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曖昧模糊  作者: 文ノ京子
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限られた楽しみ

 一人で四人用のテーブルを使うのはひけるが、二人用テーブルを使うのにはそれほど罪悪感を感じない。

 ショッピングモールのフードコートでMサイズのポテトを睨みながらこれを書いている。

 右隣では柱に埋め込まれたディスプレイのスピーカーから大音量で広告が流れている。そこそこ大きい音で音楽を聴いているのに、それを突き破って広告は鼓膜に届く。広告が切り替わるその瞬間だけ、イヤホンから流れる音楽がはっきりと聴こえる。

 広告が切り替わるように、音楽も一曲終われば次の曲に切り替わる。どちらも移行する際に一瞬無音があるが、互いの無音は重なりはせず、ちぐはぐに起きる。

 また一曲終わった。その体感1.5秒後、楽曲が流れておよそ四分十六秒前の記憶と照らし合わせ、私は眉を顰めた。スマホを机に置いたまま、音楽アプリの画面を開く。

 どうやら再生していたプレイリストに同じ曲を二つ追加していたらしい。シングル版とアルバム版。納得しながらプレイリストを編集し、アルバム版の方をリストから外す。初出に敬意を込めて。カフェラテを一口飲み、ポテトをつまむ。

 私はリピート再生が苦手だ。

 アウトロが終わり、体感1.5秒後、楽器または声が聴こえ、それが三、四分前の記憶を想起させると、頭のてっぺんがなんだか熱を持ち、カウンターのようなものがカチリと進む感覚を覚える。

 カウントが進むごと、頭の小さな熱源は靄のような熱に変わっていき、そこで私は「飽き」かけていることに気がつく。先ほどまで「好き」で嗜んでいたのにいつの間にか「嫌い」の一歩手前に来てしまっている。リピート再生をしているとこんな体験が毎度のこと起こるので、あまり自分には好ましい機能ではないなと感じている。

 一度瀬戸際に追いやられると、ランダム再生で流れてきた時に飽きてしまうことに恐怖して、別の曲にスキップするという変な癖がつく。これは実質飽きて飛ばしているのでは、と思うかもしれないが、そういうわけではない。『落ち込んだ時に聞きたいのに、その時に嫌いになってしまっていたら損だ』と瞬間的に貧乏性が働き、先送りにするのだ。

 好きなものをやっぱり好きでいたいものだ。音楽に限らず。

 しかし、ずっと同じ感動を味わい続けるのは難しいと大体勘づいている。

 私の友人に白いパッケージをしたカップ焼きそばを嗜食している方がいた。中学時代、その方は三食カップ焼きそばを食べ続け、何かのキャパシティを超えた時、私の部屋で嘔吐していた。

 今思い出してもあれは衝撃的で、好きを好きでいられる期間または回数は限られているのかもしれない、そう思わせる。まあ、あれは食事なので、身体的な要素も加わっていて心持だけではどうにもならない状況だったのかもしれないが。

 私は好意印象のものを長く楽しみたいため、そのキャパシティを超えないようちまちま嗜んでいる。音楽で言えば、基本ランダム再生で聴くようにしている。例え、フォローしているアーティストの新曲であっても、リピート再生にはしない。そうやって制限すると、ランダム再生でホットな曲が流れてきた際の感動がすごい。全く歌詞が覚えられない弊害もあるが、一曲一曲のカウントを少しでも遅らせ流ようにして摂取していくやり方は私は好んでいる。

 食べ物や音楽は不変性を持っている。アレンジされているものもあるがそれは結局アレンジされている別の料理で、違う曲だ。

 オリジナルの楽曲を聴いた人とアレンジした楽曲を聴いた人が語り合ったら違いが出る。一曲は一曲。その曲は、CDで聴いているその曲は、スマホで聴いているその曲は変わらない。不変性は「飽き」の原因とも言える。ゆえに不変性を持つものは消費していくものなのかもしれない。

 しかし、私は音楽の在庫が復活したのを感じたことがある。

 生歌を聴いた時、ドラマのラストシーンで流れた時、別場面でその曲への感動を覚えると私のカウンターは少し巻き戻る。

 そんなことを駆使しながら私は、自分で決めつけた賞味期限、賞味回数を調節して生活している。

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