いじめられっ子、挑む
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俺は悔しくて眠れず、今朝はいつもよりも早い時間から棒振りを始めた。
優しい剣士が教えてくれた基本の型を繰り返す。
そして、もう一つ、朝の訓練を増やす事にした。
それは石投げ。
前回の初戦闘で、唯一成功したのが、石ころ攻撃だったし、遠距離からの攻撃はかなり有効だったから。
テント脇の大きな木に的を作り、そこに向けて石を投げる。
野球のピッチャーのように振りかぶると時間がかかってしまうので、モーションは小さく、コントロールに注意しながら。
投げる石はそこら中に転がっている。どんどん練習するぞ!
もしかしたら、投石スキルが発現するかもしれないという期待も込めて――
さあ、練習、練習。
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「ねぇ、ベルさん。ベルさんは精霊と仲良しなんでしょ? 精霊魔法かなんかは使えないの?」
俺は、前回のゴブリン戦の後、さっさと逃げて戦いに参加しなかった妖精に、ちょっとした意地悪のつもりで聞いてみたのだった。
『はぁ!? あんた何いってるの? 精霊魔法って何? 私は精霊と仲が良いだけ。だから精霊たちにお願いをして、色々とやってもらうの。 この間は、ちょっとお願いする時間が足りなかっただけよっ!』
へ〜、ソウナンダ。
俺は白い目でおしゃべり妖精に返事をする。
精霊魔法って存在しないのかな?
考えてみれば、精霊箱にいる火蜥蜴くんにも、いつも、火をつけるようにお願いして、その力を使ってもらっていたっけ。
「なら、僕も精霊たちと仲良くなれたら、お願い聞いてもらえるのかな?」
『そうね〜。仲良くなって、姿を見れて、精霊の話が聞けるようになれば、言う事聞いてくれるかもね。そこの火蜥蜴は、随分とあんたに慣れてるし、ここに居たいって言うくらいだからね。だから、あんたにも姿が見えるわけだし、普段のお願いも聞いてくれてるのよ。』
それは、火蜥蜴君は特別ってことか……。他の精霊とは、なかなか仲良くはなれないってことなのかな……。おしゃべり妖精は、腕を組みながら難しい顔で続けた。
『でも、あんたの周りには、何故かたくさんの精霊が集まってくるのよね〜。何故かしらね? なんか理由はあると思うけど……。』
なんかってなに?
『わからないわっ!』
そうか、あなたも結局わからないのね……。
実際、俺に見えているのは、現状は精霊箱の火蜥蜴君だけ。なんとか精霊達とコミュニケーション取れるようになりたいなぁ。
火蜥蜴君と触れ合っていたら、他の精霊達とも仲良くなれるだろうか。これもコツコツ努力することで、なんとかできるかな。
『あんたがさ、頑張ってるのはちゃんと私が見てるから。そのうちなんとかなるわよっ! 私が保証してあげるっ!』――
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「白鳥がさ、水の中では一生懸命脚を動かしてるって故事知ってる? それって見えない努力が大切だって事でしょ?」
ふと、前世の嫁さんの得意な言葉遊びを思い出した。
「だからさ、見えない努力どころか、いつでも頑張ってるあなたは、絶対大丈夫よ。そのうち、ちゃんと周りから認めてもらえるわっ! 私が保証してあげる。」
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――ふふっ
あぁ、そういえば、君の言葉は不思議と俺にやれるような気にさせてくれたっけ。同じ言葉で、君たち二人に保証されてるんだから、これは、頑張るしかないじゃないか!
意地悪のつもりで言ったのに、本人はそれに気づきもせず、無自覚に俺を励ましているという……。調子に乗って戦いを挑んだゴブリンに、ボコボコに殴られすぎて、上手くやれない自分の不甲斐なさが悔しくてしょうがなかったのだけど、少し気持ちが楽になったよ。
――ありがとう、ベルさん。
『ちょっと!何ニヤついてるのよ!気持ち悪っ!』
最後のは聞かなかったことにしよ……。
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