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曖昧模糊  作者: 文ノ京子
2/8

ボードとマーカー

 いつどこで買ったか。

 私の部屋は整理整頓という言葉が存在し得ない空間になっているのだが、特にそれは床にものが散乱していることで形成されていて、故に壁にかけられているそれは資材ゴミの上に悠然と乗っかる猫のように、部屋のガラクタ部分とそうでないところの境目を担っている。とは言っても、意識し始めたのは今この瞬間からで、冒頭にも書いた通りそいつの出自も思い出せないくらいにはこれまで興味を示さなかった。

 銀色の洋灯吊にひとつ寂しく吊るされているホワイトボード。サイズはA3ぐらいだろうか。そこそこ大きめだ。角が丸くなっていて、左端には縦に黒色と青色のボードマーカーが縦列駐車している。キャップには小さいケシケシ(本来の名称不明)がついているが、役割をなさなそうなくらいペラペラなものだ。

 肝心なボードに書かれているのは、


 『 部屋の片付け

    6/14

   英語勉強

     下    』


 と、とっくに頓挫した目標。

 書いた時の記憶がまるでない私が見るに、6/14までに部屋の片付け、英語勉強は『下』(恐らく『正』の三画目まで書いてある)から三日で放棄した、と推測する。

 しかし、文字の色を観察するとその推測が違う気がしてくる。


 『 部屋の片付け(赤字)

    6/14(青色)

   英語勉強(青色)

     下 (赤色)   』


 どういう色分けなのだろうか。というか、赤色のマーカーは何処へ? ボードの付近には落ちていない。

 6/14が青字なのがもし後から期限を設けたからだとしたら、私は期限設けず→失敗→期限を設けるという怠惰ムーブをかましたことになる。

 そういえば私にはカレンダーアプリにその日何をやるのか、スケジュールする習慣があ

る。これは三日坊主ではなく、習慣化出来ている。

 6/14の予定を見てみよう。


 『•宝くじ連番購入(栞用)

  •本買う

  •買い物(食パン、割り箸)

  •ゴミ捨て

  •お風呂掃除

  •布団干す

  •ナンプレ(30分)    』


 予定にすら入っていない。私は部屋の片付けよりもナンプレを優先したようだ。その優先されたナンプレの本も今は大量の本の下敷きになっている。

 仮にここに登録してあったとしても、実際に行動に移していたかは定かではない。確かめる方法はなかったわけだ。だが、私の記憶ではここ数年部屋が綺麗だったのを見たことはないので、これまた怠惰ムーブをかましたのであろう。

 ちなみに、宝くじは栞にすることはおすすめしない。私は一ヶ月でどれだけ本を読んだか簡単にわかる方法がないだろうかと考えた際に、宝くじを栞にし。読了後回収したものを数えることにより冊数を把握する、という画期的な方法(二ヶ月後に廃止)を思いついたために実施しただけだ。一般の方は普通の栞を使ってください。宝くじは透けるほどに薄くて栞という役目は荷が重そうだった。

 カレンダーアプリから目を離すと、ホワイトボードくんと目が合う。改めて見ると彼は思ったよりも大きくて、二つの目標を書いただけでは全然白い部分が埋まっていなかった。

 “この目標をもう一度目指してみようか?“

 “それとも、リセットして新しい目標でも立てるかい?“

 多分こんなことを言っているに違いない。彼はいい奴だ。

 その問いかけに勢いづけるように

 “書くんだったら俺らも固くなっちまったペン先に鞭打ってインク絞り出しまっせ“

 と、マーカーたちも声を上げる。

 今、新しく目標を掲げるとしたらなんだろうか。

 そもそもボードに目標を書いておくのは効果的なのだろうか。新年の願いは叶わないというし、それと似たものがその行為にもあるのでは。

 逆に叶えないことでも書いてみようか。

 

 『買い物カートを元に戻さない』

 『友達に君の聴いている曲、流行りものばかりで主体性ないね、と言ってみる』


 とかどうだろう。

 投げやりにマーカーを取る。そして、小さなケシケシ(イレーザーというらしい)で書いてある文字を擦る。

 ケシケシ。コスコス。ケシコス。


 『 部屋の片付け

    6/14

   英語勉強

     下     』

 

 やっぱり消えないじゃないか。

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