友人の引っ越した物件
「それにしても久しぶりだね。新居での生活はどう?慣れた?」
友達の加奈の新居にお呼ばれした休日。
新居は、よくある単身者向けの2階建てアパート。
なんの変哲もない都内の8畳くらいの1K。築年数もそこそこでお風呂とトイレはセパレート。
部屋は一階で、日当たりはそんなによくないけれど家賃がめちゃくちゃ安かったと言っていた。
なんの変哲もない女子一人暮らしの部屋。
私はベランダ近くのソファで、デスクの椅子に加奈が座って話をしていた。
「まだあんまり・・・・香織にはさっきも言ったけど、急に呼んでごめんね。びっくりしたでしょ。うちら二人で遊ぶことなかったし。」
大学を卒業してから4年。
関西方面の大学から上京して、卒業後1年くらいは同じ上京組で集まることが多かった。
けれども、研修期間が終わって、配属異動だとかなんだで徐々に集まることも少なくなった。
だから久しぶりに加奈から連絡が来たときはびっくりした。
『ひさしぶり!最近××駅に引っ越したんだけど、香織はまだ△△線沿いに住んでる?久々に会えないかな』
加奈は大学時代はそこまで仲が良かったわけではなかった。
上京後の集まりでは頻繁に顔を合わせることが多かったけど、一対一で会ったりしことはなかったし、
もちろん前にどこに住んでたのかも知らなかった。
加奈が引っ越した先の××駅は私が住んでいる家と同じ沿線沿いで、でも10駅以上は離れている。
『時間は合わせるよ~!』
『新居に来てほしいんだ。』
なんて、私が返信する前に連投メッセージ。
家に招待するくらいだから、見せびらかしたいくらい素敵な部屋なのかも?と変な期待をし、
私はOKと返事をした。
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「ううん、声かけてくれて嬉しかったよ。みんなで集まることも無くなったし、私はSNSもしてないから
近況知りたかったし。」
実際、3年近く会ってないから今どうしているか色々聞きたかった。
「そう、それならよかった。」
「うんうん、加奈は他のみんなと連絡とったりしてる?私は集まりが無くなってからは個別で連絡とったの加奈が初めてだよ。」
「私も。でも前に美樹ちゃんには連絡とって、10日前くらいにここに遊びに来てもらったよ。美樹ちゃんも最近東京に異動になって△駅に住んでるみたい。」
美樹ちゃんも集まりのメンバーの一人だった子。
でも早々に地方配属が決まって引っ越してから、私は全く接点がなくなってしまっていた。
「えー!そうなんだ!元気にしてた?」
「元気だったよ。けど・・・」
なんだかさっきからどこかうわの空というか、落ち着きがない。
「けど?あ、もしかして喧嘩でもしたの?」
「ううん、そういうわけじゃないの。」
ちらちらと天井を見て、私を見て、なんだか忙しい仕草の加奈。
「さっきから上見てるけど、上の住人の人の音でも気になるの?」
もしかして騒音に悩まされてる?と思って聞いてみた。
「上の部屋は今は空きみたいだからそんなことないよ。」
違ったか。じゃあなんで上を見てるんだろ?
と、そのとき、ソファに座ってた私の背もたれに違和感を感じた。
「あれ、何これ」
背中とソファの間に手を入れてみると、何か服のようなものが出てきた。
小さな赤ちゃんの靴下の片方?
ところどころ擦り切れていて、何回も洗濯したのか、緑色が褪せていた。
ガタンッ
加奈が勢いよく椅子から立ち上がって、椅子が倒れた。
「・・・なんで・・・」
顔色は真っ青。
「誰かここに赤ちゃん連れの人来た?忘れ物かな。」
「・・・・まだ美樹ちゃんと、香織しか呼んでない。実は美樹ちゃんが来たときも、同じだったの」
「同じ?」
「そのときは、前の住人の人の忘れ物かもって話してて。忘れ物だとしても取りに帰ってこないだろうってすぐに捨てたの。」
「でも・・・・おかしいよね。ソファは私が引っ越ししてから買ったものだから、背もたれに置かれてるなんて、おかしい。」
加奈の話は最後の方は独り言みたいになっていた。
つまり、美樹ちゃんが来た時もソファの背もたれと美樹ちゃんの背中の間に靴下が出てきたということ?
「うーん、確かに・・・」
捨て忘れた靴下をソファに放置してたらさすがに気づくだろうし、正直、少し気味が悪いなとは思う。
「実は美樹ちゃんね、その靴下が出てきたあたりから具合が悪くなって、早々に帰っちゃったんだ。それから連絡取れなくて・・・メッセージに既読もつかない」
「え、何それ、ちょっと心配だね?」
音信不通なのはいただけない。確かここに来たのは10日前くらいと言ってたから、体調を崩してるにしては少し長い。
ふと、
私の顔に影が差したので、思わず窓のほうを見る。が、日が陰った様子はない。
そもそもこの部屋は日当たりが悪い。
加奈のほうに振り返ると、何故か目を見開いてこちらを凝視している。
「」
口は動いているが、声になっていない声で話してるから何を言ってるのかわからない。
「何?どうしたの?」
あまりに様子がおかしいから声をかけるけど、一点を見つめたままの加奈。
その視線の先には何もない。
「ごめん香織、コンビニ行こう、いますぐ」
顔面蒼白になった加奈がようやく声を出して、私の手をつかんで、二人で家を出た。
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外に出た加奈曰く、
私の上の天井から黒い影が垂れてきて、私の顔を覗き込んでいたとのこと。
「ごめん、家に人を呼んだのは実は香織で4人目。香織と美樹ちゃん以外の二人は部屋に入ってくれなかったの・・・」
初めて家に呼んだ一人目の人は、中に入ろうと玄関まで来てらしいがその場で嘔吐。そのまま帰宅。
後日、別のもう一人は建物を見ただけで引き返したらしい。
「二人目の子は敏感な子だったんだけど、天井に気を付けてって帰り際に言われて・・・。でも不動産屋から特にいわくつきとかそんな話は一切聞いてないし、生活してる分には何も変なことはなかったんだ。」
「でも美樹ちゃんも体調崩して・・・さすがになんか気味悪くなっちゃって。で、そういえば香織って怪談話とか平気だったな、って思い出して。だから、声かけたの。そういうの平気な香織がダメだったら本当に何かあるのかもって。」
私自身は平気だった。
けれど、靴下の件が起きた。そして黒い影。
半泣き状態でもう部屋に戻りたくないと言ってた加奈は、今日は同期の友人の家に泊まる約束を取り付けていた。
そんな加奈には言えなかった。
家を出る直前に、天井にまで届く手足の長い人が腰を折り曲げてこちらを見ていたことを。
ぽっくりと穴が開いた両目は、加奈のほうをずっとずっと見ていたことを。
という夢を見たので、書き残してみた。
夢では美樹ちゃんも同伴して3人で家でまったりしていた。
ただ、美樹ちゃんは沖縄から来て、怖くて途中で沖縄に帰っっちゃったっていう夢ならではのよくわからんぶっとんだ設定だったので大幅に改変。