それぞれの現在地②
ついさっきまで、申し訳なさそうに暗い顔をしていたはずだというのに、急に調子を取り戻したのだろうか。
俺たち3人は、受付嬢ねフィリアの前で気をつけの姿勢のまま立たされている。
「――まったくあなたたちは、仲間同士でっ!――」
流石、荒事の絶えない冒険者ギルドで長年受付嬢を続けていられるわけだ。
美人による、まるで言い訳を許さない様子は、魔物相手に一歩も引かない冒険者さえ萎縮する。
助けを求めようと、ギルマスのサムに視線を投げるが、あからさまに視線を逸らされてしまい、それどころかその行為をフィリアに見咎められて、ますますお説教を喰らうことになってしまった。
「仲が良いから大丈夫だなんて思ってはダメよ! 冗談だった、とか、ちょっとふざけただけ、とか、やる側とやられる側では、受け取り方が違うの!」
「「「………すいませんでした………。」」」
立たされ坊主の3人揃って、フィリアに頭を下げる。90度まで腰を折り、許しがでるまで頭を上げない………、いや上げられない。
たしかに、ちょっとした冗談や揶揄いのつもりだっが、受け取る側の受け取り方がそうとは感じなければ、それを悪意と判断されてもしょうがない。
虐めを受け続けた俺なのに、そんなことも忘れて………、というか、今回はそんな虐めの要素は無かったはず………。
「ほらっ! ヒーロさん! あなた今、そんなつもりじゃないって顔してるっ! 見本になるべき大人が、他人の指摘を受け入れられないなんて情けないですよ! 」
ビクッ!?
顔も上げてないから表情は見えないはずなのに、まさか心の中を読まれたの!? 俺の本音がバレてる………。
いや、ほんとごめんなさい。
「あのね。人の忠告はまず受け入れなさい。『あぁ、そうか』とね。その上で、自分に必要がないと思ったら、改めて捨てればいいの。そうじゃないと、独りよがりで他を受け入れない、狭量な人間なるわよっ!」
まさにその通りです。
フィリアさん、ごめんなさい。
あなたの言う通り、忠告を受け入れようとしていませんでした。
あなたの言葉をただ受け止めて、受け入れない。
そんなんじゃ、反省とは言えないよな。
「――申し訳ない。心から反省します。」
人と人の関係なんて、どんな些細な事で壊れてしまうかわからない。
それがたとえ、心から信頼し合っていたはずの者同士であっても、ちょっとの亀裂がとんでもない大きな仲違いになる事だってあるのだ。
「――ナミ、ごめんな。」
俺は、ナミを傷つけるつもりはなかったとは言わなかった。ただ、実直に。言い訳無し。
そんな俺に、ナミはギュッと抱きつくだけ。
そしてナギも俺にギュッと抱きつく。
頭をそっと撫でてやると、2人は笑顔で俺を見上げた。
「そうよ。それでいいわ。」
フィリアからお許しが出たようだ。
さっきまでの厳しい表情が緩み、普段の柔和な雰囲気に戻る。
「ごめんなさい。私もあなたたちをあんな風に疑って貶めた張本人だから、こんな風に偉そうなことを言える立場じゃないのだけれど………。でも、ほんの些細なことでも、やがて大きな傷になる事があることは覚えておいてね。」
何というか、ありがとうございます。
引け目を感じながらも、俺たちの関係を心配してしっかりと指摘してくれたのだ。
これからも、この人には感謝の気持ちを持ち続けていこう。
俺は、改めてフィリアに頭を下げた。
「さて、それじゃあナギちゃん。石板に魔力を流してね――」
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クラス レンジャー
才能1 グロウ(花栽培)
才能2 ◾️◾️◾️/パペット(糸操り)
スキル 栽培 LV1
操り人形 LV5
血操術 LV20
剣術 LV12
偵察 LV8
罠探知 LV5
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「――おお、ナギのスキルにレンジャーっぽいのが増えたな。」
みんなの役に立ちたいとナギが選んだクラスはレンジャー。
毎日の努力の結果、その職業に合ったスキルが身についたのだ。
まさに積み重ねが生んだ、彼女の努力の結晶。
「ナギ、凄いじゃない! 新しいスキルが増えてるなんてっ!」
最も近い友人であり、姉妹のような関係。さらにライバル同士でもあるナギとナミ。
しかし、ナギの努力の結晶をしっかりと褒め称える事ができるナミの素直さ。これがあるから、先程のような小さな傷くらいではびくともしないでいられるのだろう。
「ふふん。ウチだって何か役に立ちたいからね。でも、剣術のレベルが少ししか上がっていないのがショック………。ナミみたいに戦闘で無双したいのに。」
ナギは、レンジャーとしての成長を喜びつつも、やはりライバルに負けたくない気持ちも強くあるようだ。
「ナギちゃん、剣術レベル12なんて、充分達人レベルなのよ。授かった才能に剣術の要素が無いのにも関わらず、そのレベルに達するなんてとんでもないことなのよ。本当に凄いわ――」
この世界では、神から授かる才能によって人生が変わる。
しかし、ナギが成し遂げたように、『努力』によて人生を変える事もできるのだ。
「――あなたの努力に敬意を表します。」
優しいフィリアの微笑みに、それまで不満気に顔を顰めていたナギにも笑顔が戻る。
うん、ベテラン受付嬢は凄い。
「ウチだって、めちゃくちゃ努力したんだからっ! ナギばっかり褒めないで、ウチのことももっと褒めてっ!」
「にししっ! 悔しかったら新しいスキルを覚えてみせるのねっ! 」
「むむっ! ウチの獣体術のレベルは30よっ! ナギなんか、一番レベルが高くてもレベル20じゃない。まだまだよね。」
「はあ!? 猪女だから真っ直ぐにしか進めないだけでしょ? 」
ああ、また始まった。
さっき怒られたばっかりなのに………。
この後、再びフィリアの雷が落ちたことは言うまでもないよね――
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