ぼっち少年、前に進む
おかげさまで、第二章のスタートです。
町外れの森の中、1人の少年が木の棒を振り回している。白髪、白い瞳の街で魔物の子と嫌われている少年、名前の無い少年だ――
俺は、朝の日課の棒振りをしている。
あの優しい剣士から教わった剣術の基本の型を繰り返す。
上段から右袈裟斬り、左から薙ぎ払い、右下段から逆袈裟斬り、正面からの突き、上段から左袈裟斬り、右からの薙ぎ払い、左下段からの逆袈裟斬り、正面からの突き――
この動きを何度も繰り返す。
朝、森の冷えた空気の中、棒が空気を切り裂く音に混ざって、姦しい声が響いた。
『ちょっと、ちょっと! まったく毎日よくやるわね〜っ! ビュンビュンうるさいのよっ! おちおち寝てもいられないじゃないっ!』
僕が寝泊まりしている1人用のテントから、リ〜ン♪と、優しい羽音を響かせ、可愛らしい妖精が飛び出してくる。
文句を言いながらも、彼女は笑顔で飛び回る。
「おはよう、ベルさん。よく眠れたかい?」
俺は額の汗をぬぐいながら、朝の挨拶を交わす。
今、俺には可愛いい同行者ができていた――
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
1月程前――
俺は、B級パーティー『アイリス』のメンバーとの話し合いを終えたあと、失意を抱えたまま、誰にも知らせずにただ一人、町外れの森で野宿していた。
ケインさんは、あの後、俺の事を方々探し回っていたそうだ。俺を見つけるまで街を離れられないからと、メンバーに頼んで移動の日時を遅らせてまでして、俺を探し続けてくれたらしい。
数日後、森で野宿をしていた俺を見つけた時には、涙を流して喜んでいた。
俺に再開すると、一緒に冒険に連れて行けなくなった事、また、この街を離れる事になってしまった事、そして、俺の為にと思ったことが、かえって俺を傷つけることになってしまったと、ケインさんは何度も頭を下げて謝っていた。
でも、俺としては、俺の事を良く思わないメンバーと一緒にいても、いずれ良くない方向に進んだと思うからと、ケインさんには笑顔で御礼を言った。
街を離れるケインさんが住んでいた部屋だが、空き家になってしまう為、家賃はケインさん持ちのままに、そのまま俺が使わないかと提案されたのだが、あまりにもありがたすぎる提案だったのでお断りさせてもらった。
というか、まだ、街の人からの冷たい目の中、生活する勇気がなかったことも理由のひとつだったけど……。
それならば、何処に住むのかと問い詰められ、この森で野宿すると答えたら、ケインさんに、めちゃくちゃ怒られた……。
街に住むのが嫌ならば、と無理矢理テントをプレゼントされ、せめてここに寝泊まりして、気持ちが変わったらケインさんの部屋へ行くようにと、強く言い含められた。俺が街を離れても、部屋はそのままにしておくからと。
♢
ケインさん達が街を出る前日、ケインさんはユウさんをテントまで連れてきた。
ユウさんは、先日の話し合いの際、ついみんなの意見に同調してしまい、思ってもいないのに、君の事を悪く言ってしまったと言って謝ってくれた。
――後悔するくらいなら、最初から、そんな事しなければいいじゃないか
内心はそう思っていた。思ってはいたが、『人を恨まないで』という、彼女のあの言葉を守る為、気にしないでと答えた。
きっと、これで良いんだよね。
そして、別れ際にケインさんとユウさんから、精霊を封じ込めておけるという魔道具をプレゼントされた。ダンジョン探索の際に手に入れたアーティファクトだという。
どう考えても、とんでもなく貴重な魔道具なはずである。なので、何度もお断りしたのだが、これから一人で生活する上で、必ず役に立つから、どうあっても貰ってくれと、これも二人から無理矢理渡された形になった。
この魔道具は精霊箱といい、小柄なスマートフォン程度の大きさで、中にはすでに火の精霊である火蜥蜴が封じられていた。なんと、煮炊きする時などの火種を作ることができるというかなりの便利道具であった。
初めて俺を助けてくれた時の引き攣った笑顔ではなく、満面な笑顔で俺を見据えたケインさんは、「必ず冒険者になれよ。」と別れ際に握手をし、得意の親指を立てるポーズをしっかりと決めて帰っていった。となりのユウさんは微妙そうな顔をしてたっけ。
――もし……もしも、僕が立派な冒険者になったら、その時になったら、僕も一緒に連れていってもらえませんか?
口には気持ちを出せないまま、別れの挨拶を終えた俺は、涙が溢れそうなのを必死で堪え、ケインさんの優しさと、【暖かい手の温もり】をたっぷり感じてから、お別れしたんだ――
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
ケインさん達『アイリス』は、ダンジョン=レッチェアームへ向けて旅だった。
俺は、今度こそ1人で生きていかなければならない。やれることといえば、ケインさんとユウさんに教えてもらった採取活動。
驚くことに、町外れの森では薬草や毒消草がかなりの量採取することができた。しかも、2人は予め薬草や毒消草の生えている場所を探し、僕のメモ帳に書き足してまでしてくれており、これは、とても助かった。
この沢山の情報が詰まっているメモ帳は、精霊箱と同じく、僕の宝物である。
そうして採取した薬草や毒消草を、冒険者ギルドの受付嬢のフィリアさんの所に納めにいく。
ケインさんの紹介もあったのだろうけど、フィリアさんは俺の事を特異な目で見ずに、いつも優しく、丁寧に対応してくれた。
そんな生活を一週間ほど過ごしていたある日、冒険者ギルド前の広場で、それは起きたんだ――
また、ギルド前広場…