機械人形、進む
「お前たちの言う通りだな。俺たちは、俺たちのやるべき事をやろう。その為にアリウムと別れたんだからな。」
少女たちが、その白い瞳と紅い瞳で俺を見つめている。
姦しく話しているが、いつの間にか険しい顔をしていた俺を心配してくれていたようだ。
「そうよ。ヒロ兄は考えすぎ。」
「ナミ、だから、ヒーロ兄だってば。」
「あはは、そうね。これからヒロ兄は、ヒーロ兄って呼ばなきゃね。」
「そうだよ。あんまり変わらないけどね。」
キャッ、キャッと賑やかに、俺の鬱な雰囲気を吹き飛ばしてくれた。
「とりあえず、今日は一日休んで、明日リンカータウンに向かおう。」
「「うん!」」
アリウムたちは国の在り方を正す為、俺たちは、ヒルコの暴走を止める為。それぞれの目的に向かって進んでいく。
仲間がいれば、きっと上手くやれる。
そう信じて前に進んで行こう。
「あれ、でもアリウム兄たち、フーサタウンに向かったんだよね? じゃあ、あの街が消えちゃった、ことも世界に伝わるね。」
「そうだな。でもいずれは世界に伝わることだから。それが、早いか遅いかだけの話さ。」
おそらく相当な混乱も起きるだろうけど、しょうがない。
だいたい、俺たちだって原因はわからないのだから。
いずれにせよ、今、この世界は混沌の時代に突入していることは確かだろう――
♢
「ナギちゃん、ナミちゃん、気をつけてな。」
「アメワにも身体に気をつけるように伝えてくれ。」
「今回の魔物たちみたいな集団が、まだ他にもいるかもしれない。くれぐれも油断するなよ。」
「いってらっしゃい。」
次の日、ナギ、ナミの両親やカヒコの両親。そして、村に帰って来なかったアメワを心配するアメワの両親に見送られて、俺たちはリンカータウンへと出発した。
こうやって送り出してくれる家族の為にも、仲間たちの安全はしっかりと守らなくては。
「「 いってきます! 」」
♢
リンカータウンへと続く街道は有難いことにしっかりと舗装されている。
かつて、冒険者ギルドに通ったり、ダンジョンに潜る為、何度も歩いた道だ。
お揃いのマントを着込み、やや足早に街道を歩く。
普段なら2時間ほどの行程だが、この調子ならもう少し早くリンカータウンに着くだろう。
アリウムたちとは入れ違いになってしまったが、久しぶりのリンカータウンだ。
冒険者ギルドの受付嬢フィリアや、ギルドマスターのサムと会うのも久しぶりだ。
「あ、久しぶりだけど、久しぶりって話せないのか。」
三日月の村人同様、元々のヒロを知る者達に、俺自身のことを説明できる自身がない。
《 ご主人様はご主人様なので、気にすることはありません。》
「おっ、さすがヒンナ。いい事言うね。」
「そうそう、何回同じ事をみんなに言わせるのかしらね〜。」
珍しく、日傘をさしながら嘆きの妖精が歩いている。いつもなら俺の肩に座るか、リュックに入りっ放しにのに。
《 そうね。ご主人様は気にしすぎる。もう、ヒーロと名乗る事に決めたのなら、何も気にせず、ヒーロと名乗れば良い事でしょうに。》
普段あまりお喋りをしない波の乙女も、水筒から顔を出して呆れ顔だ。
「そうだっ! いっそのこと、ヒーロという名前で新しく冒険者登録しちゃいなよ。元の冒険者章はアリウム兄が持ってるんだし。」
「いいんじゃない? 身分証明書にもなるし。久しぶりにみんなで才能判定もしない? ウチらもかなり強くなったし。」
「いいわねっ! そうしよっ! ね、ヒロ兄。」
「だから、ヒーロ兄でしょ! ナミ、いい加減慣れなさいよ。」
なんと賑やかな行程だろうか。
俺、一言も話してないけど、2人の少女と2人の精霊の会話だけでお腹いっぱいになりそうだ。
霜男がその雪だるまの形をした頭をリュックから覗かせて、ボソッと一言。
《 ………ご主人様、お疲れ様です………。》
肯定も否定もしなくても、すでにこの後の予定が決められていく。
まあ、彼女たちのお喋りを邪魔するのもアレだし、俺のことを考えてくれてのことだろうし。大人しく彼女たちの指示に従おう。
考えてみれば、機械人形=ゴーレムの身になり、それを説明できなければ冒険者として活動できない。
フーサでは、俺の事を知る者はほとんどいなかったから、ヒロとしてダンジョンに向かう事ができたが、リンカータウンでは難しいかもしれないのだ。
「うん。みんなの言う通りだな。リンカータウンもレッチェタウンも、ヒロの事を知る者が多すぎる。機械人形になった経緯を説明するのは大変だし、それを信じてもらえる確証もない。これからは、完全にヒーロとして生きよう――」
前世の頃の姿になって、しかし名前は別人に変える。不思議な因果だが、この姿で生きていくという事実は変えられないのだから、生まれ変わる意味でも俺はヒーロになろう。
「――ま、この機械人形=ゴーレムに封印されていることが、生きていると言えるかはわからないけどね。」
最近、この自虐ネタを使いすぎただろうか。
この話をした後、リンカータウンに着くまでの間、2人の少女と2人の精霊にしこたま怒られ続けることになり、その様子を見ていた霜男が、さっきよりももっと深いため息をつくことになる。
《 ………ほんと、ご主人様、お疲れ様です………。》
楽しんで頂けましたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!