おしゃべり妖精の嫉妬と後悔
妖精は嫉妬していた――
せっかくヒロに信頼できる仲間ができそうだというのに、自分以外の者がヒロと仲良くしているのを見て、素直に喜んであげる事ができなかったのだ。
――ヒロの隣には、いつも私が居たのに……
いつでもヒロの隣に居たのは自分だったのに、ヒロの隣の定位置まで奪われるんじゃないかと、不安になった。
――私だって、力があればヒロの役に立てるのに……
ヒロとパーティーを組むことになった、カヒコとアメワの2人は、いつもヒロに嫌がらせをしてくる街の人とは違い、とても気持ち良くヒロと話してくれていた。そして、それに対してヒロがとても嬉しそうにしてるのも気づいていた。
――あ〜あ、いつもみたいに、ヒロなんか裏切られちゃえばいいのに……
決して口に出してはいけない言葉を、ヒロの胸ポケットの中で吐き出して、妖精は不貞寝を決め込んだ―
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
昨日、仲間と初めて探索した興奮からか、ヒロはよく眠れていないみたい。欠かさず行っている朝の訓練も、欠伸をしながらやっていたようだ。
いつもなら、ヒロの側に飛んでいって、訓練をすぐ側で応援するのだけど、素直にヒロの顔を見ることができず、テントの隙間から眺めるだけにした。
「じゃあ、今日も出かけようか。」
昨日の手応えからか、今日もヒロはウキウキしているようだ。
――ちぇっ!あんなにソワソワしちゃて……私以外と仲良くするなんてさっ
今日もヒロのポケットの中で過ごすことになりそうだ。
♢
待ち合わせ場所である広場に着くと、既にカヒコとアメワの2人は待ってくれていた。
ヒロは、2人に向かって手を振りながら近寄っていく。ただ、今日、そこにはカヒコとアメワの他にも3人の知らない冒険者達かいた。
「おいおい、もしかしてもう一人の仲間ってのは、この化け物のことなのか!?」
その言葉に、ヒロの顔が一気に青ざめていく。
「まじか!優秀なタンクがいるっていうから期待してたのに、魔物の子供とパーティーなんか組めないだろ!」
不穏な空気を感じて、私もポケットから顔をだした。
「――えっ? 化け物って何? どういうこと?」
カヒコとアメワが慌てて、他の3人に問いただす。
「あの子はね、街で魔物の子供って言われている、嫌われ者なのよ。あんなのとパーティーなんて組んでたら、あなた達もこの街の嫌われ者になっちゃうわよ?」
――そんな!? やめてよ! ヒロにそんな話聞かせないでっ!
ヒロは、5人を前にして、目も虚に立ち尽くしている。
「あなた達、あんな化け物なんかパーティーから外した方がいいわよ? そうだわ。改めて、私達5人でパーティー組みましょうよ。」
「そうそう、そうした方が良いよ。態々、あんな街の嫌われ者と組んだら、君たち、これからこの街で暮らしていくの大変だよ?」
「つ〜か、あいつがいるなら俺たちはお前達とパーティー組まないぜ? 俺たちとあいつ、パーティー組むならどっちにするつもりだ?」
カヒコとアメワは、ヒロと他の3人の顔を何度も見返して言った――
「――ごめん、ヒロ……宿で出会ったこの3人が、ここのダンジョンに行き慣れてるっていうから、6人でパーティーを組もうって話してたんだ……。」
「―――。」
「それで……ヒロ、ごめん……僕らこの街で上手くやっていきたいんだ……ごめんよ。」
「―――。」
――うそでしょ!? やめてってば! 私があんな事思ったから……裏切られちゃえなんてこと、もう絶対言わないから! ヒロを、ヒロを悲しませないでっ!
私は、吸い込んだ息を吐き出すことができない。言葉がでてこない。だから、無言でヒロの顔を見上げることになった。
絶望したように、口を半開きにしたヒロも、言葉を発することができずにいる。
『――あんた達っ!許さないからっ!』
私は、やっとの事で息を吐き出し、そのまま怒りの声をぶつけた。
ヒロは、くるりと後ろを向いて歩き始める。
――ごめんなさい……ヒロ……あんな事、ほんとに現実になるなんて、思わなかったのよ
私は涙が止まらなかった。
後ろからは笑い声が聞こえる。振り返ると、カヒコとアメワが、俯いていた。
『ヒロをこんなに悲しませてっ!絶対に許さないからっ!』
私はポケットから飛び出して、カヒコとアメワに向かって絶叫した。
その声に対しても、他の3人から大きな笑い声があがる。
――私も、私もあいつらと同じ!同罪だっ!……ヒロ、ヒロ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい……
私は、泣きながら白い髪の少年の後を追いかける。
広場には、いつの間にか雨が降っていた―
♢
ヒロは、テントの前で、スープを温める焚き火を見つめていた。
『ごめんね……ヒロ、ごめんね……』
「なんでベルさんが謝るのさ。ベルさんは何も悪くないよ。」
――違うのっ!私はあなたの一番でいたくて、その為にあなたの不幸を願ってしまったのっ! あんな事、思わなきゃよかった……
こんなこと、絶対にヒロには言えない。だから、ごめんなさいなの――
『私があなたのそばにいるから!絶対あなたのそばにいるからっ!』
――あなたの力になってみせるからっ!
「………ありがと、ベルさん。」
ヒロとベルは、夜の帷が降りるまで、泣き続けた。そして、その2人を白くて細い三日月だけが見守っていた――
くっ……