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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第2章 ふたりぼっちの冒険
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ふたりと一匹


俺は、今日も朝の日課の棒振りをしていた。


 いつも通り、優しい剣士から教わった剣術の基本の型を繰り返す。

 

 上段から右袈裟斬り、左から薙ぎ払い、右下段から逆袈裟斬り、正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――


 朝、静な森の中、棒が空気を切り裂く音だけが聞こえる。そこにまた、いつものように姦しい声が響いた。



『ちょっと、ちょっと! まったく毎日よくやるわね〜っ! 同じこと繰り返してばっかりで飽きないの? ほんと馬鹿の一つ覚えみたいにさ!』



 僕が寝泊まりしている1人用のテントから、リ〜ン♪と、優しい羽音を響かせ、可愛らしい妖精が飛び出してくる。

 いつも文句を言いながら、でもやっぱり彼女は、優しい笑顔で飛び回っている。



「おはよう、ベルさん。今日もよろしくね。」



以前と少し違った、新しい一日が始まった――



       ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽



 ベルさんは、俺のテントに住み着いてからというもの、毎日、俺と一緒に行動している。彼女は、僕の周りを飛びながら、あーだ、こーだ、尽きる事なく喋りつづけている。


 そんな彼女は植物採取の名人?名妖精?である。

まぁ、採取行為自体は俺がするのだが、彼女は薬草や毒消草、木の実や茸など、様々な役に立つ植物が生えている場所を教えてくれるのだ。


 彼女の話によると、


『私たち妖精と精霊たちは……家族? 友達? とにかく仲良しだから、あの子達が色々と教えてくれるの!』


 との事。俺も精霊達の声を聞いてみたい!


『あんたの周りには精霊が集まってくるのよね〜? なんでかしら? あんた、精霊達のこと、わかってあげられないの!?』


 いや……全然わかりません……。

 さっぱりわからないと応えると、


『だって、あんたのそれに住んでいる火蜥蜴だって、あんたの側が心地良いからこのままが良いって言ってるくらいなのよ?? なんでわかってあげられないのかしら!?』


 そう、ケインさん達に頂いた精霊箱、その中には火の精霊、火蜥蜴=サラマンダーが封じられているのだが、ベルさんの話では、精霊にとって、俺の側がとても居心地が良いのだそうだ――



           ♢



 ベルさんとの初めての夕食の際、最近使い慣れてきた精霊箱に向かって呼びかけた。


「火蜥蜴くん、焚き火に点火よろしく。」


 精霊箱から顔を出した火蜥蜴は、慣れた感じに薪に向かって炎の舌を伸ばす。あっという間に薪に火が着き、スープを温めてはじめた。すると、


『ちょっとちょっと!? あんた、火蜥蜴をなんて所に閉じ込めてるのよ!! 可哀想じゃない! 冗談じゃないわ、すぐに解放してあげなさいっ!』



 彼女の話によると、精霊とは妖精の友達であり、そんな友達をこんな風に箱の中に封じ込めてるなんて許せない!……と言うのだ。


「わかった、わかったよ……。火蜥蜴くんを解放してあげればいいんでしょ? 便利でありがたかったけど、ベルさんにそこまで言われたらこのままにはしておけないよ……どうすればいいの?」


 きいきいと騒ぐおしゃべり妖精の剣幕に負けて、火蜥蜴=サラマンダーを封印から解放することにした。

 すると彼女は、精霊箱の脇にある小さな留め金を外し、火蜥蜴に話しかけた。


『さあ、これでそこから出られるはずよっ! こんな箱に閉じ込められて大変だったわねっ! 解放してあげた私に感謝しなさいっ!』


《 ―――。》



精霊箱から顔を出した火蜥蜴は、周りを見まわしたあと、何故か、再び精霊箱の中に戻り、炎の舌を器用に使って蓋を閉じてしまった……。



「 ……………。 」

『 ……………。 』

《 ―――。 》



 ちょっと、どういう事っ!と騒ぐベルさんを他所に、火の精霊はうんともすんとも言わずに精霊箱から出てこない。


 ベルさんを落ち着かせ、火蜥蜴と話をしてもらうと、俺の側にいるのが心地よいから、このままが良いとの事。ベルさんは理解できない!って騒いでいたけど、俺としてはこのまま力を貸してくれるというならありがたい。


「火蜥蜴くん、ありがとう。改めてよろしくね。」



           ♢



――なんて事があり、今は2人と一匹での共同生活である。


 なんていうか、前世の時から、子供と動物にはモテたんだよね。ほんとなら、女性にモテたら良かったんだけど……。いや、ごめんなさい。僕と結婚してくれた嫁さんに怒られます……。



 でも、ひとりぼっちでいじめられてた俺に、新しい家族ができたようでとても嬉しかった。


 そんな彼女と一匹は、採取物の冒険者ギルドへの持ち込みにも付いてきてくれる。

 また前のように襲われたら大変だから……。本当は、危ないからベルさんには留守番していてもらいたいのだけど、私があんたを護るんだからと言い張って……、彼女は必ずついてくるんだよね。


 まぁ、いざとなったら俺がまた、根比べで勝ってみせる。いや、大丈夫……。たぶん……。



 街に行けば、相変わらず俺に向けた冷たい視線と、悪口が混じったヒソヒソ話が聴こえてくるが、今の俺の心は動じない。



――なんて言ったって、今の俺には仲間がいるからねっ!


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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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