村人と忌み子
なんとか今回のゴブリン討伐も成功した。
倒した数は、ボブゴブリン1匹、雑魚ゴブリンが24匹。三日月村よりは少ない数だった。
しかし、村からそれ程離れていない場所に、ゴブリンが巣をたびたび作るような洞穴があるというのでは、今後もまた同じような事が起きかねない。
村に帰ったら、警備するか、洞穴を潰すか、何か手立てを考えるように話そう。
( 俺の話を聴いてくれればだけど……。)
もう一つ、考えないといけない点がある。
今回は、仮面を被ったゴブリンはおらず、攫われた少女が仮面を被っていた。
そして、少女に被せられた仮面がどうやっても剥がせないということだ。
村の大人たちも、なんとか仮面を外そうとしていたのだが、人の手では剥がすことはできなかった。
♢
拐われた少女=ナギは、無事に村へ送り届ける事に成功したのだが、村に着くや否や、俺から奪い取るようにして村の大人達に連れていかれた。
まるで俺がナギちゃんを拐った犯人かのように……。
しょうがなく、俺たちは大人達の後ろに付いて、ナギちゃんが運びこまれた村の集会所まで歩く。
しかし、救出前に説明を受けた時には入れてくれた集会所に、なぜか今度は入れてくれないという……。
武装した男達が入口で俺たちを足止めしたのだ。
『何よっ! こっちは、せっかく命懸けでナギって子を助けてきてやったのに! なんでそんな目で私たちを睨んでるのよっ!』
いつものように、俺の代わりに怒ってくれる優しい妖精だったが、正確には、睨まれているのは俺一人のようだ。
――忌み子のダンピール
この村に来てから、何度となく聴こえてくるこの言葉。俺の知識には無いこの言葉が、おそらく俺の事を指した言葉だというのは容易に想像がつく。
( たぶん、俺を嫌ってる理由なんだろうけど……まったく、俺が何をしたって言うんだっ! )
強いストレスは、最近薄まっていた前世からのイジメられた記憶を刺激する……。
理不尽な上司と仲間、魔物の子供と言って石を投げつける街の住人、嫌われ者にはお似合いだとダンジョンの裂け目に俺を落とす冒険者………。
深く深く、気持ちが、沈んでいく………………。
「ヒロ君っ! 君はナギちゃんを助けたのよ! 感謝される事をしたの! 胸を張りなさい!」
アメワが、俺を正面から見据え、見張っている男たちや、集会所の周辺からこちらの様子を伺っている村人達にも聞かせるように、大きな声で叫んだ。
『そうよっ! それなのに、なんなのよここの連中! もうっ! 頭に来るわねっ!!』
2人の大きな声に、スッと肩の力が抜くことができた。
「ありがとう2人とも。なんか気持ちが楽になったよ。」
自分は悪くないはずなのに、もしかしたら、自分が悪いのかと思いそうになった時、お前は間違ってない、お前は正しいと声を上げてくれる。
自分が悪いのではないと思い出させてくれた。
心が救われるというのは、こういう事なのだろう。
『だいたいね、自分たちは子供の為に命も張らず、村でイライラしてるだけじゃないっ!』
おしゃべり妖精が口撃を続けていると、流石に我慢できなくなった村の男達が武器を振り上げて迫ってきた。
「なんで俺たちがこんな目にあってると思ってるんだ! お前のせいだろ! この、忌み子のダンピールがっ!」
また、この言葉……いったい何なんだ!?
「やめなさい! 一応はナギの恩人だぞ!」
集会所の中から出てきた村長が男達止めた。
「妖精族よ、村の男衆を煽るのはやめてくれ……。冒険者よ、中に入るがよい。話がある。」
なんか、とっても上から目線だけど、こちらも聞きたいことがたくさんできたから、望むところだね。
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