機械人形、疑われる
久しぶりに訪れたリンカータウンは、高い壁に囲まれ、その入り口は頑丈そうな門が設えられていた。
以前、リンカータウンで活動していた頃は、こんな壁も門も存在しなかった。
どちらかといえば、自由に行き来のできる開かれた街だったはず。それが今は、まるで古代の城塞都市のように変わっていた。
門番曰く、「魔物大行進が治ったあと、街の防衛の為に街総出で作り上げた」らしい。
確かにこの壁と門があれば、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないだろう。
驚いたのが、壁の周りに巡らされた堀と、門に設けられた枡形虎口だ。
これについては、この街に駐在していた国軍の将、バロンド=クレージュが、先のま魔物大行進防衛戦で使われた陣地防衛の仕組みを、そのまま使っているそうだ。
それって、冒険者たちの陣地に作った枡形虎口を参考にしたってことだよね。
俺自身、自分の知識なんて、他人の真似の蓄積で出来ているようなものだけど、こうやって良いと思ったものをすぐに取り入れられる柔軟な考えて方を持っているとすれば、ここに駐在している国軍の将軍とは、その辺の有象無象とは一線を画していると言えそうだ。
この街ならば、たとえ魔物大行進が発生したとしても、かなり耐えることができるに違いない。
ただ一つ懸念があるとすれば、混沌の時代に突入したこの世界に、俺が知る戦争の技術が広まってしまったこと。これが、対魔物の為にのみ使われることを願おう………。
「ひっさしぶりね〜、このギルドに来るの。」
「フィリアさん元気かな。こんにちわ〜。」
冒険者ギルドのリンカータウン支部。
重い扉を勢いよく開けると、建物の中にバンッと大きな音が響く。
慣れた足取りで正面にあるカウンターに行くと、懐かしい受付嬢の声が聞こえた。
「――ナギさん! ナミさん!」
「フィリアさん! おっひさ〜っ!」
声の主は、優しい笑顔で俺たちを迎えてくれた。
ベテランの受付嬢は、カウンターから飛び出すと、2人の少女をまとめて抱きしめた。
「よかった。ソーンさんたちと一緒にいなかったから心配してたのよ。でも、その様子なら心配いらなかったみたい。なんか、立派になったわ。」
ギュッと抱きしめられた2人の少女は、自分たちを心配してくれていた受付嬢に、やや照れた笑いを浮かべながらも、抱きしめ返していた。
「………ソーン姉たちはお姫様と一緒に戦ってるんでしょ?」
「ええ、【デビルズヘブン】の殲滅と、その後ろ盾だった国王を倒す為、その旗頭たるテラ・オリンス王国、第一皇女マヨリ様と共に【聖戦】に参加してるわ。」
「アリウム兄がチンピラたちについて行ったから、【デビルズヘブン】と戦う事はわかってたけど、どこでどう間違ったらお姫様と一緒に行動することになるのやら………。」
「ほんと、アリウム兄はおっちょこちょいだから、お姫様な前で粗相しないといいけどね。」
「ハハハ、それは笑えないな。」
改めて、信頼しているフィリアから現状を聞かされると、アリウムたちの置かれている状況に驚かされる。普通、王族と庶民が関わる事なんてないだろうし。
「………2人もあの人のことをアリウムさんとよぶのね………。」
フィリアの声が急に低くなる。
聞けばアリウムからは、魔物大行進の時に死戦に立ち、その際に本当の自分の名を思い出したと説明されたらしい。
あながち嘘でもないか………。
元々が、名無しの『ナナシ』。そんな彼に俺が送った名前が『アリウム』だ。
『ヒロ』である俺が、彼から消えて、彼自身が自分の身体の主に落ち着いただけ。
順序は別にして、彼が本来の名前である『アリウム』となったことは間違いない事実なのだから。
ただ、俺とアリウムでは性格にだいぶ違いがあるわけだけど。
「そうそう。あの時は大変だったのよ。」
「そうそう。あの時は大変だったね〜。」
フィリアがその時の事を問うが、2人の少女はか「大変」の一言で誤魔化す。
まあ、本当の経緯なんて説明しても信じてもらえないだろうし、説明できるなら、アリウムたちがすでに説明しているだろう。
不満気なフィリアだが、傍に立つ俺に気づくと、スッと居住まいを直して俺に向き合った。
「あなたは………、初めてお会いしますね。ナギさん、ナミさんの新しいお仲間ですか?」
「あ、この人はヒーロさん。ウチらの仲間なの。ただ、まだ冒険者登録していないから、ここで登録したいと思って。」
「――ヒーロと申します。よろしくお願いします。」
突然俺に話が振られ、ちょっと動揺したが、さすがはベテラン受付嬢。フィリアはしっかりと仕事モードに切り替わると、丁寧に説明を始めた。
「あらあら、そうですか。ナギさんとナミさんのご紹介ということで良いですかね。冒険者ギルドでは、いくつかの条件さえクリア出来ていれば、大歓迎です。あちらのカウンターで説明いたしますね。」
受付カウンターに案内され、簡単な説明を受ける。どれも知ってる話ではあるが、初めて冒険者登録することになっているし、素直に話しを聞き続けた。
「フィリアさん、ヒーロ兄はちゃんと第二の才能も授かってるし、大丈夫だよ。」
「そうそう。ソーン姉たちもヒーロ兄の事は知ってるし、何よりウチらがヒーロ兄の実力は保証するって。」
旧知の相手に、ナギもナミも安心しきっている。
かくいう俺も、特になんの問題も感じずにいたのだが………。
「――ただ………、失礼ですが、そのお年まで冒険者登録したことがないのに、急に冒険者になろうとしたのは何故ですか? もしや、裏組織で活動していた為に、今まで冒険者登録していなかったとかではないのですか?」
えっ!?
なんだ!?
どういうことか、いつの間にか、周りを複数の冒険者で囲まれている。
しかも、その中にはギルドマスターであるサムの姿も。
俺の新しい冒険者生活に風雲急を告げることになった。
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