復讐の人狼ゲーム(多寡先シリーズ)
前回の捜査から12年ぶりの新作(しかも、なろうがウェブ初登場です)となりました。人間の「わたし」なら、ここまで感動的に描けなかったな。凄い時代になったもんだ……シミジミ
【AI小説】復讐の人狼ゲーム
「警部補、こちらです」
多井刑事の声に振り向くと、彼は手にした封筒を掲げていた。差出人の名前はない。ただ「多寡先警部補、多井刑事」と宛名があるだけだ。
「また変な手紙か」
多寡先警部補は眉をひそめた。彼と多井刑事のコンビは「多コンビ」として知られ、数々の難事件を解決してきた。その分、奇妙な脅迫状や感謝の手紙も多い。
封筒を開けると一枚のカードが出てきた。
『原ヶ島事件から5年。あなた方への裁きの時が来ました。明日、午後6時に指定の場所へ。娘さんのためにも』
カードの下には、多寡先の娘・春子の学校の制服姿を撮影した写真が添えられていた。
「こいつ...」
多寡先の拳が震えた。原ヶ島事件とは5年前、多コンビが解決した殺人事件。被害者は大学教授で、犯人は彼の教え子だった山田侃。動機は単純な復讐だった。教授のパワハラにより、山田の親友が自殺したのだ。
「山田が出所したのは去年だ。国分寺で目撃されたあと、行方をくらましているはずだが...」
多井刑事が言った。
「ああ。だが奴がこんなことをするとは思えない」
多寡先は写真を凝視し、すぐに花咲前署長に連絡した。
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翌日、指定された場所は都心から離れた廃屋だった。
「警部補、本当に来るべきでしたか?罠かもしれません」
多井刑事が周囲を警戒しながら言った。
「春子の身が危険だ。それに...」
多寡先の言葉は途切れた。彼の視線の先には、花咲前署長が立っていた。
「署長!なぜここに?」
多井刑事が驚いて声を上げた。
「私も招待状を受け取った。原ヶ島事件の捜査主任としての責任があるからな」
花咲は冷静に答えた。彼はつい先月まであすなろ署の署長を務めていた。
三人が廃屋に足を踏み入れると、中央に置かれたテーブルの上に封筒が置かれていた。多寡先が開くと、そこには人狼ゲームのルール説明書と役職カードがあった。
『ようこそ、裁きの場へ。これより人狼ゲームを開始します。この建物には合計6人がいます。そのうち1人が人狼、1人が狂人、残りが村人です。人狼に殺されるか、無実の人を処刑してしまうと、あなた方の大切な人に危害が及びます。ゲームは12時間。サバイバルの始まりです。—わいばぁん』
「何だこれは...」
多井刑事が言いかけたその時、突然停電が起きた。
一瞬の暗闇。
そして灯りがついた時、彼らの前には見知らぬ二人の男女が倒れていた。
「この人たち、生きてる?」
多井刑事が脈を確認する。
「生きてるが、気絶してる」
多寡先は状況を把握しようとした。メモによれば、参加者は6人。自分と多井、花咲で3人。倒れている2人を合わせて5人。もう1人はどこに?
「君たちも招待されたのか」
突然、声が響いた。振り向くと、そこには一人の男が立っていた。痩せた体型に、鋭い目つき。多寡先はすぐにその顔を思い出した。
「山田...侃」
「久しぶりですね、警部補」
山田は薄く笑った。
「私も招待状を受け取りました。『原ヶ島事件の真実を明らかにする』とね」
多寡先は身構えた。しかし山田は両手を広げ、武器を持っていないことを示した。
「安心してください。私はあなた方を恨んではいません。真犯人を見つけるために来たんです」
「何を言っている。お前が犯人だろう」
多井刑事が言い放った。
「私は冤罪です。5年間、言い続けてきました。そして今日、それを証明する」
その時、倒れていた男女が目を覚ました。二人は大学教授の同僚だという。原ヶ島事件の被害者である教授の同僚で、事件当時は証言台に立たなかった人物たちだ。
「私たちも招待されて...気づいたらここに」
女性が混乱した様子で言った。
「役職カードを見たか?」
花咲が全員に尋ねた。
各自、封筒からカードを取り出すと、そこには「村人」「人狼」などの役職が書かれていた。
「私は村人だ」
多寡先がカードを見せた。
「私も村人です」
多井刑事も続いた。
「私も村人だ」
花咲も同じカードを持っていた。
大学教授の同僚二人も村人カードを持っていると言った。
「では、山田君は?」
花咲が尋ねた。
山田はためらいがちにカードを見せた。「人狼」の文字。
「これは仕組まれたゲームだ」
山田は静かに言った。「私にはわかる。この状況を作ったのは、真の犯人だ」
多寡先は眉をひそめた。山田が真犯人でないとしたら、誰が?そのとき、彼は何かに気づいた。
「待て。参加者は6人のはずだ。でも今ここにいるのは...」
数えてみると5人しかいない。
突然、建物中に声が響いた。
『ゲームが始まりました。12時間以内に人狼を見つけ出しなさい。失敗すれば、大切な人が犠牲になります』
声の主は「わいばぁん」を名乗った。
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8時間が経過した。
多寡先たちは建物内を探索し、出口を探したが、すべてが封鎖されていた。通信手段もなく、外部との連絡は絶たれている。
「時間がない。春子が危険だ」
多寡先は焦りを隠せなかった。
「警部補、冷静に。これは罠です」
多井刑事が言った。
彼らは廃屋の一室に集まり、状況を整理していた。
「原ヶ島事件を振り返るべきだ」
花咲が提案した。「この"ゲーム"の目的はそこにある」
5年前、大学教授・原ヶ島誠は自宅で刺殺された。現場に残された指紋と防犯カメラの映像から、山田が容疑者として浮上。動機は原ヶ島教授のパワハラにより、山田の親友が自殺したことへの復讐だった。
「だが私はやっていない。あの日、確かに教授を訪ねたが、彼が倒れているのを見て逃げただけだ」
山田は主張した。
「証拠はすべてお前を指していた」
多井刑事は冷たく言った。
「それが仕組まれたものだとしたら?」
山田が反論した。
多寡先は考え込んだ。確かに事件は完璧すぎた。指紋、足跡、防犯カメラ...すべてが山田を犯人として示していた。
「では、真犯人は誰だと?」
花咲が山田に尋ねた。
「それを探るためにここにいるんです」
山田は答えた。
突然、廃屋の別の部屋から悲鳴が聞こえた。全員が駆けつけると、女性教授が床に倒れていた。背中から血を流している。
「刺されてる!」
多井刑事が叫んだ。
「脈がある。救急車を...いや、連絡手段がない」
多寡先は女性の傷を確認した。幸い、致命傷ではなさそうだった。
「誰がやった?」
花咲が周囲を見回した。
男性教授は「トイレに行ってた」と言い、山田は「部屋の隅で考え事をしていた」と主張。多寡先と多井は常に一緒にいたため、お互いにアリバイがある。
「じゃあ...」
多寡先が花咲を見た。
「私も廊下にいた。でも何も見ていない」
花咲は冷静に答えた。
状況は混迷を深めた。誰もが疑わしく、誰も信じられない。
その時、多寡先の携帯電話が鳴った。通信できないはずなのに。
画面には娘・春子からのメッセージ。
『お父さん、助けて。わいばぁんという人が...』
メッセージは途切れていた。
「春子!」
多寡先は叫んだ。
すると再び建物中に声が響いた。
『時間切れが近づいています。選択をしなければ、犠牲者が出ます』
多寡先は決断した。
「みんな、俺についてこい」
彼は廃屋の地下へと向かった。そこには隠された部屋があった。ドアを蹴破ると、中には監視カメラとパソコンが設置されていた。
「ここから私たちを監視していたのか」
多井刑事が言った。
多寡先はパソコンを調べ始めた。そこには原ヶ島事件の捜査資料がすべて保存されていた。そして、驚くべき事実が明らかになった。
「これは...」
監視カメラの映像には、原ヶ島教授を殺害する人物が映っていた。それは花咲だった。
「署長...」
多寡先と多井は言葉を失った。
その時、後ろから拍手が聞こえた。振り向くと、花咲が立っていた。手には銃。
「よく見つけたな、多寡先」
花咲の表情は冷酷なものに変わっていた。
「なぜだ、署長」
多寡先が問いかけた。
「原ヶ島は知っていたんだ。私が警察内部の汚職に関わっていることを。彼は証拠を集め、私を告発しようとしていた。だから消した。そして完璧な罪を山田に着せた」
「では、このゲームは?」
多井刑事が尋ねた。
「ああ、これは私じゃない。私も招待されたんだ」
花咲は言った。
「私です」
新たな声が響いた。入口には山田が立っていた。
「私が『わいばぁん』です。5年間、真実を突き止めるために調査を続けた。そして花咲があなた方を騙していたことを知った」
「山田...」
多寡先は驚いた。
「あなた方は無実の私を刑務所に送った。でも恨んでいません。あなた方も騙されていたのですから。そして今、真実を知った」
花咲は銃を山田に向けた。しかし多井刑事が素早く動き、花咲の腕をつかんだ。銃声が響き、多井は肩を撃たれた。
「多井!」
多寡先が叫んだ。
「大丈夫...かすり傷だ」
多井は歯を食いしばりながら言った。
その隙に多寡先は花咲に飛びかかり、銃を取り上げた。
「花咲元署長、あなたを逮捕する」
多寡先は言い放った。
花咲は抵抗する力もなく、その場に膝をついた。
「すべて終わったか...」
多寡先は山田を見た。
「春子は?」
「安全です。彼女にメッセージを送ったのは私です。実際に彼女に危害を加えるつもりはありませんでした。ただ、あなたを動かすための...」
「そうか」
多寡先はほっと胸をなでおろした。
多井刑事が包帯を巻きながら言った。
「しかし、もう一人の人狼は?ゲームには6人参加のはずだが」
山田は微笑んだ。
「それは単なる仕掛けです。真の人狼は花咲だけ。残りは全員村人でした」
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一週間後、あすなろ署。
「署長の犯行を立証する証拠が揃いました」
多井刑事が報告した。肩の包帯はまだ取れていない。
「ああ。山田の冤罪も晴れるだろう」
多寡先警部補は窓の外を見つめていた。
「警部補、パンケーキでも食べに行きませんか?」
多井刑事が提案した。
多寡先は珍しく笑顔を見せた。
「悪くない。その前に、春子を迎えに行かないとな」
二人は署を出た。春子は父親の姿を見つけると、珍しく走り寄ってきた。
「お父さん」
多寡先は娘を抱きしめた。
「心配かけたな」
春子は照れながらも父の腕の中で安心した表情を浮かべた。
「お父さんたち、すごいね」
「いや、今回は山田のおかげだ」
多寡先は正直に答えた。
「山田さんにも会ってみたい」
春子がつぶやいた。
「ああ、機会があれば」
多寡先は言った。「彼は長い間、冤罪と闘ってきた。その強さには敬服する」
三人はパンケーキ店に向かった。太陽が眩しく照りつける中、多コンビの新たな一日が始まろうとしていた。
(終)
メイキングで明らかにしますが、今回は人物名に苦労しました。まあ、寡黙という言葉も有るから、仕方ない(架空のキャラ名とは言え)