別の道
「………で、どうするの?」
「どうするのって?」
「だから、ヒーロさんをなんて呼ぶのかってこと。」
あ、そっち。
俺はまた、アリウムとお姫様の聖戦に参加するかについて聞かれるのかと思った。
『聖戦』とは、村人たちが話していたアリウムとお姫様が【デビルズヘブン】と、その後ろ盾になっていた王様たちを倒す為の戦いのこと。
今、アリウムは【絶対防御】の二つ名を持つ英雄として、最前線で戦っているらしい。
ライト、ソーン、ギース、ハルクのチーム【アリウム】の面々は、冒険者ギルドのグランドマスター代理であるヒルダと共にアリウムと合流。そのままお姫様の護衛をしながら、首都に向かって進軍中なのだそうだ。
進軍中というのは、リンカータウンに駐在していた国軍の将バロンド=クレージュとその配下の国軍を引き連れてこの『聖戦』に参戦しているからだ。
リンカータウンでの裏組織の拠点であった孤児院は、子供たちだけを残して大人たちは消えていたらしい。つまり、チンピラ3人組の話はやはり真実で、【デビルズヘブン】の関係者は危険と判断してさっさと逃げたのだろう。
村人の話によれば、フーサタウン、レッチェタウン、そして首都にも同じように孤児院が存在し、また【デビルズヘブン】のアジトもあるだろうとのことで、お姫様率いる国軍は、フーサ、レッチェ、首都の順に進軍し、【デビルズヘブン】を殲滅を目指しているらしい。
これって、戦争みたいなもの?
いや、内戦ってことかな?
【デビルズヘブン】を殲滅するには、王様が率いる国軍とも戦わなくてはならなくなってるんだよね。
これって、この国の一大事だよな。
内紛じゃなく、内戦だもの。
この国の在り方が変わるかもしれないってこと。
しかも人と人との殺し合いなんだ――
「ねえ、ヒーロ兄じゃ、今までとほとんど変わらないじゃん。」
「だよねぇ。ハッキリと区別した方がいいんじゃないの?」
今までの相手は魔物だった。
ゴブリンのように人に近い姿をしていたとしても、相手が魔物と割り切ることができた。
新月村の住人や、【デビルズヘブン】の刺客と戦ったこともある。
しかし、戦争となれば、大勢の人同士の戦いだ。
大量の人が傷つき、死人も大勢でるだろう。
そんな恐ろしい事に足を突っ込んで、俺は耐えられるのだろうか。
いや、俺だけじゃない。
ナギやナミのような少女をはじめとした俺の仲間たちは耐えられるのか?
戦争――歴史の中に何度も何度も繰り返される最悪なイベント。これを乗り越えなければ、新しい世の中に変わることができないのか?これがなければ、今より良い世界を作ることができないのか?
「――神々は、この悲惨なイベントを許すのか?」
「えっ!? ヒロ兄どうしたの?」
「ナミ、ヒロ兄じゃなくて、ヒーロ兄でしょ?」
「いや、そうじゃなくて、ヒロ兄、めちゃくちゃ怖い顔してるって………。」
善なる神々と悪なる神の戦いの神話。
伝えられなかった真実は、神々が長命種が短命種を虐げる事を辞めさせ、人同士の争いを止めようとしたことが始まりであり、そして、それによって起こった歪みを正そうとして起こった神々の争いであった。
つまり、元はといえば、平和な世界を望む神々が行った結果の顛末であったはず。
それなのに、今、この国で始まったのは内戦。
人と人が殺し合う戦争なのだ。
「………なんで………。なんで、神々はそれを許すのか………。」
筋が通らない。
そう、矛盾している。
争いをなくす為に『楽』をさせ、それによって堕落した者たちに、『試練』を与えた。
神々が全知全能、完全無比な存在なのであれば、きっとこんな間違いを犯すことなんかないはずなのだ。
人地味ている――以前、俺が感じた神々に対する評価だ。
戦争という最悪なイベントを許してしまう神々という存在に、今、俺はそんな思いを益々強くしている。
「神々って、なんなんだろうな………。」
前世、神の名を謳って起こった戦争は数知れない。
この世界でも同じことが繰り返されるとするならば、神は何をしているのだろうか。
「――神様なんてあてにしちゃダメよ。」
「――えっ!?」
ナギの言葉が、やり場のない怒りのスパイラルに落ちていく俺の思考を止めた。
「だってそうでしょ? いつだって、世の中を動かしてるのは私たち生き物でしょ?」
「そうよねぇ。神さまが色々なシステムを作ったとして、私たちは、それを利用して生きているだけ。道具だって、使う者がいて初めて役に立つんだし。」
「―――!?」
なんか、この娘たち、凄いな。
神々の作ったシステムを人等が利用しているだけだなんて。
神々を道具に例えるなんて………。
でも、考えてみたら、それも真理か――
「だからヒロ兄。とりあえず、ウチらはウチらの道を進めばいいんだよ。」
「ヒロ兄じゃなくて、ヒーロ兄でしょ。まあ、ウチらに任せておけば大丈夫よ。」
「そうそう。アリウム兄にはソーン姉たちが付いてるわけだし、あっちはあっちに任せて、ウチらはウチらの道を行こ。」
「とりあえず、ウチらはヒルコの封印でしょ。」
「あれ、だけど封印するときはソーン姉が居ないとまずいかもねぇ。」
「あ、そうね。とりあえず、魔石を集めて封印用の機械人形が作れたら、ソーン姉に来てもらわないと。」
なんか、大人なはずな俺なのに。2人の少女の先を見る目に感心させられっ放しだ――
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