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いじめられっ子、世にはばかる 〜英雄に憧れて〜  作者: 十三夜
第1章 ひとりぼっちの少年
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優しい剣士、苦悩する

 

 メンバーからの否定の言葉の連続に、ケインは唇を噛み締め、言葉を発せずにいた。

 隣には、専属のポーターとして認めてもらう事をとすっかり諦めたのか、身体を縮こませたナナシが下を向いたまま手をにぎりしめている。



「――ユウ、お前ならナナシを専属のポーターにする事、賛成してくれるよな? 」



 一緒にナナシと行動したユウなら、賛成してくれるはず、ユウだけでも賛成してくれれば――



「――みんな反対してるし……。私もそれでいいかなって……。うん、私も反対かな……。」


「――っ!?」



 ユウなら賛成してもらえると思っていたケインは、まさかの返答に天を仰いだ。



「ほら、発案者のケイン以外のパーティーメンバーは反対ということだ。ケイン、諦めてくれ。」



――そうか、誰ひとり賛成してもらえないのか……。それなら、俺がパーティーを抜けてでも……。


 そう切り出そうとした時、ナナシがこの場で初めて口を開いた。



「ケインさん、僕の為にたくさんお気遣いいただき、ありがとうございました。 ケインさん達には立派な目標があって、その為に今まで一生懸命努力してきていて。それなのに、僕なんかのせいで、パーティーがゴタゴタするなんて、絶対に良くないです。この数日間、ケインさん、ユウさんに色々な事を教えていただきました。それだけでも、僕には充分すぎる時間でした。ほんとにほんとに、感謝してもしきれません。」


 

 普段、自信なさげに辿々しく話すナナシはそこにはいなかった。

 しっかりとした口調で、自分の言葉で俺達に向かって話し続ける。



「ケインさんとユウさんに教えていただいた知識を使って、僕は必ず冒険者になってみせます。

 だから、みなさんは、必ず五つのダンジョンの最奥に到達し、英雄になって下さい!」



 さらに、ナナシは続けた。


「ケインさんと過ごした時間は僕の宝物です。ありがとうございました!」



 ナナシは、今まで立っていた場所から、一歩後ろに下がり、その場で深く頭を下げた。感謝の気持ちを示したと共に、これで話し合いを終わらせようという意思表示なのだろう。



――ケインさんに迷惑をかけたくないのだ



「ケイン、この少年もこう言っている事だし、この話は終わりにしよう。あと、今後の予定なんだが、リンカーアームの探索は一度保留にして、パーンも行きたがっていた事だし、ダンジョン=レッチェアームの探索へと場所を変えるべきだと思う――」



 ライトが突然、これからのパーティーの行動予定の変更を提案した。

 いつまでも、ナナシに気を取られ、自分たちの目的以外の事に力を使うなということか……。



 ケインは何も言わず、そっと天を仰いだ。



           ♢



「では、すまないがナナシ君。これでこの話は終わりにさせてもらうよ。僕らはこのまま今後の事についてのミーティングがあるので、この辺りで、ご退席いただけるかな?」



 ケインは顔を手で覆い、ユウは壁の方を向いたままこちらを見ない。他の3人は冷たい視線をナナシに向け、早くここから立ち去れとの圧力を発している。



「わ、わかりました……ま、またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いします。ありがとうございました……。」



 顔を覆ったまま、一言も話さないケインがそこにいる。

 

 もし……もしも、僕が立派な冒険者になったら、その時になったら、僕も一緒に連れていってもらえませんか?



 最後に言いたかった言葉を、結局は言うことができないまま、ナナシは冒険者ギルドの出口へと向かった。



 「ナナシっ――!」



 ケインはその後の言葉を続けることができず、少年の背中を見送ることしかできなかったーーー



       ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 



――やっぱりこうなるのか……。


 だから期待なんてしちゃダメだったんだよ。



――また1人になっちゃったな……。


 期待させるだけさせておいて、かえって辛くなっちゃったじゃないか。



――嫌われ者の僕には、過ぎた望みだったね。


 傷つけるだけ傷つけて、こんな事なら最初から誘わないでよ。



 繰り返し、繰り返し、後悔は続いていく……

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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