感覚マヒ
夜十一時。半分辛い、半分普通の焼きそばにお湯を注ぐ為、嬉々として立ち上がる。
十月も下旬になるというのに未だ世間は暑さに苦しんでいる。一度は洗って押し入れにしまった扇風機も再び役目を与えられている。羽の縁に埃が付着してきているのを見るに、再度出してからも相当稼働したことがわかる。そんな扇風機を左膝でどつきながら部屋を出た。
私の部屋にはお湯を生成する機械がない。リビングに行けばもちろんポットやらケトルがあるのだが、手っ取り早く済ませるなら隣の兄の部屋に行くのがいい。兄の部屋には温める系の家電が揃っている。ケトル、電子レンジ、それぐらいしかないが。対して、私の部屋に冷蔵庫&冷凍庫のように冷やす系の家電がある。そのため、私たちはお腹が空いたり、飲み物が欲しくなった際には互いの部屋を昼夜問わず行き来することが多い。兄とはそのタイミング以外ではあまり話したりもしないので唯一のコミュニケーションと言ってもいいかもしれない。
中身のかやくやソースの存在を確かめるように容器を振りながら入室する。
奴もカップ麺を手にしていた。が、食べるわけではないようだ。レジ袋から取り出して私室に置くにしては大きい机に二、三個積み上げているだけだった。
「行ってきましたよ」
「えっ、ライブ?」
兄の報告に思わずそう答えた。昨日映画館でライブ映像を見てきたのが尾を引いた結果だった。
「いや、飲みに行ってきた」
兄が否定して続けたところで思い出した。
以前にアルバイトの男子大学生と飲みに行く、と話していた気がする。
私は若者のお酒離れをモロに食らっているタイプの人間なのでその話に全く興味が湧かず、へぇーと聞き流していた。
職場でしか会わない人と居酒屋に入って何を話すというのだろうか。親しいアルバイトの子が出来た、と聞かされた際には別に共通の趣味があるという感じではなかった。やはり駄弁るとしたら仕事の話になるのだろうか。
「うちの店、客層悪くない?って話した」
本当にそうだった。
というかそんなこと接客業やっている人の大体が思っている。単に悪い人のイメージが強いだけで、統計してみたらそうでもないことが多いと思う。
と意見しようとしたが、酔いが回って気持ちよく語っているので遮りはしなかった。
兄は泥酔まではいかないが、そこそこ酔いが進んでいる様子だった。
私はよくYouTubeで酒回とよばれる(私だけが呼んでいるのかもしれない)動画を見て、甲高い声で爆笑している。あれはいい。注目しているクリエイター達がお酒により側が外れ、普段ならしない行為や発言をする。しかもそれらは編集というフィルターを通したもので安全に見れる。それと同時に編集でカットされた部分にどんな出来事があったのか、と妄想が膨らむ。直接的な楽しみと間接的な楽しみ、どちらもあるのだ。
そういう動画ばかり見ているせいか、こう酔っている人を見ると何か面白いことをするのではないが、とニヤついて観察してしまうことがある。
しかし、現実はそう簡単に面白さが転がって来たりはしない。結構面白くない。
まぁ、酔った状態が必ず面白いなら皆んなYouTuberになっている。
だが、そうは分かっていても割と本気で私は酔うなら面白くないと、そう考えている。それも私からお酒を遠ざけている一つの要因かもしれない。