子供の命と大人の命
俺たちが案内されたのは、村の集会所だった。
殺気立つ男たちに連れられ、集会所の中に作られた臨時の会議室に通された。
そこでゴブリン討伐の為の最小限の情報を渡される。
5日も前にナギという少女が攫われたこと。
そして、その少女が、あの時、俺に三つ葉のクローバーをくれた少女だったということ……。
居心地の悪い村からさっさと出てしまいた俺は、村人とのやり取りもそこそこに、さっさとゴブリンの住み着いたという、洞穴――前にゴブリンが住処にしていた所と同じだった――に向けて出発した。
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(いつまで経っても冒険者が来てくれないと思っていたら、よりによってこんな奴が――)
(お前が前に来た時に、ゴブリンを全部殺してくれていれば――)
(もっと早く来てくれていれば、ナギが攫われることなんかなかったのに――)
(忌み子が前にこの村に来たから、この村に不幸がやってきたんだ――)
(祟り憑きめ。あいつのせいでこの村に祟りが俺たちに――)
村長にゴブリンの情報を聞いている間、ただの衝立で仕切られただけの会議室の周りから、ヒロに対する罵詈雑言が静かに繰り返されていた。
俺は、周りのヒソヒソ声ばかりが気になってしまい、そのせいで村長の話が耳に入らず、情報をしっかりと覚える事が出来なかった。
俺は、村人の罵詈雑言に耐えることができず、逃げるように村を出たんだ……。
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「――ヒロ君、大丈夫?」
村から出てから少しした所で、俺は吐き気に耐えられず、道の脇で胃の中のものをすべて吐き出していた。
優しい妖精は、涙を浮かべながら両手で俺の背中をさすってくれている。
「ありがとう……だいぶ落ち着いたよ」
何故あんなに悪意をぶつけられなくてなならないのだろうか。街を歩いていても、あそこまで酷い悪意をぶつけられたことはない。
「ナギちゃんが攫われて、もう5日も経ってるんだ。早く行かないと……。」
『ちょっと! またこの間みたいに無理な突撃するつもり!? 5日も経ってたら無事なわけないでしょ? 今回は安全策でいくべきよ!』
「ヒロ君、私もそう思うわ。ナミみたいに攫われて直ぐならまだしも、5日も経っていれるら、もう無理だと思う。」
『だいたい、子供が攫われたっていうのに、あの大人達は何やってんのよ! 自分たちはな〜んにもしないで。子供を守るのは大人の義務でしょ!』
「あの村、ヒロ君への態度もそうだけど、何か異常な感じよね……でも戦うスキルがないと、なかなか死地には向かえないものかもよ。」
『我がの身の可愛さに、自分達の安全のことばかりを考えているのよ! あいつらは子供の命より自分たちが大事なのよ!』
二人が村人の批判を繰り広げている間に、俺の焦る気持ちが落ち着いてきた。
あの時、俺に三葉のクローバーをくれた少女が、今回攫われた子供だと知って、正直なところテンパってしまったところもある。
また、それに加えて、村人全員が俺に向かって、お前が悪いと言っているように感じられ、それに対し、自分自身は悪いはずはないと考えながらも、やっぱり自分が悪かったのかという思いが浮かんできて……。
頭がごちゃごちゃになって、思考回路がショートしてしまっていたようだ。
冷静になってもう一度考えてみる。でも――
「そうかも知れない……でも、可能性がある限り、ナギちゃんを助けに行きたいんだ。」
俺の覚悟を決めた言葉に、優しい妖精も、元冒険者の魔術師も、黙って頷いてくれた。
あの時、俺の心を救ってくれた少女。
無事でいてくれ……
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