それぞれの現在地③
いつでも姦しい2人の少女が、フィリアの前で身体を縮こませて小さくなっている。
お小言をしばらく聞かされているのだ。そういった反応にもなろう。
先程のナギとナミの口喧嘩は、ベテラン受付嬢の堪忍袋をしっかり破り、グゥの音も出ないほどにお説教されてしまった。
俺はというと、争いに首を突っ込んでいなかったことで、お説教は免れているのだが、いかんせん、彼女たちを無視して才能判定の石板を使うわけにもいかず、やはり身体を縮こませてお説教が終わるのを待ち続ける事になっていた。
「――もう喧嘩なんてしないのよ! わかった!?」
終わりかな?
ふうっ、と俺が息を吐いたの見咎めて、最後に「あなたもいい大人なのですから、しっかりと2人の事を見てないとダメですよ!」と、注意された事は御愛嬌ということで………。
で、才能判定はやっと俺の順番に。
さて、冒険者のランクはF級でしょうがないとして、俺の実力はどのくらい伸びたのだろう。
ナギとナミのスキルの伸びはかなりのものだった。
俺だって、かなりの修練を積んだわけだし、大きな修羅場も潜ってきたのだ。それなりの結果が出ていて欲しい。
「まあ、ヒーロさん、【精霊使い】なの? 冒険者登録が初めてなのに、生産職や学者ではないクラスに就いてるなんて珍しい。何故、すぐに冒険者にならなかったの?」
フィリアは俺のクラスが【精霊使い】である事に相当驚いたようだ。
この世界は、ダンジョンの魔物が落とす魔石を重要なエネルギーとして活用している。その為、戦闘職と呼ばれるクラスはかなり優遇されるのだが、その中でも希少なクラスである【精霊使い】に就いているにも関わらず、冒険者として活躍していない事が不思議に感じたのだろう。
実際は、ヒロとして冒険者をしていたわけで、フィリアの疑問は見当違いなのだが、ヒロと同一人物という説明を放棄した為、そのあたりは甘んじて受け入れなくてはいけない。
しかし、この疑問以上にフィリアは驚くことになる。それは――
「………うそ………、第三の才能を授かってるなんて………。」
▼
クラス 精霊使い
才能1 エンパシー(共感、同調)
才能2 ダブル(2重、2倍)
才能3 ムービング(移動、動かす)
スキル 同調 LV45
複合 LV20
剣術 LV25
投石 LV18
採取 LV3
操作 LV40
共有 LV20
▲
そういえば、ヒロとして第3の才能を授かった時、ギルマスから「世に英雄と呼ばれた冒険者は数多いるが、皆、総じて第3の才能を授かり、天賦の際に恵まれた才能持をもつ、所謂、天才たちだ。」なんて言われたっけ。
第3の才能を授かっているということは、そのくらいこの世界では特異なことなのだ――
「すごい………、ヒロ君だけじゃなく、ヒーロさんまで………。今代に第3の才能を授かっている人が2人も現れたなんて………。」
驚きのあまり呆然としているフィリアだったが、俺がヒロと同一人物である事を知っているギルマスのサムの言葉に真剣な表情になった。
「今、この国は乱世だ。王が悪の裏組織に組して混乱を産みだし、王女が正義の下に反乱を起こして、国中を巻き込んだ争いになろうとしている。そんな最中、『英雄』の素質を持った者が2人も現れたのだ。まるで、この混乱を収束させる為――」
なんとも責任の重すぎる話だ………。
俺自身、英雄に憧れていたし、アリウムにも英雄になれと言って送り出したりもしているわけだが、他人からこんな話を聞かされてしまうと、その責任の重みを感じずにはおられないのだ。
しかし、俺には俺の役割がある。
邪な歴史に隠され、悪と名指しされた可哀想な神と、裏で暗躍しているにも関わらず、かつての仲間たちから助けて欲しいと願われる混沌の象徴。
どこまでを許して、どこまでを修正したら良いのか、簡単には決めつけることのできない事柄に、結論を与えなくてはならない。
混沌王ヒルコを封印し、悪なる神として貶められた狐神ウカの解放する。
これこそが、俺の役割。
表の歴史は、アリウムたちが英雄として作り上げてもらい、裏の歴史は、俺が陰日向となり修正していく。
きっと、これこそが、今目指すべき目標だ。
「ヒーロさん、あなたも王女さまの聖戦に参加するのか? ヒロ君たちに合流するつもりかい?」
難しい顔で石板を見つめている俺に、ギルマスのサムが問いかけてきたが、俺はハッキリと否定した。
「――聖戦の方は、【英雄】アリウムに任せます。俺は俺のやるべき事をするつもりですので。」
俺の返答を聞いたサムは、大声で笑い始めた。
悪なる神の使徒たちの目指す所を知っている彼にとっては、俺が『やるべき事』と口にした事でピンときたのだろう。
何せ、あの森の女王アエテルニタスの子であり、氷狼フェンリルの友人である。俺の意図を理解した彼は、大きく頷いた後、俺の肩を叩いた。
「なるほど、やはり君はもう1人の英雄だ。ただ、もしかしたら、歴史に名前を残すのはヒロ君………、いや、アリウム君だけかもしれない――」
サムは、俺の両肩をしっかりと掴みながら、ゆっくりと、そして力強く宣言した。
「――だが、長命の宿命をこの身に宿す私、ハイエルフのハンド=サムが、もう1人の英雄になるであろう君、精霊使いのヒーロの名を語り続ける事を誓おうっ!」
楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!