いじめられっ子、目を覚ます
♢
「んぐぐ…痛ってぇ〜…」
意識がゆっくりと覚醒していく。
自分が何をされたのか。今、どんな状況なのか。しっかりと認識するまでに時間がかかる。
周りを見渡せば、薄暗い空間が広がり、岩肌が剥き出しになっている。顔に触れた岩の冷たさが、朦朧とした頭を徐々に冴えさせた。
「そうだ……僕、ダンジョンの裂け目に落とされたんだっけ……。」
そう、確かに僕は、三人組の冒険者によって、ダンジョンの裂け目に落とされた……はずだが、僕の身体は無事なようだった。
普通なら助かることはありえない。ダンジョンの岩に叩きつけられれば、その身体は原型を留めておけるはずのない高さから落とされたのだから。
助かった理由を探すなら、おそらく、僕の第一の才能、『アンチ』のおかげなのだろう。
どのように作用したのかはわからないけど、あの高さから落とされたというのに、僕の身体には傷がついていない。
才能による特殊な能力。それ以外に僕が助かった理由は思い浮かばないのだ。
そう。名前しかわかっていない才能だけど、僕の命を助けてくれた能力であることには間違いないのだ。
「でも、めちゃくちゃ痛い……。」
身体に傷はつかなかったが、地面に叩きつけられた衝撃は、しっかりと僕の身体に伝わっている。実際のところ、全身かなりの打撲状態だ。
少しずつ身体を動かしてみる。
手は動く。
足も動くようだ。
軋む身体はなんとか動かせるようだ。
ゆっくりと寝返りをうち、仰向けになる。
痛みに耐えながら身体を起こす。
そして、なんとか壁に背中を預け、足を投げ出して座った。
そこでやっと息をひとつ吐き出しながら、理不尽な出来事への恨み言も一緒に吐き出された。
「なんで、僕はこんなに嫌われてるんだろ……僕はなんにもしてないのに。 なんで、僕はこんな酷い目にあわされるんだろ……僕は人が嫌がる事なんてしないのに……」
考えてたら涙が溢れてきた。
悔しくて、悲しくて、涙が止まらない。
今回は、本当なら死んでいておかしくないのだ。
「冒険者に……いや、英雄になれたら、こんなに理不尽な事にも負けない、悲しみにも負けない強い人間になれるのかな。みんなに尊敬されて、みんなから好かれる人間になれるかな。」
普段の嫌がらせや悪口には我慢できた。
でも、こんなダンジョンの奥で、今までに体験したことの無いくらい不安な状況に突き落とされたことで、かかるストレスは尋常ではなかった。
ダンジョンの薄暗い空間で、僕の唯一の自分の持ち物であるリュックも奪われた。
身体中の痛みもあり、しばらく壁にもたれかかったまま、泣き続けた。
やがて泣きつかれた僕は、危険なダンジョンの奥地だというのにも関わらず、身体中の痛みと急激な疲労感を感じながら、再び意識を手放してしまったんだ……。