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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第2章 ふたりぼっちの冒険
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おしゃべり妖精の嫉妬と後悔

妖精は嫉妬していた――


 せっかくヒロに信頼できる仲間ができそうだというのに、自分以外の者がヒロと仲良くしているのを見て、素直に喜んであげる事ができなかったのだ。



――ヒロの隣には、いつも私が居たのに……



 いつでもヒロの隣に居たのは自分だったのに、ヒロの隣の定位置まで奪われるんじゃないかと、不安になった。



――私だって、力があればヒロの役に立てるのに……



 ヒロとパーティーを組むことになった、カヒコとアメワの2人は、いつもヒロに嫌がらせをしてくる街の人とは違い、とても気持ち良くヒロと話してくれていた。そして、それに対してヒロがとても嬉しそうにしてるのも気づいていた。



――あ〜あ、いつもみたいに、ヒロなんか裏切られちゃえばいいのに……

 


 決して口に出してはいけない言葉を、ヒロの胸ポケットの中で吐き出して、妖精は不貞寝を決め込んだ―



        ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽




 昨日、仲間と初めて探索した興奮からか、ヒロはよく眠れていないみたい。欠かさず行っている朝の訓練も、欠伸をしながらやっていたようだ。


 いつもなら、ヒロの側に飛んでいって、訓練をすぐ側で応援するのだけど、素直にヒロの顔を見ることができず、テントの隙間から眺めるだけにした。


「じゃあ、今日も出かけようか。」


 昨日の手応えからか、今日もヒロはウキウキしているようだ。


――ちぇっ!あんなにソワソワしちゃて……私以外と仲良くするなんてさっ

 


 今日もヒロのポケットの中で過ごすことになりそうだ。



           ♢



 待ち合わせ場所である広場に着くと、既にカヒコとアメワの2人は待ってくれていた。

 ヒロは、2人に向かって手を振りながら近寄っていく。ただ、今日、そこにはカヒコとアメワの他にも3人の知らない冒険者達かいた。



「おいおい、もしかしてもう一人の仲間ってのは、この化け物のことなのか!?」


 その言葉に、ヒロの顔が一気に青ざめていく。


「まじか!優秀なタンクがいるっていうから期待してたのに、魔物の子供とパーティーなんか組めないだろ!」


 不穏な空気を感じて、私もポケットから顔をだした。



「――えっ? 化け物って何? どういうこと?」


 カヒコとアメワが慌てて、他の3人に問いただす。


「あの子はね、街で魔物の子供って言われている、嫌われ者なのよ。あんなのとパーティーなんて組んでたら、あなた達もこの街の嫌われ者になっちゃうわよ?」



――そんな!? やめてよ! ヒロにそんな話聞かせないでっ!



 ヒロは、5人を前にして、目も虚に立ち尽くしている。



「あなた達、あんな化け物なんかパーティーから外した方がいいわよ? そうだわ。改めて、私達5人でパーティー組みましょうよ。」


「そうそう、そうした方が良いよ。態々、あんな街の嫌われ者と組んだら、君たち、これからこの街で暮らしていくの大変だよ?」


「つ〜か、あいつがいるなら俺たちはお前達とパーティー組まないぜ? 俺たちとあいつ、パーティー組むならどっちにするつもりだ?」



 カヒコとアメワは、ヒロと他の3人の顔を何度も見返して言った――


「――ごめん、ヒロ……宿で出会ったこの3人が、ここのダンジョンに行き慣れてるっていうから、6人でパーティーを組もうって話してたんだ……。」


「―――。」



「それで……ヒロ、ごめん……僕らこの街で上手くやっていきたいんだ……ごめんよ。」


「―――。」



――うそでしょ!? やめてってば! 私があんな事思ったから……裏切られちゃえなんてこと、もう絶対言わないから! ヒロを、ヒロを悲しませないでっ!



 私は、吸い込んだ息を吐き出すことができない。言葉がでてこない。だから、無言でヒロの顔を見上げることになった。


 絶望したように、口を半開きにしたヒロも、言葉を発することができずにいる。



『――あんた達っ!許さないからっ!』


 私は、やっとの事で息を吐き出し、そのまま怒りの声をぶつけた。


 ヒロは、くるりと後ろを向いて歩き始める。



――ごめんなさい……ヒロ……あんな事、ほんとに現実になるなんて、思わなかったのよ



 私は涙が止まらなかった。


 後ろからは笑い声が聞こえる。振り返ると、カヒコとアメワが、俯いていた。


『ヒロをこんなに悲しませてっ!絶対に許さないからっ!』


 私はポケットから飛び出して、カヒコとアメワに向かって絶叫した。

 その声に対しても、他の3人から大きな笑い声があがる。



――私も、私もあいつらと同じ!同罪だっ!……ヒロ、ヒロ、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい……


 私は、泣きながら白い髪の少年の後を追いかける。


 広場には、いつの間にか雨が降っていた―



           ♢



 ヒロは、テントの前で、スープを温める焚き火を見つめていた。


『ごめんね……ヒロ、ごめんね……』


「なんでベルさんが謝るのさ。ベルさんは何も悪くないよ。」



――違うのっ!私はあなたの一番でいたくて、その為にあなたの不幸を願ってしまったのっ! あんな事、思わなきゃよかった……


 こんなこと、絶対にヒロには言えない。だから、ごめんなさいなの――



『私があなたのそばにいるから!絶対あなたのそばにいるからっ!』


――あなたの力になってみせるからっ!


「………ありがと、ベルさん。」


 ヒロとベルは、夜の帷が降りるまで、泣き続けた。そして、その2人を白くて細い三日月だけが見守っていた――


くっ……

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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