご、ごめんなさい!」
深く頭をさげてから身体を起こし、膝を折って胸に手をあて、また頭をさげる。
「は、はじめまして、レォ・レザイさま。キピア家次期当主、キーア・キピアと申します」
スーパー従僕トマが姿勢を気をつけるように教えてくれた、貴族の敬礼のごあいさつ、できた!
じゃない、今すべきなのは、挙動不審の言い訳だ──!
「え、ええと、あの、レォ・レザイさまが、あんまりかっこいーってお聞きしてて『そんな高位貴族にへつらっちゃってー』って思ってたら、ほんとだったから、びっくりしました!」
言動のあんぽんたんが訂正できない!
だって、長い髪がさらさらしてるよ。
腰、ほっそ!
手足、なっが!
顔、ちっちゃ!
鼻、たっか!
きゃ──!
燃える頬で、もだもだして気づいた。
これって、悪役令息(伴侶(予定))と一緒の行動じゃね?
ごめん、ネィト!
きみはちっとも悪くない!
こんなにかっこいーと、きゃーきゃーして、もだもだしちゃうよ!
当然だよ!
反省した!
きゃーきゃーするキーアにドン引いたのだろう、レォが引き攣ってる。
──果てしなく、ごめん。
ファンは推しに迷惑をかけてはいけないんだよ!
最愛の推しは将軍だけど、もちろんレォも大すきだよ──!
『悪役令息と決闘だ!』のゲームが大すきだったのは、皆すごくかっこよくて、やさしくて、理想を煮詰めたみたいなゲームだったからだ。
イケメン、あいしてる──!
2次元が3次元になってるなんて、めちゃくちゃいー匂いがするなんて! 髪がさらさら揺れてるなんて! 拝まずにいられない──!
無意識で拝みポーズに入ったキーアは、わたわた起きあがる。
ちがった、謝罪だ!
「す、すみません、うるさくして。すぐいなくなります、ごめんなさい!」
あわあわ試験会場の闘技場へと向かおうとしたキーアに、レォが首を振る。
「……いや。魔法科の試験は、来週だ。今日は騎士科の試験なんだ」
わ──!
耳にぞくぞくする低音!
BLゲームどおりのイケボだ──!
きゃ──!
いちいち反応がうざくてごめんよ、レォ!
ニューキーアになってから攻略対象に初邂逅だから、ゆるしてくれ!
ひとしきりもだもだしてから、親切に教えてくれるレォを見あげる。
名前も顔もないモブにも、やさしいイケメン。
最高かよ──!
「レォさまは騎士科一択ですよね? 俺は併願なので来週も受験に来ます」
青磁の瞳が瞬いた。
「……併願?」
「はい」
「……きみが、騎士科に?」
「はい!」
スーパー従僕トマが鍛えてくれた拳を握ってみた。
周りのガチムチ受験生たちが
「ぷぷぷ」ってなってる!
ひどくない?
いちおう、ぷよってるのは治ったし、いい感じに仕上がったと思ったけどなあ。
ふくれるキーアに、ぽかんとしていたレォが、ちいさく笑う。
「では、ともに頑張ろう」
イケメン!
言動もイケメン!
輝いてる──!
これ間違いなくスチルだァア──!
拝んだ。
「なんか変な子がいる!」
「……騎士科の受験会場だぞ?」
「迷子じゃないか?」
うわさになりました。
すみませんでした。




