いじめられっ子、鎖に怒る
今日は冒険者ギルドへ薬草と毒消草を買い取ってもらった。
ベルさんのおかげて、採取活動に失敗が無い。
なので、ベルさんに御礼をする事にした。
「ベルさん、いつも採取の手伝いありがとう。たまには御礼に、ベルさんの好きな食べ物買ってあげるよ。何がいいかな?」
『そうよ!そうよ!存分に感謝しなさいっ!』
ベルさんは、以前食べたことのあるクッキーが食べたいとの事。甘いもの食べると幸せになれるもんね。
♢
街のお菓子屋さんへクッキーを買いに行く。
そのお菓子屋さんは、孤児院の近くにあり、いつも良い匂いがしていて、お菓子を買っている親子を羨ましがったものだった。
―今なら、自分のお金でお菓子も買える!
ところが、俺と付き合いのある人が少しずつ増えてきて、ちょっとだけ人の目を気にしなくなっていた俺は、自分が魔物の子供と虐げられている事を改めて思いしらされてしまった……。
「ちょっと、白い髪の魔物が何しにきたんだいっ!ここは人様にお菓子を売る店なんだよっ!出て行っておくれっ!」
最近は、パン屋のおばちゃんも、肉屋のオヤジさんも、お金を払うとちゃんと商品を売ってくれたから、油断してたよ……まだまだ街の人達に受け入れられらてはいないみたい……。
『ちょっと!なんなの、あの女は!あんなの気に
しちゃダメだからねっ!』
油断していて、ちょっと心にダメージを負っていた俺は、俺の代わりに怒ってくれるおしゃべり妖精に感謝した。
―味方が1人いるだけで、心が軽くなる
「ありがと! ベルさん!」
そうさ、今は1人じゃないんだから。
♢
クッキーを買うことができず、しょうがないので手ぶらでテントに帰ろうとした時、ふと孤児院が目に入った。
孤児院の前には、小柄だけどドッシリとした、いかにも力のありそうな雰囲気の男の子が座り込んでいた。たしかドワーフ族と人族のハーフだったと思われる彼は、実際に力自慢の子供で、俺は彼によく小突かれていた。
そう、いじめっ子だった。
俺のことを魔物と呼び、他の子供達を扇動して俺をいじめていた。いわゆるいじめの首謀者。いじめの中心人物だ。
そんな彼が、孤児院の前で膝を抱えて座っていた。よく見ると、孤児院のドアの隙間から、他の子供達の顔が見える。指を指して彼の事を笑っているのだ。
――あぁ、いじめっ子がいじめられっ子になったのか……。
ドワーフの彼は、力が強く、喧嘩にも強かったはず……。何か失敗でもしたのだろうか。それともハーフという、周りと違う境遇が彼をいじめの対象にしてしまったのか。
――俺がいなくなって、ターゲットが変わったのか
こうも簡単に立場がかわるものか……。
人は自分より弱いものや、自分達と違うものを見つけると、途端に強くなる。その相手から反撃が無いとわかれば、ますます強くなるのだ。
なんと、人は狡くて残酷な生き物なのだろうか……。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
時代劇の好きな彼女はよく言っていたんだ。
「あのね。自分の行動は必ず誰かに見られてると思って行動しなきゃだめよ? あなたが、今日、ショートカットの綺麗な女性を目で追っていたこと、ちゃんと私に気づかれてるのよ。 時代劇の台詞でもあるじゃない? お天道様が見てるよって。悪い事はすぐばれるんだから。」
そのあと決まって 「因果応報っていうでしょ。悪い事をすれば悪い事が。いい事をしていたらいい事が返ってくるものよ。」 と続くんだ。
♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎ ♦︎
そう。イジメは連鎖する。
ターゲットが無くなれば次のターゲットへ。
こんな連鎖、ぜったい許されない。
俺はかつて俺をいじめていた、大嫌いだったドワーフの子供の前に行き、こう言った。
「負けるな。君は1人じゃない! お天道様はちゃんと見てるから。悪い事をすれば悪い事が。良い事をしていたらいい事が返ってくるんだ。だから、君はもう2度といじめる側にはなるんじゃないぞ!」
言われた本人は、突然すぎてよくわからなかったかもしれない。
でも、自分がいじめていた相手から、何かを言われたんだという事には気付いただろう。
俺は、ドアの向こうで息を潜めてこちらを伺っていた、いじめている側の子供達に言い放った。
「僕はいじめを許さないっ!この子をいじめるなら、僕が相手になってやる。白い魔物と呼ばれたこの僕がね!」
俺をいじめていた子を許した訳じゃない。
でも、いじめられているのを黙ってなんかはいられない。
それとこれとは別なのだ。
「君にはちゃんと助けてくれる人がいるよ。」
この行為が、この言葉が、正解だったかはわからない。でも、俺は怒っていたのだ。理不尽に続くイジメの連鎖に。
いつもはおしゃべりな妖精だけど、今は俺の頭に座って、静かに頭を撫でてくれていた。優しい妖精の気遣いに感謝する。
俺は、彼が負けずに立ち上がってくれることを祈りながら、街外れの森へと足を向けた――