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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第2章 ふたりぼっちの冒険
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パーティーの課題

  

           ♢



『それにしても、あれだけ魔力を吸われて、よく平気だったわね?』



 ゴブリンの討伐証明の為、左耳の切り取り作業をしていた俺に妖精が話しかける。


 ダンジョンでは死体が残らず魔石だけが残るので、魔石の数で討伐数を把握できるが、ダンジョンの外では魔物は魔石を残さず、死体を残す為、身体の一部をギルドに提出しなくてはならないのだ。

 これがまた、中々にエグい作業で……。こんな事をしなくてはいけないという事も、冒険者がダンジョン外の魔物討伐を受けたがらない理由の一つだと思う。


 まぁ、フィリアさんの話では、新人の度胸試しの意味もあるそうだけど……。


 事実、ダンジョンでは死体を見ずに済む。

 これでは、前世でやっていたゲームの感覚と同じだ。

 殺す相手から痛みや死が実感として感じられないというのは、事実として恐ろしい事ではないのか。

 

 相手の痛みを知る事は、相手の事を慮れることに繋がると思ってしまうのは、いじめられっ子の卑屈な考えなのだろうか……。



『ちょっと! 聴いてるの?! あんた、障壁まで張り続けてたんでしょ? 魔力切れは大丈夫なの?! ねぇ! ちょっと!』



 気の滅入る作業に取り組んでいたせいか、ぼ〜っと考えこんでしまっていた。


「こめんごめん、ベルさん。ちゃんと頭痛にも目眩にもなっていないよ。平気、平気。」


 心配症のおしゃべり妖精だけでなく、三人の精霊たちもこちらの様子を伺っていた。

 どうやら、みんなに心配されていたらしい。


(1人じゃないんだな〜)


 まぁ、正確には妖精と精霊なんだけど……でも俺を心配してくれる相手がいる!



『だからさ〜、精霊達があんたの魔力をガンガン食べてたじゃない? 自分で障壁を張った上に、精霊に魔力を吸い続けられてたのに、魔力切れを起こさないなんて、あんたの魔力量どうなってんの!?』



 ベルさんの説明によれば、契約した精霊達が能力を発揮するには、契約主から魔力の提供を受けなくてはならないらしい。その量によっても精霊の使える力も変わってくるという。

 

 だから、魔力の少ないベルさんでは精霊にお願いする方法しかなかったそうだ……うむ、納得。


 俺はまだ、精霊たちの事を理解しきれていない為、精霊たちは勝手に俺から魔力を吸い取って使っていたらしい。

 今回はアンチの能力を切っていた時に貯まっていた魔力で足りたから、魔力切れを起こさなかったが、これからは注意しなくては……。



『まぁ、私が指揮していたから、そんな事にはさせなかったけどねっ!』


 なんと!? おしゃべり妖精が頭の上で騒いでいたのは、魔力の食べ過ぎを精霊たちに注意していたらしい。役立たずなんて思ってごめんなさい。



「でもあれだね。俺が精霊のみんなと意思疎通できていないから、しばらくはベルさんから指示してもらわないとだね。なんか作戦を考えないと。」


 今回のゴブリン討伐で色々と課題が見えてきた。

 しっかりと復習、対策して次に活かさなきゃ!



           ♢



 一応、ゴブリンを退治した事を村にも知らせておこうと、新月村へ立ち寄る。しかし、俺が顔を出すと村人はそそくさと家に隠れてしまった。

 

「あ、あの、冒険者ギルドでゴブリン退治の依頼を受けたヒロといいます。洞穴に住み着いたゴブリンは全部討伐しましたので、あ、安心してください。」


 声をかけても反応のない様子に俺は直感した



 ここでも俺は魔物扱いされているのか―



 そう理解した俺は、さっさと街に帰ろうと踵を返した。そこに、おずおずと、1人の少女が家から出て近寄ってきた。


「お兄ちゃん、魔物なの?」


 不思議なものを見るように俺に問いかける。


「ぼ、僕は人だよ。大丈夫、髪は白いけど、ち、ちゃんと人だよ。」


 それを聞くと、彼女は笑顔で三つ葉のクローバーを差し出した。

 

「あのね、みんな何故か怖がってるけど。私は平気よ。お兄ちゃんありがとう。」


 そう言ってクローバーを俺に渡し、家に向かって駆けていく。玄関では、申し訳なさそうに母親が立っていた。


 俺が怖い? 今までいじめられてばかりいたけけど、怖がられた事はなかった。何か理由があるのかな?


 でも、少女にもらった三つ葉のクローバーが俺の心を軽くした。三つ葉のクローバーを渡すというのは、信頼を意味する。少女が意味を知っているかはわからないけど。



「さ、街へ戻って依頼の初達成を報告しよう!いつまでも血だらけのゴブリンの耳なんか持っていたくないからねっ!」


 悲しげに俺の頭を撫でていた妖精に元気よく声をかけて、今度こそ街へと歩き出した。


 そのうしろ姿を、新月村の人々がドアの隙間や物陰から覗き見ていた事に、少年は全く気がつかなかった――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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