ぼっち妖精の憧れ
――彼女は妖精である
妖精は精霊の中で、力の強い物の中から、いつの間にか自然に生まれてくると云われている
彼女は自分が生まれた時、何故自分が存在しているのか理解していなかった
彼女は、自分が何者なのかも理解していなかった
自分の周りには言葉を発しない精霊のみ
ある時、その中にいる自分だけ、何故か少し違う存在なのだという事に気付く
疑問に思った妖精は、出会う精霊、出会う精霊、みんなに何故、自分とあなたたちは違うのかを尋ねて回った
周りの精霊たちは、声帯から発する言葉ではなく、思念と呼んだら良いのか、そういったものでコミュニケーションをとる
何度も、何度も、話を聞いているうちに、自分が精霊の中から選ばれた者なのだということを知った
でも、妖精は、それを知った所で、どうすることもなく、そのまま何もかわらなかった
周りにたくさんいる精霊たちは、彼女に世界の仕組みを教え、そして優しく育んでいった
知識は人を成長させていく
妖精も、少しずつ知識を蓄えていった
世界は広く、山や、川や、森や、海や、ここにはない色々な場所があること
世界には、精霊とは違う存在がいて、国や、街やなどを創り出していること
そうすると、どんどん色々な疑問が、彼女の胸の内に湧いてきたのだ
そして、とうとう、彼女は精霊達とだけ話す毎日に飽きてしまった
精霊たちから教えてもらった、自分たちと違う存在に会ってみたくなったのだ
でも、自分の周りには精霊たちしかいない
――そうだ、私がみんなに会いに行けばいいんだわっ!
突然、それを思いついた彼女は、居ても立っても居られなくなり、〝精霊達の遊び場“から飛びたっていってしまった……
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彼女は、外の世界にでて、街を目指した
精霊以外の存在と話してみたい
そして、とうとう、彼女は外の世界で、とある人族の子供に出会った
その子供は無邪気に妖精である彼女に話しかけた
「あなたのお名前は?」
妖精は首を傾げて黙り込んだ
「もしかして、あなたには名前が無いの? じゃあ、私が名前をつけてあげる!……あなたはリンリンと羽を鳴らすから……、ベル! あなたの名前はベルにしましょ!」
妖精はとても嬉しかった
「わたしとあなたは友達よ。仲良くしましょうね。」
――名前をもらっただけでなく、友達までできちゃった!?こんな嬉しい事ってあるかしら!?
その日、2人は暗くなるまで野原を駆け回り、飛び回って遊んだ
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次の日、またあの子供と会えないかと、昨日遊んだ野原へと飛んで行ってみた
しかし、そこに居たのは子供ではなく、二人の大人の人族だった
子供に妖精の話を聴いた彼等は、妖精を捕まえれば、高く売れるからと、此処にやってきたのだ
子供が家で待っているからと、2人の言葉にすっかり騙されて、簡単に彼女は捕まってしまった
家に連れていかれると、彼女に名前をくれた子供が泣いているのが見えた
「――私のお友達に酷い事しないで……」
おそらく、昨日家に帰った子供は、新しい友達ができた嬉しさから、彼女の事を両親に話したのだろう
子供の話をきいた夫婦は喜んだ
夫婦は、子供から妖精の居場所を聞き出し、捕まえて金にしようと考えたのだ
まんまと妖精を捕まえた夫婦は、彼女に蔓で編まれた籠を被せ、その上に、重しとして分厚い本を置いた
妖精は、籠を持ち上げようとしたが、重くて全く動かせない
――なんで人族は妖精族を捕まえるの? 妖精はあなた達になんか悪い事したの?
彼女は悲しかった……とても、とても悲しかった
その夜、誰もが寝静まるような頃、突然被せられていた籠が外された
――あぁ、どんな目に合わされるのだろう……
そう思って顔を上げると、唇に人差し指を当てながら、名前をくれた子供がそこにいた
「パパとママがごめんなさい……ここから逃がしてあげるから、みんなを許してね。」
子供は、涙を流しながら彼女を窓の外へと差し出した
彼女は、手を振る子供をの周りを一周してから、夜空へ飛び去っていった――
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その日、妖精は名前を貰えた喜びと、人に攫われた恐怖とを同時に経験した
人というものは、他人に与える優しい心と、他人を害する怖さを併せ持っている
自分が一緒にいた精霊たちとは、全く違う理の存在であった
――怖い……でも、もっと、もっと外の世界を知りたい
彼女は、この後も自分以外の存在への興味は尽きる事なく、而して何度も外の世界へ出かけていったのだった
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