いじめられっ子、世にはばかる
「ヒロ……ありがとう……そして、あの時は済まなかった……。」
カヒコがベッドの上に上半身だけを起こし、頭を下げた。それに合わせてアメワも頭を下げる。
「あの時は、君を魔物の子供だなんて酷い噂を信じてしまって……いや……違うな。俺たち2人が街で孤立するのが怖くて、お前を悪者にして俺たちが逃げてしまったんだ。ごめん……。」
「私も……私たちに嫌悪の矛先が向くのが怖くて……本当にごめんなさい。」
――人は弱いな……自分の身を守ることで精一杯だ。
『あんた達! ヒロがどれだけ傷ついたと思っているのよっ! 私は絶対許さないからっ!』
――俺の事で、俺以上に怒ってくれる仲間がいる。
「お前を裏切ってしまった のに、こうやって命を助けてもらって……。しかも、こんな部屋まで……、俺はお前に恨まれても仕方がないのに……。」
――まぁ、涙が枯れるほど泣いたからな。でも、君たちの気持ちもわかるんだ。誰だって人に嫌われるのは辛いもの。
「私は、自分の意見をちゃんと示せなかったのが悔しくて……あの時、ちゃんとヒロ君をパーティーから外すのは反対ってちゃんと言えていれば……。」
――人はね、弱いんだよ……人と意見が違うと不安になるんだ。
俺に対しての行動への後悔が溢れていた。周りに流されて、自分たちだけを守るために、俺を犠牲にしてしまったことに。
ベルさんは最後まで怒ってくれていたが、俺は2人を許した。
負の連鎖は俺が止めれば終わる。
相手の弱みや、人と違うことを理由に相手を攻めるなんて、いつも俺がされていた事と同じだ。それを俺がやってしまったら、いじめっ子たちと同類になってしまうから―
理不尽な事には負けない!
いじめられっ子の意地だ!
憎まれっ子、世にはばかるだ!
いや違うな。いじめられっ子、世にはばかるだ!
いじめっ子には絶対負けない!
そして、俺は絶対いじめる側にはならない!
♢
カヒコとアメワは、泣きながら、ごめんなさいと繰り返した。
二人が落ちついてから、色々と話をした。
全然お互いを知る前に別れてしまったから。
今までのこと、今回のこと
そして、これからのこと――
♢
カヒコの左腕はまだ動かすことができないようだ。
でも、カヒコは冒険者を続けたいと言う。
たとえ右腕しか使えなくても、剣士の道を突き進みたいというのだ。
正直、無謀な挑戦に思えた――
しかし、だ………俺もよくわからない、役に立たない才能だと言われてきたのに、ここまでやってきたんだ。
全く攻撃のセンスは無いし、身体もちいさい。
でも、冒険者を諦めるなんて選択肢は無かった。
なら、俺は応援するしかないだろ?
「――なぁ、カヒコ。それにアメワ。もう一度、僕とパーティーを組まないか? 僕が君たちの盾になるから、君たちが僕の矛になってくれ。どうだろう?」
「――俺たちをもう一度仲間として迎えてくれるのか? ありがとう……ありがとう、ヒロ……。」
アメワも隣で泣きながら頷いている。
おしゃべり妖精は、かなり渋っていたが、ヒロが許すならと最終的に認めてくれた。
『――またヒロを悲しませるようなことがあったら、今度は絶対に許さないからねっ!』
優しい妖精は、そう言って俺のリュックに隠れてしまった。
新人冒険者たちは、今度こそ仲間になった――