ぼっち冒険者の変化
「――久しぶり、アメワ。」
約一年ぶりに会った元魔術師の少女は、ショートだった黒髪が肩まで伸び、すっかり大人っぽくなっていた。
彼女は、実家の農家を手伝いながら、村の子供達に読み書きを教えているそうで、【教育】の才能を生かし、いずれは街の学校で勉強し、教師になりたいと考えているらしい。
「久しぶりね、ヒロ君。随分と名を揚げているみたいじゃない?」
「い、いや……どうせ白い魔物とか言われているやつだろ? いつまで経っても、みんなの俺を見る目は変わらないよ……。」
「違う、違う。単独でダンジョンの探索組をやってる少年がいるって、この村にも噂が流れてきてるのよ!」
『ちょっと! 単独ってどういう事よっ! リーダーは私なんだけど? 私はどこに行ったのよっ!』
あれれ、おしゃべり妖精さん? この間までは指揮官って言ってなかった?
「ごめん、ごめん! もちろん、相棒の可愛い妖精さんの噂も聞いてるわ!」
(実際には、口だけ妖精って噂なんだけど……)
『ふん! 当然よっ!』
▼△▼△▼△▼
前世の記憶を思いだし、アリウムからヒロへと意識が変わってから約2年。最近の俺は、前世の事を思い出すことが少なくなってきた。
なんというか、35歳のおっさんであった、央という人間の感覚より、現在の14歳の少年としてのヒロという人間の感覚が大きくなっきていて、年相応な感情というものに落ち着いてきているのだ。
そう、以前には感じなかった感情……
今、俺は目の前にいる16歳の少女に、なんとなく惹かれてしまっているのだ――
(いやいや、子供相手に何考えてるんだ……。)
おっさんの俺は否定するのだが、少年の俺は、どうにもソワソワと落ち着かなくなる。なんとも悩ましい……。
▼△▼△▼△▼
それにしても良かった。カヒコが帰らぬ人になった時、アメワはこの世の終わりのような顔をして、人生に絶望してしまっていたと思う。
それが、今では子供達に読み書きを教えたり、家の手伝いをしたり、何よりこうやって笑顔を見せてくれている。
一年という時間は、彼女にとって、カヒコの死を受け入れて、そこから先に進むための心の整理をつける為に良い時間だったのだろう。
♢
「カヒコ、久しぶり。来たよ。」
三人でカヒコの墓に挨拶をする。
アリウムが言っていたあの言葉、
――人は覚えてくれている人がいなくなった時、本当にその存在が無くなってしまうんだ
俺もたぶんそうなんだろうと思う。だから、俺はアリウムの名前をパーティーの名前にしたし、カヒコのことも絶対に忘れない。
きっと、アメワもカヒコの事を忘れることはないだろう。
♢
「君は、カヒコの遺骨を届けてくれた少年だね? もしかして君がゴブリン討伐の依頼を受けてくれたのか?」
カヒコの墓からの帰り道、慌てた様子で集まっている大人の一人に声をかけられた。
「はい、もしかしてカヒコのお父さんですか?」
「あぁ、あの時は何も構えず済まなかったね。遺骨を届けてくれてありがとう。おかげで墓もつくれたよ。」
カヒコの父親と握手をする。
「そ、それより、何かあったんですか? ど、どうにも慌ただしい、ご様子ですが?」
集まっている大人達の物々しい雰囲気に気圧されてしまうが、なんとか言葉を紡ぐ。
「あぁ、実は子供が拐われたんだ。おそらく最近増えたゴブリンの仕業だと思う。いつもは家畜を襲うだけなのだが、今回は外で遊んでいた子供が狙われたようなんだ……。」
人に悪さをするのが地上の魔物たち。
急いでゴブリンを討伐しなくては。
「わかりました。一刻も早くゴブリンを討伐に向かいます。どこに巣を作っているか、情報はありますか?!」
「――私が案内するわ! 子供が拐われたなんて、私もじっとしてられないもの! ヒロ君、足手纏いにはならないようにするから、一緒に連れて行って!」
急遽、精霊使いと妖精と元魔術師の三人パーティーで、ゴブリンの巣に強襲をかけることになった―