いじめられっ子、試す
今日も今日とて俺は棒を振っている。
先日の冒険者ギルドで試した才能検証で、自分の才能=能力を色々と確認できた。
才能とは関係ない、剣術のスキルが出現していたのだ。コツコツ頑張っていれば、もしかしたら、俺も一流の剣士になれるかもしれない。
そうとわかれば、自然と棒を振る手にも力が入る。
♢
朝の日課を終わらせてからケインさんと買いに行った、宝物の手帳を開いてみる。そこには、昨日調べた才能判定の内容が書き留めてあった。
俺の才能、【アンチ】に付属していた【反対、拒絶 対抗】という説明書き――
そして常時発動してしまっているスキル【障壁】――
手帳を見ながら、これらの情報を整理していると、ふとケインさんの笑顔が目に浮かんできた。
おそらく【障壁】のせいかと思われる、直に他人に触ることが出来ていない現実――
しかし、あの時、ケインさんとの別れ際の握手では、確かにケインさんの手の温もりを感じた……、気がする――
最近では、ベルさんが俺の肩や頭に座れるようになった。そう、今までとは、何かが変わってきている。
その何かが、なんとなく解りそうな気がしてるんだけど……。あと一歩何かきっかけがあれば。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
この世界にはダンジョンがあり、そこには魔物がいて、倒すと魔物は魔石を残し、そして消滅する。
実は、我々が住んでいる地上の世界にも魔物は存在するのだが、ダンジョン以外に存在する魔物は、倒しても魔石を残すことは無いし、死体が残る。
この不思議な違いは、この世界では常識である――
常識であるからか、この世界の人々は、その不思議な違いに全く疑問を持たないようだ。しかし、なんというか、前世での全く違う世界の常識の中で生きていた経験がある俺にとっては、とても違和感のある常識である。
何故、ダンジョンに発生する魔物は死ぬと消滅するのだろうか……。
♢
『ちょっと、なにボケ〜っとしてんのよっ! さっさと薬草摘んじゃいなさいよっ!』
突然、ベルさんに話かけられて、止まっていた手を動かし始めた俺に、ベルさんが話し続ける。
『あんたさ、この間、自分の才能の確認したんでしょ? どうだったの?』
俺は、イマイチよく分からない才能だったよと答えた。ただ、毎日の棒振りのおかげか、剣術のスキルがあったことを伝えると、
『なんだ、戦う力もあるんじゃない! なら、その辺の魔物を倒して歩けば、あんたが目指してるとかいう英雄に、少しは近づけるんじゃない? ねぇ、やってみましょうよっ!』
え〜っ!? マジで言ってるの?
でも、――才能判定で確認した自分の才能を、自分の能力を試したい――という気持ちが強烈に湧いていたのも確かだった。
「よし!やってみようか!」
ただし、後からとんでもなく後悔することになるのだけど……
♢
そう、俺の考えは甘すぎた……。
結論から言おう。俺の剣の技術は、まったく通用しなかった……。
森の奥に住む、ゴブリンという魔物を見つけた俺は、意気揚々と戦いに挑んだ。
相手は3匹のゴブリン。前世の記憶では、かなり弱い魔物だったはず。子供程度の背丈で、手には俺と同じような木の棒を持っていた。俺の実力なら、絶対に倒せるはず、そう思ってゴブリンたちに挑戦したのだ。
先ずは、物陰に隠れながら、麻袋に準備していた石ころを投げる。石ころといえど、投げつればかなりの衝撃になる。3匹のうちの1匹に狙いをつけ、頭に見事に命中。昏倒させた。ここまでは順調。
次に、物陰から飛び出して、2匹目のゴブリンに向かって木の棒を袈裟斬りに振り下ろす。
――やったか!?
と思ったらゴブリンに簡単に避けられてしまった……。
そこからは、情けないことに、もうボコボコである……。
残った2匹に挟まれ、前から後ろから……木の棒で殴られまくりました……。
結局、頭を抱えて亀のポーズになり、アンチバリア頼りの防御体制に……。ゴブリン達がいい加減に諦めてこの場から去るまで、我慢し続けることになってしまった……。
俺に向かって力試しをけしかけた張本人、おしゃべり妖精はどうしていたかというと、さっさとこの場から逃げて、物陰から覗いていたという……。
♢
『これは、あれねっ? あんたに戦闘の才能はないわねっ!』
くっ……悔しいけど、今の俺にはゴブリンにさえ勝てないという現実を思い知らされた……。
そう、初めての冒険は、散々の結果だった――