ふたりのぼっち
俺は夢をみている
――君は僕なのにさ
――俺は俺だろ?
――僕は君だよ
――俺は君なのかい?
最近いつも同じ夢をみている
――君は僕なのに
――君は誰だい?
――僕は君なんだよ
――なら、俺は誰なんだい。
目の前には白髪、白い瞳の少年が立っている
――君は僕なのに、いつも君ばかり
――どういう事だい?
――僕は君なのに、僕はそこにいない
――君は……
♢
鈍い目眩を感じながら目を覚ます。
(朝の日課やらなくちゃ……。)
無理矢理身体を起こすと、僕の胸の上で眠っていたおしゃべり妖精が転がり落ちた。いつもなら、気をつけてるのに、夢の事が頭から離れなくて……。
転がり落ちたまま眠っている妖精に静かに謝って、上掛けをかけてやる。
テントの外に出て、朝早い森の冷やりとした空気のおかげで、やっと頭が冴えてくる。
(――あれはやっぱり俺だよな。)
夢に出てくる白い髪の少年は、どう考えても今の俺の姿だと思う。
俺に話しかけてくる、俺?
この夢に、どんな意味があるのだろう。
今日も考えながら、棒を振り続けた。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
俺はまた夢を見ている
――ずるいよ君ばっかり、君は僕なのに
――なんでそう思うんだい?
――だって、君は僕なのに、君ばかり得をしてる
――俺が君なら、君も得じゃないのかい?
俺は俺に問いかける
――だって、君は君なんだもの
――俺は俺だよ
――そうさ、君は僕なのに君ばかりなのさ
――俺のせいで、君が損してると言うのかい?
目の前にいる白髪、白い瞳の少年が顔を覆う
――僕も君と一緒に居たいんだ
――君は俺なんじゃないのかい?
――そうさ、僕は君だよ、だから僕を消さないで
――っ!?
♢
俺はやっと理解した
(――君はナナシなのか!? そうか、俺が俺を思い出したせいで、君が消えてしまうのか!?)
俺は、ナナシの人格を押し除けて、ナナシとして生きてきてしまった。あのダンジョンでの出来事の後から――
俺は、俺であって、ナナシではない。
そう、俺は前世の名前を思い出した。
ヒロ
俺は、ヒロとして生きて、そして死んだ男だ。
ごめん、ナナシ……俺が君を押しのけて、取って代わってしまったせいで、君をそんな寂しい所に追いやっていたんだね……
♢
――やっと気づいてくれたんだね
――ごめんよ、今まで気づかなくて
――いいよ、気づいてくれたなら
――君と俺は一緒なんだね
――そうだよ、君は僕さ
――これからは君が俺になるのかい?
――いいや、僕はこのままここにいるさ
――それでいいのかい?
――あぁ、君はもう君として生きているからね。
その代わり僕を忘れないで。人は覚えてくれている人がいなくなった時、本当にその存在が無くなってしまうんだ。
だから、僕に名前をくれないかい?
僕も名無しのままじゃ嫌なんだ。君が僕を忘れないように、君の中で僕が生き続ける為にも……だから、僕に名前を……
♢
俺は目を覚ました。
ごめんな、俺はヒロ。しっかりと思い出したよ。
そして君の願いは叶えるよ。
君には、ちゃんとした名前を送るよ。
君に送る名前は、『アリウム』空に向かって花茎を真っ直ぐに伸ばす可愛らしい花。
俺に向かって、自分の事を「正しくと主張」をしてくれた君に、大きな「幸福」が訪れるように、これから俺と君とで一緒に新しいスタートをきろう。
ここから、2人で1人だ。
君を絶対に忘れたりしない。
俺が君の存在をずっと覚え続けるよ。
自分の中にいるアリウムの存在を認め、二人でいる事を認めたその時、俺に新しい才能が生まれたのがわかった――
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