才能と能力と努力
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「これで冒険者パーティー【アリウム】の登録は完了よ。個人と同じで、パーティーもFランクからのスタートになるわ。2人とも、頑張ってね。」
俺とベルさんの冒険者証に、パーティー名が刻まれる。
(アリウム、これで君もパーティーの一員だよ。)
今回、ベルさんの冒険者登録も一緒に行った。
妖精族は自由を好む種族で、ベルさんのように冒険者になる妖精なんて、フィリアさんも聞いた事ないそうだ。
もちろん身体の小さな妖精族サイズの冒険者証なんかは用意されてなかった。だから、俺がベルさんの分の冒険者証も首から下げることにした。
「ほんとはね、他人の冒険者証を持ち歩くのは、その相手が亡くなった時とかだから、あんまり縁起がよくないの。だから、ベルさんに合わせた冒険者証が、できないか、職人さんに頼んでおくわね。」
冒険者は危険と隣り合わせの職業だ。だから、縁起とかジンクスなんて事をけっこう気にするらしい。変なジンクスがついて回ってもおもしろくないし、しっかりとお願いする事にした。
『どうせなら、誰よりもカッコイイ冒険者証にしてよねっ! 私によく似合うようにねっ!』
ベルさん、Fランクの冒険者証はあまり自慢できないと思うけど……。
♢
『さて、せっかくだから、才能判定もしていきましょ。ヒロだけじゃなく、私もねっ!』
ということで、2人揃って才能判定してもらうことになった。銅貨10枚……これから稼ぐし、なんとかなるさ!
「フィリアさん、では僕からお願いしますね。」
先日やったばかりだから、そんなに変わってはいないと思うけど。
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クラス 無し
才能1 アンチ/エンパシー
(反対、拒絶 対抗/共感、同情)
才能2 ダブル
(2重、2倍)
スキル 障壁 LV57
同調 LV5
剣術 LV1
投石 LV1
採取 LV1
▲
おぉっ!最近、【障壁】の発動を抑えているから伸びないかと思ってたけど、またレベルが上がってる!
寝てるときは、どうしても勝手に発動しちゃうからな〜。まぁ、強くなるなら問題ないです。
それよりも……【同調】がレベル5になってる?
ん〜……未だにどんな能力かわからないんだよな〜……。
前と変わった事というと、精霊達と契約した事くらいなんだけど……何かしら関係があるんだと思うけど、はっきり解らないな。
「あらら、またレベルが上がってるのね!? 本当はスキルの説明もしてあげたいのだけど、全く情報がなくて……ごめんなさいね」
フィリアさんが申し訳なさそうに話す。
大丈夫、俺はあなたが他の人と変わらない対応をしてくれてるだけで、とても嬉しいですから。
「ところで、まだクラスの設定はしていないのね?私も伝えてなかったかしら、ごめんなさいね。」
フィリアさんの話によれば、クラスとは職業のようなもので、基本的なクラスであれば、その才能に関わらずクラスに就く事ができるそうだ。
――自分の才能を生かして、クラスに就く者
――なりたいクラスに就いて、才能を磨く者
どちらでもら構わない訳だが、前者であればスキルのレベルは上がりやすいがクラスの選択肢は自分の才能に縛られる。後者の場合は、かなりの努力を続けないと目標のスキルのレベルはなかなか上がらないが、クラスの選択は自分次第だ。
才能があれば、基本的なクラス意外にも特殊なクラスや上位のクラスも選べるらしい。
才能に準じないクラスの場合は、基本的なクラスからしか選べず、俺の剣術が成長しないように、相当な努力が必要となるし、スキルは伸びないかもしれない……。
「でも、憧れたら、やりたい気持ちは抑えられないわよね。自分の道は自分で作れるの。それがクラスに就くってことよ。」
ケインさんも言っていたっけ。努力を続ければ、才能が無くても魔法や剣術が使えるようになるって。俺はコツコツ頑張るのは得意なんだ。
「クラスに就くなら、クラス判定もしなくちゃね。基本的なクラスは誰でもなれるけど、特殊なものだったり、上位のクラスは才能やスキルが影響するから、ちゃんと調べた方がいいわ。」
またもや銅貨5枚……むむむ、冒険者ギルドもがめついな……でも、しょうがない……。
「……正直、銅貨5枚は痛いのですが……判定お願いします。」
銅貨5枚を払ってクラス判定を受ける。才能判定に使った石板とは違う石版に魔力を流すと、色々なクラスが表示された。
これは、ちょっと簡単には選べないな。
リストを眺めて、考えることになった。
♢
「ヒロくんも、すぐには選べないでしょうから、今のうちに、ベルさんの才能判定しておきましょうか。」
フィリアさんがベルさんの前に石板を据える。
『私は天才だものっ! きっと物凄い才能に決まっるわっ!』
後ろに倒れてしまいそうなくらい胸を張るベルが、石板に掌をかざし、魔力を流す。
「………。」
『………。』
「……ごめんなさい、ベルさんじゃ手が小さすぎるのと、魔力が少なすぎて、判定できないみたい……。」
まさかの判定不能に、さすがのおしゃべり妖精も一瞬、口を半開きにして無言になっていた――