無口な重戦士、話す
「この子を【アイリス】の専属のポーターにしたい。みんな、なんとか認めてくれないか?」
一週間ぶりにパーティーのメンバーが集まったというのに、開口一番、リーダーが驚く事を言い出した。
すぐに反応したパーティーのヒーラーであるソーンが、その申し出に不満の意を示す。
「ちょっと、この子を専属のポーターにするなんて、どういう事? 私たちに相談もなく勝手に決めるなんて、どうかしてるわよ!?」
正論である。
我々【アイリス】は、ダンジョンの最奥を目指しているパーティーである。
勿論、生活や装備の充実を計るために素材や魔石もある程度集めるが、それを中心に活動することは基本手にはやらないのだ。
――ましてや、ヴァンパイアと一緒に冒険などと……
その少年は、白い髪に白い瞳、伝説として伝わる、悪なる神の眷属の一将、ヴァンパイアロードの特徴にそっくりだ。
もし、それか、またはそれに近い存在だとしたら、パーティーは酷い危機に落ちいる可能性があり、生存率がかなり低いものになってしまうだろう……。
「――みんな、街の噂なんかに影響されすぎだ。ナナシはそんな存在じゃないよ。1人の普通の子供なんだ。」
ケインは真剣な面持ちで語り続ける。
「みんな、どうにか認めてくれないか? 頼むよ。」
深く頭を下げるケインの事を少年は悲しげな表情で見つめていた。そして、少年も同じく頭を下げた。
「なぁ、ケイン。お前は噂を信じるなと言うが、俺にはこの子の姿はどうしてもヴァンパイアに見える。だいたい、火の無い所に煙は立たん。この子が魔物の子供と噂されるには、やはり、それなりに理由があるはずだ。」
冒険に不安要素はあってはならない。
みんなが英雄になる前に、パーティーを全滅なんてさせるわけにはいかないのだ――
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
重戦士パーンは、パーティーのタンク役として、他のメンバーに攻撃が向かぬように、最前線にてパーティーの為の壁になるのが仕事である。
生まれつき身体が大きかったパーンは、第一の才能に『不動』と言う攻撃に耐える為の才能を授かった。第二の才能も身体能力を上げるものであり、自然と冒険者になり、パーティーのタンク役についた。
――俺は仲間を護る盾。仲間は必ず俺が護る!
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パーンは【アイリス】に誘われる前、違うパーティーに所属していた。
そのパーティーは、ダンジョンの最奥を目指しており、人数も10人と多い編成で、リーダーを中心に纏まりもよく、周辺からも大きな期待を寄せられてていた。
彼等は順調に探索を繰り返し、ある日、この国の西にあるダンジョン=レッチェアームの地下30回にまで到達し、一つの部屋を見つけた。
そこには、人の姿をした魔物がいた。
人の姿で人語を話し、彼等に問いかけてきた。
『君たちは、此処へ何をしに来たんだい。』
突然の事に驚き、メンバーの誰もが返答できずにいると、その人の姿をした魔物は言葉を続けた。
『素材や魔石を手に入れるだけなら、上の階で充分だろ? さぁ、さっさとお帰りなさい。』
丁寧だが、酷く冷たい声で言い放ち、部屋の奥へと戻ろうとする。
「きっとこのダンジョンの主だ! 使徒に違いない!みんな、討ち取るぞっ!」
リーダーが声をあげ、それに反応したメンバーがそれぞれの武器を手に魔物に突撃した。
一瞬、反応が遅れた俺はパーティーの最前線に陣取るべく、慌てて盾を構え走り出そうとした――
『ウカ様の慈悲深い思いにも気付かず、ズカズカと土足でウカ様の眠りを汚す下郎共め!!なぜ、ウカ様はこんな者達の為に……!!』
魔物がそう叫ぶや否や、突貫したメンバーが全員血を吹き出して倒れた。
残ったメンバーは何が起きたかわからず、恐慌をきたし、我先と部屋の出口を目指し走り出す。
俺も、前にでようと踏み出そうとした足を反転させ、必死に出口を目指す。
無理だ、あんな化け物に勝てるわけない……
『ウカ様の慈悲を知らぬ愚かな者どもよ、さっさと帰るが良い。2度とウカ様の尊い思いを汚すなよ!!』
人の姿をした化け物は追っては来なかった。
見逃されたのだ……。
なんとか、地上まで辿り着けたメンバー俺を含めて三人。俺は仲間を護れなかった……。
その後、誰が言い出したのかパーティーは解散した――
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「俺は反対だ。」
無口なパーンが明確に反対の意見を唱えた為、ケインは閉口した。まさか、この男にはっきりと反対されるとは思っていなかったのだろう。
「冒険者パーティーに不安要素があってはならない」
――瞳の色は違えど、あの時の人語を話す魔物、ヴァンパイアロードに似た子供となど、一緒に冒険をするなど、考えられるわけがない……。
ウカ=悪しき神です。