機械人形、F級冒険者となる
♢
今、俺たちはギルマスの部屋に居る。
あの乱闘騒ぎの後、ギルドマスターであるサムの謝罪と説明により、気絶させられた冒険者たちは解散になった。
冒険者たちは、精霊使いとして名高いギルドマスター以上の立ち回りを見せた俺に対して、怨みごとを言いつつも、それぞれに賞賛の言葉をかけてから帰っていった。
「――申し訳ありませんでした。」
先程から何度も謝罪を繰り返しているのは、俺を【デビルズヘブン】のスパイと断言した受付嬢のフィリアである。
ナギとナミが一緒にいるにも関わらず、2人を騙して取り入ったなんて発想、平常時なら考えつかないと思うのだが、ギルマスを含めこの街の住民たちが、【聖戦】という極限状態に陥っていることによる発想なのだろう。
【聖戦】といえば聞こえはいいが、これは内戦であり、戦争なのである。
魔物大行進という、これもまた特大の極限状態を乗り越えたリンカータウンの住民たちでも、人と人の殺し合いである戦争への耐性など、容易につくはわけがない。
「もう謝罪は受け入れましたので、頭を上げてください。」
「………いえ、そんな訳には。仮にもわたくしは冒険者ギルドの受付。訪れた方々みなさんを平等に接しなくてはならないのに、勝手な想像でヒーロさんをスパイと断じてしまうなんて、許されません。」
何度こんなやり取りを繰り返しただろうか。
新しい未来の話をしたいのに、なかなか前に進ませてくれない。
「フィリアさんっ! ヒーロ兄ももういいって言ってるし、ウチらももう気にしてないからさっ!」
「そうそう。ギルドのみんなが、色んな心配の中で頑張ってるってこともわかったし、もう頭をあげてよ。」
《 私は許してませんけどね。》
《 わたくしもです。》
《 姐さんたち、厳しいっすね〜。》
なんとも頼りになる妹分たちと、なんとも悩ましい精霊たち。
まあ、どちらもありがたいんだけどね。
いい加減、水に流してしまいたいのだよ。
「………とりあえず、俺はもう気にしてませんので。それより、俺の冒険者登録はお願いできますか? この後、ダンジョン=リンカーアームで活動したいので。」
「あ、はい。取り急ぎ手続きさせていただいてます。今、ギルマスの指示で作ってもらっていますので。ちなみに、大丈夫だとは思いますが、第二の才能は授かってますよね?」
「あ〜、それは大丈夫です。併せて才能判定もしてもらいたいのですが、よろしいですか?」
「かしこまりました。お任せください。」
「ウチもウチも!」
「そうそう、ウチらも才能判定したいっ!」
少女たちの姦しい声が響く中、部屋の扉が静かに開いた。
「フィリア君。全員の才能判定を頼むよ。代金は私が払うから――」
席を外していたギルマスが部屋に入ってくると、申し訳なさそうにフィリアに道具を運ぶように指示した。
「とりあえず、君の冒険者証はこれだ。無くさないようにね。」
手続きをしてもいないというのに、俺用の冒険者証をギルマスがテーブルに置く。先程のフィリアの言葉通り、ギルマスが冒険者登録を済ませてくれたようだ。
「――まあ、F級のライセンスなんてのは、正直こんなもんさ。身分については私が承認しておいた。精霊たちを複数同時に使役できるんだ、実力については申し分ないしね。」
ギルマスは俺の肩に座る嘆きの妖精を見ながらニコリと笑った。美男子エルフの微笑みとは、男の俺から見ても美しいと思える。いや、そういう趣味はないけどね。
「君と契約している波の乙女は上位の存在だね。そちらの嘆きの妖精と霜男も、随分と成長しているようだし、同じ精霊使いとしては羨ましいことこの上ないよ。」
「――この子たちにはいつも助けられています。」
「君が使っていた剣からも精霊の力を感じたのだが、もしかして――」
「ああ、そうです。この剣は精霊剣。鍛治の女神ブリジットが自らの力を込めた剣で――」
「――やはり!? すごいな君はっ! まさか半神にまで登り詰めた精霊まで………。とんでもないことだよ。」
「この子たちの他に、上位の精霊に進化した火蜥蜴と土小鬼と契約していますよ。そのうち紹介できると思います。」
俺の言葉を聞いたギルマスは絶句した。
「――ヒロ君……、いやヒーロさん。君はそんなにたくさんの精霊と契約して、魔力を吸い尽くされたりしないのかい? いや、実際にこうやって精霊たちが具現化したままでいるのだから、そんなことはないのだろうけど………。」
ギルマスの話によれば、一般的な精霊使いは、精霊に力を借りる時にだけ魔力を譲渡する為、魔力を吸われ続けることはないらしい。
俺が契約している精霊たちは、常にこの世界に具現化している。しかも俺から魔力を吸い続けている。
普通の精霊使いなら魔力を吸い尽くされて、到底、精霊たちの具現化など維持し続けるけなとはできないのだという。
「私の母、ハイエルフである森の女王アエテルニタスでも、君のように精霊たちを常に具現化し続けることはできないだろうね。とんでもないことだと思うよ。」
《 ふふっ、ご主人様は特別な方ですから。》
黒いドレスに身を包み、日傘をクルクルと回しながら、嘆きの妖精が上機嫌に笑う。
「――精霊たちとこうやって話ができるのだって、奇跡みたいなものですよ。まあ、そちらのレディは元からお喋りが得意でしょうがね。」
長命種のハイエルフの一族であり、ウカ神の使徒の一人、森の女王アエテルニタスの子であるリンカータウンの冒険者ギルドのギルドマスター、ハンド=サム。
精霊使いとしての大先輩であり、火の精霊イフリートの契約者からの賞賛は誇らしく、自分に力を貸してくれている精霊たちも一緒に褒められたようで、とても嬉しかった――
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